プロローグ
何も無く、ただ平坦な床がどこまでも広がっている『虚無空間』で対峙しているのは1人の魔人と1人の女神。
魔人――少年は限りなく黒に近い紫色の薄い防具を纏い、背には2本の大剣を掲げている。
柄20センチ、刀身縦120センチ横30センチのかなり大きめの大剣だ。
少年の身長は170センチ程で、引き締まっている。
まだ大人になりきれていない顔立ちは、美少年というよりも好青年といった感じだ。
その少年をしっかり視界に捉え、瞬き1つせず全神経を集中させているのは、綺麗な白髪を腰まで伸ばした女神だ。
露出度が高い服に、100センチほど刀身があるレイピアを腰に備えている。
身長は高く、その露出度からもスタイルの良さを感じさせる。
2人の間には無音の時間が過ぎるが、少年が動く事でその時間は終わりを迎えた。
少年は強く地面を蹴りこみ、50メートルほど離れた女神に急接近する。
その間僅か0.2秒。
少年が通った空間には、紫色の粉が舞っていた。
これは少年が自身の能力『紫粒子』を使用して移動した証拠だ。
超高速で移動したにも関わらず、衝撃波どころか風ひとつ吹いていない。
瞬時に女神の目の前まで移動した少年は、背中に手をまわし100キロ程の大剣を軽々しく抜く。
抜く力をそのまま斬る力に変え、女神の脳天目掛けて振りかざす。
しかしその攻撃は女神のレイピアから繰り出されるたった一撃の刺突によって相殺されることになる。
苦い顔をする少年に対し、女神は余裕の笑みを浮かべている。
何も無い『虚無空間』には轟音が響き衝撃波が無限に広がる空間を伝う。
少年は即座にバックステップで距離を取る。しかし、ここで女神が追い討ちをかける。
レイピアの剣先を少年に向け、純粋な魔力の力のみで急接近した。
少年は咄嗟に避けようとするが、魔力の発動が間に合わず左肩に鋭い痛みが走る。
しかし少年はこれをチャンスとみて、右手とレイピアが封じられている女神に向かって大剣による横斬りを試みた。
だがそれは、女神が魔法を唱えることで失敗に終わる。
「『女神の慈悲』」
直後、左肩に突き刺さっていたレイピアを中心に中規模爆発が起こった。
内側からの爆発により、腕は簡単に吹き飛び、数十メートル体も吹き飛ばされた。さらにそれだけではなく、『回復能力低下』『思考速度低下』『魔力妨害』の3つの妨害魔法が少年に付与された。
爆発によって宙に吹き飛ばされた少年は空中で姿勢を制御しながら女神を見る。
女神が立つ床に浮かぶのは赤色で描かれた大規模魔方陣。
この世界では幾度となく見た物だ。
しかし、たった今女神が発動しようとしている魔法を見るのはたったの2度目だった。
少年は再び苦い顔をする。
(........この魔法。出来ることなら2度と見たくなかったな)
そう思いながら地面に着地し、来るであろう大規模魔法に備える。
「『究極の陽炎』!!!!」
女神は魔法陣が完成すると共に、その技名を唱える。
『究極の陽炎』。火属性魔法の最上位魔法だ。
その威力は核魔法も凌駕し、地球でいうアマゾン全てを一瞬のうちにして更地に出来るほどだ。
普通、超精鋭魔法師団数万人で発動出来るかどうかの魔法だが、女神はたった1人でいとも簡単に発動させて見せた。
少年に直径6000キロほどの超高温火球が襲い来る。
そのサイズ地球の約半分。
伝承にも、『究極魔法』を食らって無事でいた者は一人しかいないそうだ。
しかし少年が動じることは無い。
その理由は明白だ。
少年は1度、『究極魔法』をくらって耐えたことがあるからだ。
伝承ではなく現代で耐えた唯一の1人としても少年は知られている。
故に避けない――いや実際には避けられない。
避けるには最低でも半径3000キロ分離れなければならない。
何も無い『虚無空間』でそんな距離を瞬時に移動できる訳もなく、強制的に受ける以外の選択肢はないのだ。
しかし少年に焦りはない。
あの時と同じように、自身を『紫粒子』から作り出す『多重結界』で守ればいいだけの話だ。
やがて『究極の陽炎』が2人を呑み込む。
『多重結界』で守ってもなお、皮膚を焼き尽くすような灼熱と眩い光が襲ってくる。
対する女神はビクともしていない。
――反則だろ....
と少年は思うも、それを覚悟でここに来ていることを思い出し、すぐさま攻撃に移る。
それからも激しい戦いは続き、互いが持てる力の全てを使い殺しあった。
そして戦い始めてから1ヶ月後。
この永きに渡る激闘は、少年の敗北といった形で幕を閉じたのだった。
そして少年――ルイメントは"2回目"の転生を果たした。