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第二話 とべ、キングダイナ!

「そっちじゃないんだよぉーーーーー!!!」



影親くんがハーレム系学園ラブコメを体現しているように、僕も嘘みたいな主人公属性だと言うことがわかった。でも、それがコ◯コ◯コミックのホビー漫画的なそれだとは聞いていない。現実を受け入れきれていない僕の叫びにもお構いなく、突然現れた老人は話し始めた。



「竹崎龍飛、お前さんを男と見込んで、頼むッ!」



よくわかんないおもちゃがクソ流行ってて、その生みの親が行方不明の父で、それを悪用する大人がいる。そんな漫画みたいな状況信じられるわけがないが、事実は事実だ。そして何より、僕には嘘みたいなフィクションのような生活を目の前で過ごしている、影親輝という男の存在がある。それを踏まえれば、今自分が置かれている状況も受け入れざるを得ない。



「わかりました、やりますよ。」


「なに!?本当か!?」


「はい。正直そのおもちゃのことすらよく分かってないですけど。なんとなく、やってみたいです。」


「さすが龍馬の息子じゃ!さすれば、早速お前さんにドラゴンフライヤーのいろはを叩き込まねばなるまい!」


「いろは?」


「と、その前に。自己紹介がまだじゃったな。わしはカイ老師。気軽にカイちゃんって呼んでね!」


「はぁ…。」


「…おほん。ではドラゴンフライヤーについて話そうか。先にも話したように、これには玩具を超えた力があるのじゃ。」


「はい。」



そう言いながら、僕にそのドラゴンフライヤーとやらを渡してくる老人。



「これこそが、お前さんの父龍馬が初めて作り上げたドラゴンフライヤー、キングダイナじゃ。こいつにはとんでもない力が秘められている。それはワシにも制御できないほどじゃった…。」



正直なところそもそものドラゴンフライヤーを知らないので違いがわからないし、いかにもな名前だな、くらいにしか思えなかった。



「じゃが龍飛、お前さんならばきっと使いこなすことができる!」



老人はそう言って、僕に渡したキングダイナを見本として説明を始めた。



「ドラゴンフライヤーは主に二つのパーツで構成されておる。一つ目はフライヤーウイング。そして二つ目がこのドラゴンコアじゃ。」



そう言いながら、竹とんぼでいうところの羽の部分と、竹とんぼにはない、棒の部分の端っこにくっついている妙な人形を示した。



「この、ドラゴンコアには異界の龍の魂が宿っていると言われている。」


「はあ。」



いかにもホビーアニメ的な設定がまた飛び出してきた。



「このドラゴンコアにフライヤーウイングを取り付ける。そしてドラゴンコアの底にあるスイッチを押して射出させることで、ウイングはさまざまな軌道で飛行できるようになるのじゃ。」


「あ、竹とんぼみたいに手で飛ばすんじゃないんすね。」


「ああ。ドラゴンコアとフライヤーウイング の組み合わせによって戦略は無限大に広がるのじゃよ!」


「そうなんですか…。」



こいつはおもちゃ会社の広報か何かなのか?

まあ、要はドラゴンなんとかという人形にこの竹とんぼをくっつけて、ボタンを押したら飛んでくというかなりシンプルなおもちゃだということだろう。



「!?おっと、ここからは実戦で試す必要がありそうじゃな…。」



突然、老人は何かに気がついた様子で僕にそういう。



「え、なんですか?」


「とにかくついてこい!」



そう言って突然表情を変え、家を飛び出す老人。仕方なくついていくと、そこにはヤンキー二人組と、こいつらに泣かされた様子の小学生がいた。



「いや、ちょっ。何だこの状態。」


「やはりじゃ… 。やつら、ダーグドラゴンを手にしておる…。」


「ダーク…なに?」



いい歳しておもちゃで小学生をいじめてたのか?いや確かにこういう系のアニメではたまにあるけども。本当にいるのかよこんな奴ら。



「何だてめえら?」


「ジジイと陰キャが何の用〜?笑」


「貴様らの持つそのダークドラゴンフライヤーを破壊させてもらうぞ!」


「いやだから、そのダークなんたらってなんなんすか!」


「細かい説明は後じゃ!龍飛、くるぞ!」



老人の説明を待つ暇もなく、ヤンキー二人は手に持っていたドラゴンフライヤーをこちらに向けて飛ばしてきた。ダークなんたらと言われると、暗黒的な、ダーク的なオーラを纏っているように見えなくもない、気がする。



「準備はいいか、龍飛!!さっき教えたように、そのキングダイナを使うんじゃ!」


「こ、こうか!?」



先ほどの説明通り、手に持っていたドラゴンコアの底にあるボタンを押した。しかし、フライヤーウイングは飛び出さなかった。



「なんだ陰キャァ?」


「何しにきたんだよこいつ笑」


「やはり、龍馬の息子でもダメなのか…!」



何やら失望されかけている。やはり僕は、影親くんのような都合の良い主人公にはなれないのか。



「龍飛!さっきも言ったが、ドラゴンコアには異界の龍の魂が宿っておる!その龍と、キングダイナと心を通わせるんじゃ!」


「は!?何言ってんすか!」


「その手に握られたコアに、想いを込めろ!」


「想いも何も…」



想いとか言われても、僕にはそんなものない。近くでいい思いをしてる人間に嫉妬しているだけ。今だってそうだ。俯瞰で物を見てる気になって、おもちゃだなんだと小馬鹿にしている。

そんなことを考えていると、涙で目を腫らした少年が、こう言ってきた。



「おにーちゃん!ぼくのシーザー、取り返して…!」


「んだガキ!」



僕らに向けて飛んできていたダークなんたらはおもちゃとは思えない軌道で向きを変え、僕に助けを求めてきた少年の方へと飛んで行く。

そうだ、おもちゃだろうがホビーアニメだろうが、今ここで実際に泣いている子どもがいるのは紛れもない事実。

その瞬間、手に握っていたドラゴンコアから熱を感じた、ような気がする。今ならいける、気がする。



「いい歳して子供いじめるんじゃないよ!」



勢いに身を任せ、コアの底にあるボタンに強く掌を叩きつけると、飛び出したウイングが子供に襲いかかろうとするダークなんたらを弾き飛ばす。しかし、息つく暇もなく、もう一人のヤンキーが飛ばしてきたウイングがこちらに向かってくる。



「龍飛!危ない!」


「もうどうにでもなってくれ!」



そう言うと、ウイングは僕の意志に従うように軌道を変え、こちらに向かってきたヤンキーのウイングを弾き飛ばした。

その時、僕のキングダイナは炎を纏っていた、ように見えた。



「やった…のかな?」



ヤンキーたちのダークドラゴンフライヤーは粉々に破壊され、どう言う理屈なのか当のヤンキーたちも吹っ飛ばされ気を失っている。実にホビーアニメらしい。

ひとまずヤンキーに奪われたであろうこの少年のドラゴンフライヤーを奪い返し、彼に渡した。



「だ、大丈夫だった…?」


「うん、ありがとーおにーちゃん!」



子供に声をかけると、さっきまでとは打って変わって元気にそう返事をした。



「よくやったぞ龍飛!」


「あんた何もしてなかったじゃないですか…。」


「すまんすまん。しかし、まさか本当にこのキングダイナを使いこなすとはな。」



まだ完璧に割り切ったわけじゃない。僕だって影親くんみたいになりたい。でも、自分がやらないといけないことも何となくわかった。だから暫くは、ホビーアニメの主人公をやろうと思う。



「おにーちゃん、すっごい強いんだね!」


「いやいやそんなことは…。」


「ねー!ぼくのししょーになって!」


「し、師匠?」


「ほっほっほ、龍飛が早速師匠とはな!」


「いやあんたからもなんか言ってくださ…」


「いやいや、せっかくドラゴンフライヤーを愛してくれている少年の邪魔をするわけにも行くまい。わしはお先に失礼するぞ!」


「は!?」


「大丈夫じゃ!またいつでも会えるわい!」



そう言ってどこかに姿を消す老人。

話は後じゃ!とか言って結局何も説明せずに消えていった。巻き込むだけ巻き込んで、何なんだよあのジジイ。



「ししょー!ぼくん家すぐそこなんだ!だからついてきてよ!」


「いやいや…!知らない人を家にあげちゃ…。」


「知らない人じゃないよ!おにーちゃんは僕のこと助けてくれたんだから、お礼しなくちゃ!」


いかん。せっかく主人公への決意を新たにしたのに、このままでは犯罪者になってしまう。しかし、無碍にすることもできない。



「とうちゃーく!ただいまー!」



手を引かれるがまま、結局家の前まで連れてこられてしまった。少年が元気な声をあげると、家の扉が開いた。



「ハル!またこんな時間まで外で…!」



そう言って玄関から姿を現したのは、なんと学年のマドンナ、今では完全に影親くんのヒロインの一人、霧島うららさんだった。



「えっ、あっ…。」



思わず声が出てしまう。

もしかしたら、まだラブコメ主人公もチャンスがあるのか?

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