1)お前少しは自分の評判を考えろ
「俺は、ちょっと変わったやつと一緒に、この町を救った。それが俺の誇りだ」
ベンは最初にロバートを病院に連れて行った。院長先生と、あれこれ難しい話をするロバートに、ベンは少し尊敬の念を抱いた。
王太子様の名代ってことは、仕事を任されてるんだから、ようは大店の主が番頭をよこしたようなもんだ。先日、会った顔役の言葉を思い出す。お綺麗な顔に、真剣な表情をうかべ、院長先生やお医者様たちと話し合う姿に、こいつは凄いやつなのだと思える。
沢山の子供が、親を喪い孤児院にいる。孤児院も限界に近いから、援助をしてやって欲しいという院長先生の言葉で、次の行き先は孤児院に決まった。
孤児院には子どもたちが溢れていた。
「人手が足りないのです」
聖アリア教の司祭と、ティタイトの祭司は、口を揃えていった。死者が多く、葬儀が多い。司祭も祭司もシスターも巫女も、手一杯なのだ。
イサカの町には、二つの宗教が有る。ライティーザの多くの民が信仰する聖アリア教と、ティタイトの民が信仰する草原の神だ。二つの宗教への寄付で、運営していた孤児院はそれなりに安定した経営をしていた。あっという間に破綻したらしい。司祭も祭司も、ベンは知っている。くたびれ果てた二人の様子に、ベンは悲しくなった。
「それはお困りでしょうね」
同情しているのだろうが、このお綺麗なロバートの顔はお綺麗なままだ。
「仮に、食事が手に入るとなれば、孤児院の手伝いをしてくださる方を確保できるでしょうか」
「おそらくは。今はみな、己が食べていくのに必死です。稼ぎ手を失った家族も少なく有りません」
「なるほど。では、今日また、夕刻になると思いますが、おうかがいします」
何かを思いついたらしいロバートは、孤児院を後にした。
だからといって、誰に声をかけているのだ。黄昏時、町を案内してくれと言われたベンは引き受けたことを後悔していた。
ロバートはよりによって、夜に町の通りに立つ、春を売る女達に声をかけていた。お綺麗な顔の男に、声をかけられた女達は舞い上がり、次に唖然としていた。
そうだろう、そうだろう。このお綺麗な顔で頭がいい男は、少々変わっている。
「この町で、働き手が足りず、困っている方々がおられます。御給金については、近々相談になるでしょう。ただ、当座の食事は、そちらが用意してくださることになっています。夜、こうして町に立つよりも、安全で食事が確実に手に入るお仕事に、ご興味はありませんでしょうか」
一部の女達はついていくと言った。そりゃそうだろう。身体を売る仕事は、客がつかねばどうしようもないのだ。仕事さえすれば、確実に食えるというのはありがたい。養っている家族がいるといった女には、ロバートは家族の分の食料も用意すると言った。また、ついていくという女が増えた。
司祭と祭司は、ロバートが連れてきた女達を見て唖然とした。町で春を売る女達を連れてきたことに驚いたのか、その人数に驚いたのかは、わからない。シスター達や巫女達のほうが、対応は早かった。
女達に名前を聞き、あれやこれやと世話を焼き、苦労話を互いにして打ち解けたようだ。
ロバートは、司祭や祭司と人数が増えた分、必要になる食料や、女達が休む場所について相談を始めていた。
話が一段落してからは、ロバートは子供たちの遊び相手になってやりながら、女達の様子を見ていた。それなりにやっていけそうだと判断したのだろう。
いつもよりも少し遅く、ベンはロバートが泊まっている役所の建物に送り届けた。
翌朝、ベンは町の噂に頭を抱えることになった。
王都から来た男が、夜、女を漁っていたというのだ。何処にあの人数の女をひとまとめにして、お楽しみをするやつがいるのだと言いたい。どんな変態だ。あの生真面目に、そんな気概は、爪の欠片ほどもない。ベンも妻も知っている。妻は心配しているほどだ。
「そんなわけがないだろう」
ベンは、噂を確かめに来た物好きにくってかかった。
「あの女達に、孤児院の仕事を紹介してやっただけだ。指一本触れてねぇよ」
ベンの怒鳴り声に、ロバートに会ったことが有る物好きは肩をすくめた。
「まぁ、そうだろうな。俺もそう思った。悪いな、疑って。ちったぁ、色気づいたかと思ったりもしたが、やっぱりか」
どうやら、ベンと腐れ縁のこの男は、違う意味で噂が気になったらしい。
噂を立てた連中と、この男なら、どちらがロバートに失礼なのだろうか。
おそらくロバートは、何も気にしていないだろう。ロバートは、アレキサンダー様の名代として、使命を果たすということに熱心なのはいいが、他のことに無頓着すぎる。
昨日、噂が立つことに気が回らなかった自分を、ベンは殴りたかった。賢いが、いろいろとおかしなロバートを、ベンは守ってやるつもりだったが、油断した。あの生真面目が、商売女に手を出すわけがないと解っているのは、身近にいるベンと、ベンの知り合いくらいだ。根も葉もない噂であっても、一度広まってしまったものを、止めることは難しい。
「なんで、こんな面倒事に首を突っ込んじまったんだか」
声に出してみて、ベンは苦笑した。自ら望んで首を突っ込んだのだ。
「まぁ、巻き込まれてやるか」
なにせ、この町ではベンが一番ロバートをよく知っている。賢いくせに、賢くない、面白い男だ。ベン以外に、あの男の相手が務まるやつなどそうそういないだろう。
ベンは、今朝も、ロバートを泊まっている役所に迎えにいくため、辻馬車で出発した。