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其の四 静寂の夜

大変お待たせいたしました(汗)

遅筆の理由は後書きで。

……三月二十四日 宮古湾……



『春日丸』の甲板に、その艦魂は寝ころんでいた。

つまらなそうに空を眺めては、時々寝返りを打つ。


「あ〜あ……」


退屈そうな声を上げたとき、近くに誰かがやって来たことに気づいた。


「春日さァ、またこんな所で寝ちょったでごわすか?」


笑いながら言うその男は端正な顔立ちで、武士の身なりをしていた。


「なんだよ東郷、この船も私の体みたいなもんだ。何処で寝ようと勝手だろ」


そんなことを言いながら、春日は身を起こす。


「この前、お藍の所に『見える人間』ができたからさ……」


「ああ、例の……お藍さァの悪戯で頭ァ打ったっちゅうお人でごわすな。いやはや、世の中いろんなことがあるもんじゃ。人生何が起こるかわからん」


「で、お藍がそいつにべったりで……」


「ははは、よっぽど嬉しいんでごわすな。思い出せば阿波沖の戦、初めて春日さァと会うたとき、おいどんも結構はしゃいだのう……」


「……要は、お藍があたしと遊ばなくなったんだよ」


ムスッとした表情をする春日。

東郷と呼ばれた薩摩藩士は一つ唸って腕を組んだ。


「まあ、一時のことではごわはんか? そのうち、熱も冷めるでごわすよ」


「そうかなぁ……」


春日は再び、ごろりと寝ころんだ。


「お藍さァとはいつも喧嘩しちょりもすが、やはり仲は良いのでごわすな」


東郷の言葉に、春日はふんと鼻を鳴らす。


「そりゃ、あいつはいい奴だよ。でも時々、あたしの八重歯をからかったり、お前のことをただのお喋り野郎とか言うんだぜ」


「ああ、そいは……おいどんの不徳と致すところで……」


苦笑して頭を掻く東郷だが、続いて意味深げな言葉を口にした。


「とはいえ、のんびりしていられるのも後少しかも知れんでごわす」


「え、どういうことだよ?」


春日は起き上がった。


「箱館への上陸が早まったのか?」


「いや、ここはすでに敵地と言ってもよい場所でごわす。何が起こるかわかりませんど」


「へん。もう幕府軍には大した海軍力はないだろ」


鼻を鳴らす春日だが、東郷は首を横に振った。


「敵を侮ってはいかんでごわす。相手の裏を掻くのが戦の基本」


「知るかよっ」


舌を出し、吐き捨てるように言う春日。

そして立ち上がり、東郷に詰め寄る。


「とにかく、暇なんだ。少し付き合え」


「はっはっは、良いでごわすよ」







……東郷の予感は、実際に当たっていたと言える。

新政府軍は既に、不審な船が接近しているという情報を入手していたのだ。

しかし新政府軍艦隊の中心であった佐賀藩士たちは旧幕府軍を明らかに軽視しており、

薩摩藩出身の陸軍参謀・黒田清隆は海軍に対し、斥候を出すよう促したが、海軍副参謀の石井富之助は「虚報である」として受け入れなかった。

黒田と石井は陣中で激しく口論し、最後に黒田は「所詮は海軍などそんなものか!」と吐き捨て出て行ったという。




そしてその夜。

薩摩藩籍の『春日』乗組員は入浴以外の外出を禁止し、警戒態勢をとるように命令された。

しかし『甲鉄』乗組員たちの大半は艦から降り、陸の宿で羽を伸ばしていたのである。


「千之助、わいもたまには降りたらどうじゃ」


甲板で、古賀は今村からそう言われた。

古賀はお藍と会ってから今まで、アームストロング砲の点検を理由に艦に残っていたのだ。


「いや、おいは艦さいおるよ」


「付き合い悪いのう。今夜くらいはおかでのんびりせぇ」


「この艦も結構居心地ええから、構わん。そいにいつ何が起きるか分からんじゃろ」


「そう気張らんでも……どうせ幕府に大した力はなか」


「確かに幕府ばもう弱っとるばってん、やはりいろいろ気になる。悪いが今日は残るたい」


古賀がここまで艦上に居ようとするのには理由がある。

夜が来ると、お藍の様子が妙に落ち着きが無くなるのだ。

まるで怯えているかのように……


「まあ……無理にとは言わんが……」


今村は何処か心配そうな顔で、声をくぐもらせた。


「どうしたんじゃ?」


「うんにゃ……そいじゃ、また」


今村は古賀を一瞥し、艦から降りていった。

彼の態度に多少不審さを感じつつも、古賀は後ろを振り向いた。


「お藍、おるんじゃろ?」


声をかけると、マストの影から金髪の少女がひょっこりと顔を出した。


「いつから気づいてたの? 驚かそうかと思ったのに」


「はは、おいを甘く見るでなか」


古賀は笑って見せた。


「仲間たちは自分わがとこばおるんか?」


「うん。今は多分、乗組員たちと過ごしてるはずだよ。あ、古賀さん……」


お藍はふと、心配そうな顔をする。


「無理して私と一緒にいなくてもいいよ……? ずっと艦にいるのは大変だし」


「気にせんでよか。女子おなごを守るのも武士の務め」


「ふふっ。なんか大変そうだね、お侍様って」


笑っている彼女の顔に、どこか不安の色があるのを、古賀は見て取った。

一見間抜けだが、意外と勘の鋭い男なのだ。


「ねえ、古賀さん。私たち、戦争をしに行くんだよね……?」


「ん? ああ」


唐突な問いかけに、古賀は若干戸惑った。


「古賀さん、戦争は好き?」


「そりは……好きなわけなか」


「だよね……ごめん、ちょっと訊いてみたかっただけ」


お藍は笑って誤魔化す。

うち解けるにつれて、彼女が脆い部分を見せる頻度が上がっている気がした。


「お藍、何か心配事ばあるじゃろ?」


「えっ?」


今の内に腹を割って話しておくべきだと判断し、古賀は思い切って切り出す。

お藍は明らかに動揺していたが、慌てて首を振った。


「無い、無いよ。本当に」


「おいを舐めるなと言ったじゃろ。……話してみい」


お藍は俯いた。

数十秒沈黙が流れ、おずおずと口を開く。


「……私、やっぱり兵器なのかな……?」


「!」


相談相手になる気でいた古賀だが、言葉に詰まった。

その言葉の重みはそれほどの物だった。


「昔ね、漁船の船魂にこう言われたの。『私から見れば、貴女は船じゃない。化け物だ』……って」


「そ、そがんこと……」


「日本に来たとき、まるでおとぎ話の世界に来たような気分だった。ここで一生を終えるのもいいかなって思った。でもこの国は、戦争のただ中だった」


お藍は震える声で一気に言った。

古賀は未だに、かける言葉が見つからない。


「私……化け物になるしかないのかな? 古賀さんが時々言う妖怪よりも、もっと酷い化け物に……」


……古賀は陽春の言葉の意味が分かった。

「鉄に覆われた艦も、内は脆い物」……如何に強力な装甲艦と言えど、それに宿るのは一人の少女。

そして絶えず、自分の存在に悩み続けている。


「……お藍……その……」


古賀が必死で何か言おうとしたとき、お藍は首を振った。


「いいの、古賀さん……話したら、少しだけ楽になったから。ありがとう、聞いてくれて」


「お、お藍……!」


「何も言わないで!」


お藍は叫んだ。


「……ごめん、今日はもう寝る……」


お藍の姿が光に包まれたかと思うと、姿を消した。

艦内の何処かへ行ったのだろうか。

古賀は自分自身への情けなさに、拳を握りしめた……。






……3月24日深夜……



「……回天さん……ごめんなさい」


船縁に立つ『高雄丸』の艦魂が、回天に頭を下げる。

闇の中でも、彼女たちには互いの姿が見えた。

『蟠竜丸』との合流を諦め、宮古湾を目指す途上、嵐によって機関を損傷していた『高雄丸』が故障を起こしたのだ。


「大丈夫。それに、貴女のせいではない」


回天は微笑んだ。

彼女は高雄を妹のように扱い、高雄も回天に懐いている。


「先に行って、待っているから」


幹部たちの審議の結果、作戦は続行されることとなった。

『高雄丸』の故障は何とか航行可能な程度故に、先に高速を誇る『回天丸』が接弦攻撃を行い、途中から『高雄丸』が参戦するという筋書きだ。


「……行くわね」


「うん……必ず、追いつくから」


『回天丸』の煙突が煙を噴き、外輪が勢いよく回り始め、水上を走り出す。

二人の艦魂は、それぞれの船縁から手を振る。

そのとき回天の側に、野村利三郎が歩み寄ってきた。


「……俺も、移乗攻撃に参加することになったよ」


回天は一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻る。


「……そう」


「お前達が……艦魂が見えるようになったのは、恐らく俺の死期が近づいたからだと思う」


その言葉にはっとして、回天は野村の方へ振り向く。


「土方さんや相馬には見えてないらしいからな、あの二人は生き残れるかもしれない」


「……考え過ぎよ」


「いや、なんとなく分かるんだ。死に相対してきた、俺にはな」


野村は悲しげな微笑を浮かべていた。

そして、回天に告げる。


「……回天、自分から逃げるな。自分の運命さだめから目を背けるな」


「私は……野村さんみたいに、強くなれない」


「いや、なれる」


俯いて言う回天に顔を上げさせ、野村は言う。







「強いから生き残れるんじゃない。生きることが、強くなるということだ」







………







〜艦魂人形劇〜


小夜「……何? このタイトルは」

流水郎「某掲示板で、作者が遊びでやってる座談会をこんな風に呼称していたんでね。いっそのこと開き直ってみようかと」

絹海「まあそれはいいです。さて、話していただきたいことは二つありますが、まずは更新停滞の理由からお願いします」

流水郎「本当に申し訳ありません。訳あって他に優先しなければならない小説があったり、あと単純にモチベーションが上がらなかったり(理由は……語りたくないのでご勘弁を)、様々な理由が重なり合ったわけです。気分転換に艦魂抜きの戦闘機短編(ドイツ空軍物。そのうち投稿します)を書いてみたら、そっちの方に気合いが入ってしまったり、学校で長イモ掘ったり(滅茶苦茶しんどいです)、合鴨を殺して解体したり(ご冥福をお祈りします。ご馳走様でした)……いろいろあったわけです」

小夜「後半が意味不明なんだけど」

流水郎「農大生はいろいろあるの! とにかく、次回からようやく戦闘シーンなので、またモチベーション上げて書いていけると思います(汗」

絹海「では二つめです。艦魂会の脱退についてどうぞ」

流水郎「あれはまあ、単純に思想の違い。俺だって他の先生方とは仲良くしたいですから、喧嘩起こす前に止めました。英霊という言葉にそもそも反感持つ人間ですから……」

小夜「まあ流水郎の意見が全く理解してもらえないわけでもないし、他の人の意見に全く賛成できないわけでもないんだけどね」


絹海「ところで、「民主党が政権取ったことについてどう思いますか?」なんていうメッセージが来たんですよね?」

流水郎「うん、ノーコメントって返信した」

小夜「相手に失礼じゃない?」

流水郎「返事は無いから、特に不満はなかったんじゃないか? それより、俺の作品と関係ない政治の話についていきなり質問してくるのはなぁ……。せめて作品の感想を少しだけでも添えた上で、そういう質問をしてほしい」

小夜「後書きをご覧のみなさん、流水郎は感想が少なくて僻んでるだけですので気にしないで下さいね」

絹海「先に挙げられた某掲示板では、希に話題に出て高い評価受けてますけど」

流水郎「あの掲示板は俺としてはありがたい。ネット戦記へのニーズもなんとなく分かるし。それはさておき、俺は政治について質問されても答えられません。「もし日本が○○と戦争になったら」とか「もしミッドウェー海戦に勝っていたら」みたいな話を書かないのは、俺の苦手な政治について書かざるを得なくなるからです。知識の無いものを無理に書いても恥かくだけだし、調べるほど興味沸かないからな」


流水郎「言いたいことは言った。では、失礼します」

小夜「次回はもっと早く更新できるよう努力するそうです」

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