12)もう一度、会いたいもんだ
「また、来てくれねぇかなぁ」
ベンの言葉に、ダグラスも頷く。難しいことは二人ともよくわかっている。
王都と行き来している商人達、旅芸人達の話を最初に聞いたとき、町の連中は喜ぶと同時に驚いた。正式な通達が届いた時、イサカの町はお祭り騒ぎになった。
ロバートとローズの結婚を喜び、叙爵を讃え、町は沸き立った。町長達は、二人が結婚した日と、叙爵された日を、町の記念日に決定した。
「公爵様、宰相様ってのが信じられねぇよなぁ。確かに、賢かったが」
ちょっと世間知らずで、面白い奴だったという言葉を、ベンは飲み込んだ。
「武王マクシミリアン様の子孫で、今は、ロバート・マクシミリアン公爵様と言われてもなぁ。俺にとっては、ハルバートの師匠、ロバートだ」
「随分と懐かしそうだな。俺から見ても、かなり厳しい師匠だったが」
早朝、ダグラスに稽古をつけていたロバートは、普段とは別人のように、とてつもなく厳しかった。
「時間がなかったからな。最初の頃、俺は基本を舐めていたし。あれは俺が悪かった。基本を舐めていた俺が、今は、一に基本、二に基本だ。あいつは、いい師匠だ。宰相とは、もったいない」
ダグラスらしい言葉に、ベンは苦笑した。
「どうせ今も誰かに、稽古をつけてるだろう。息子が生まれたそうだからな」
ベンが会った時、ローズはまだ可愛らしいお嬢さんだった。あの可愛らしいお嬢さんが、ロバートと結婚し、妻となり母親になったと思うと感慨深い。
カールが王太子様から預かってきた、例の約束は果たしたという伝言に、ロバートも男だったかと、町の連中と大笑いした日が懐かしい。
王都と地方とを結ぶ街道が整備は進んでいる。定期的に地方を巡り王都との間に手紙を届ける制度も出来た。宰相になったロバートの仕事だ。ベンと妻にも、ロバート・マクシミリアン公爵とローズ・マクシミリアン公爵夫人の連名で、手紙が届けられた。一家の宝物だ。
「ロバートが、公爵様で、父親で。信じられねぇなぁ」
若いくせに、妙に落ち着いていて、時に老成した雰囲気も漂わせていたロバートは、どんな父親になったのだろうか。ベンが思い出すのは、忙しいのに、町のあちこちで子供達と遊んでやっていた姿だ。
「俺もお前もそれだけ老けたってことさ」
「ちげぇねぇ」
ダグラスとベンは笑った。
例の約束は、第四部第十二章4)男達の悪戯 での約束です。
一旦完結にします。
また、続きを書き溜めたら、投稿再開の予定です。
おつきあい頂きありがとうございました。