第四話 勇者の力
「秋橋にしてはよくやったわね」
サテラの余裕を感じる声が聞こえた。
助かった……
「何が起きやがった……?くそぉ……」
男は起き上がり叫ぶ。
「俺を舐めるなよォォォォォォ!!」
剣を取りこちらに迫ってくる。
ひえ……なんて剣幕だ。
「サテラ!ありゃどうすりゃいいんだ?」
「そうね……まぁみてなさい」
サテラは手から煌めくオーラを放つ。俺は一瞬にして理解する。"星の煌めき"
また魔法か。でもあんなやつに……
「へっ……!そんな魔法ごとき俺が壊してやる」
男はサテラの無数の星の弾幕を剣でいなしている。
「さぁどうする?もう手はないぞ!」
「く……」
サテラも冷や汗を流し始めた。
終わりなのか?
後ろを見るとカシャとラシュアがいる。
(なんだってこんな子供に……俺たちが何したって言うんだ!)
「死ねぇぇぇ!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は咄嗟に叫んだ。いや叫ばされたような感覚に近い。
「なにっ!?」
気づけば男の剣はもう一つの剣と交じあっている。そう……俺の剣と……
「ぇえ!?俺の剣って!おいなんで俺がこんな剣持ってんだよ!」
「知るかよアホ!」
男は焦った顔をしている。
サテラは「何が起きてるの……」とつぶやいた。
「俺もわかんねぇよサテラ。でも今はやるしかねぇ!」
男は相当怒ったような顔をしている。
「俺の太刀を止めやがっただと!!何者だこいつ!!」
「俺の名は秋橋。それ以上でもそれ以下でもないね!」
俺は闇のオーラを纏った剣で男の剣を押し上げる。
ってかなんで闇のオーラが……?
勇者の力じゃないのか?
「つえぇ……なんて強さだ……」
そう呟くと男は消えていた。
「どこ行きやがった!?逃すかよこの犯罪者!」
俺は青く光る洞窟内を隈なく見渡す。
(どこ行きやがった……!!)
「おそらく……アジトに戻ったんだわ」
「アジト……?」
サテラは手を顎に当てながら考察する体勢でいた。
そして話し出した。
「えぇ……10年前水界をおびやかす謎の組織がいたわ。組織の名は"アフィスア"」
「アフィスア……?」
「そのアフィスアから逃れるために城の地下に私達カシャとラシュアでこの空間を作ったのよ」
なるほど。ここはサテラ達のアジトだったのか。それじゃあその……アフィスア?って奴らを見つけてやる!
そしてこの手で倒す。
「秋橋……?なんだか怖い顔してるわよ」
「え?あ、ああすまん」
そうか?さっきの戦闘の名残りかな?
そんな事を思ったその時。
「っっ!!」
ドサっと重い物が落ちる音がする。
俺の体のようだった。
「あれ……体が動かない…………」
「秋橋大丈夫!?」
サテラの焦る声が聞こえる。
どうやら力を使いすぎた……か。
「おはよう秋橋」
サテラの声が聞こえる。
「疲れて寝てた……みたいな展開だな?」
「えぇそうよ。そして二日間寝ていたわ」
二日!?高校生の二日間は無職ニートの1週間みたいなもんだぞ?ちくしょー無駄にした。
「って!そういやあの男は!?」
俺は辺りをキョロキョロする。
「きっとアジトに戻ってまた何かを企んでるわ……」
こえぇ……この世界の恐ろしさ。分かった気がする。
「そりゃヤバい話だな。でも、大丈夫!この秋橋様がなんとかしてやるよ!」
サテラはそんな俺を見て「自分で様つけてるよ……」と呆れている。でも本当に様でもいいだろ?なんたって今の俺は。
「だって勇者の力を持ってるんだから!」
「いえ……それは嘘よ。いや…………嘘ではないんだけど9割くらい間違いかな?難しいわね」
……?どういう意味だ?
俺はサテラに困惑した顔を向ける。
「実はあの力の根本は"闇"だったのよ」
!!
だからあの剣は闇のオーラを纏っていたわけか…
色々と合点が行く……
「ってかあの剣は…!?どこいった?」
いきなり出てきたんだよなぁ……あの剣。
「おそらく……秋橋の身体の中」
「は!?こわっ!ちょっと怖いって何それ」
身体の中に剣!?
何そのホラー。
「まぁ安心して。物理的な話じゃないから。簡単に説明するなら"思念エネルギー"みたいなもんよ」
「全然簡単じゃねぇな。そりゃ」
思念エネルギー?想いの具現化みたいなもんかな。
そう考えて顔をサテラにやる。
サテラは深刻な顔で言う。
「とにかくもうあの剣を出すのは危険ね。闇の力に飲み込まれる可能性があるから」
「嘘だろおい。あの剣しか唯一の俺の護身道具ないんだよなぁ」
またあの黒服の男みたいな奴が現れたらジ・エンドだぜ。
「確かにそうね……しかもあの剣からは凄まじい闇のオーラもそうだけど光のオーラもあったわ。それも並の光エネルギーとは違う……強大な"光"そのものって感じ?」
また訳のわからないことを言う……
でも確かにあの剣を持っていた時は希望のようなものを感じていたのは確かだった。
サテラは続ける。
「じゃあ呪術師に話を伺いましょう。もしかしたら闇を払いとってくれるかもしれない……パワーダウンは否めないと思うけどね」
なに……!そんな便利な存在があるのか。当然と言えば当然か。呪いをかける側もいれば払う側もいる。世界の定理だ。
「おねぇちゃん達何話してるの?朝ごはんまだぁ?」
ふと気づくとカシャとラシュアが二人でやってきていた。相変わらず可愛い奴らだ。
「おっとごめん忘れてた……今作るね」
「俺の分は?」
まさか俺だけ省いて朝ごはん作るなんてことは……
「知らないわよ。その辺で買ってきなさい」
……で、ですよね〜。
「ていうのは嘘。今の秋橋はいつどこでその力を解放するかわからないし、もし下手に開放でもすれば水界の人達が危ないわ……あとで一緒に買いに行きましょ」
それってつまり……もしかしなくてもデートなのでは……
「二人ともデートに行くの?行ってらっしゃい〜」
カシャがニヤニヤしながら言う。
「べ、別にそういう意味じゃないわよ!ただ秋橋が危ないって思っただけで」
「そ、そうだよな」
なんだよこの空気……
そ、そうだ!
「そうだサテラ!ついでに呪術師も観に行こうぜ」
うまいこと話を逸らす。
「そうね」
サテラはサラッとそう言い放ち、プイッとそっぽを向いた。
俺はサテラがキッチンに行くのを見た。
ん?キッチン?
「おいサテラ。キッチンなんて有るのか?」
ここ城の地下だろ?
「はぁ……そういえば説明してなかったわね。カシャとラシュアも魔法を使えるのよ」
「へぇ〜それは知らなかった」
俺がそう言うとラシュアとカシャはなんだか嬉しそうにしていた。
「だからさっきのアフィスアの男との戦い。あの時も後ろでカシャとラシュアは援護してたわ。星屑の連鎖っていう魔法でね」
サテラは何やらウインクをする。
(なぜウィンク?)
「え……そうだったのか。じゃあ俺一人で追い込んだわけじゃないのか」
それを聞いたカシャが喋る。
「そうだよ〜。1/4は私たちの力だよ。えっへん。ね、ラシュア」
「うん……」
ラシュアが静かに答えた。この二人相変わらず見た目と性格真逆だな。
ん?待てよ。ということは3/4は俺の力……?
「そして3/4は闇の力によるところが大きいでしょうね」
「そこは俺の力って言ってくれないのな」
俺は苦笑しながらそう言った。
なんでそう捻くれるかな。
そしてご飯を食べ終えたサテラ達と俺は呪術師を探す旅に出ることにしたのだ。旅とは言ってもそんなに遠くないらしいが……水界人のことだ。恐らく俺にとっては長旅になるのだろうな。
「じゃあ行くわよ。忘れ物はない?」
サテラがラシュアとカシャに問う。
「はーい」
「はーい……」
二つ分の声が同時にハモる。
俺なんか忘れ物したくてもできない。何もないからな!
俺たちは城の地下からゴキブリのように這い出て、(それは表現的にアウトか)城から出た。
「ん?そういえば城の兵士は?見つかったらヤバいんじゃないか?」
辺りを見渡すと兵士はいなくて……
「そうなのよね……何故か居ない。」
「おかしいわね……」とサテラは呟く。
「考えてもわからないわ。王の召集命令でもかかってるのかも」
なるほどな。そんな話をして俺たちは5分くらい歩いた。そうしたら一つの町に着いたようだ。
〜第五話に続く〜