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第一話 主人公になりたい!

波風を立てない。それが僕、竹崎龍飛の人生のモットー。

ガールズトークで盛り上がる女子グループ、誰が可愛いとかで騒ぐ男子グループ、ウェイとそれなで会話を成立させている一軍たち。そのどれもと程々の距離感で過ごす。特段誰と親しくなることもないが、面倒ごともない。これが生きていく上で最も大切なことだ。


と、いうようなモノローグを脳内で繰り広げることで、どうにか無個性な自分を主人公に仕立て上げたいのが本当の僕、竹崎龍飛だ。

そしてこのクラス、2年B組にはまさしく僕の憧れるラノベ主人公のような男がいた。

影親輝。

彼は、先月転校してきた不思議な雰囲気を漂わせる美少女、深海ソラさんと異常に仲が良いらしい。二人でなんか部活も立ち上げたらしい。しかもその部活には、学年屈指の才色兼備、霧島うららさんがいるらしい。あと一つ下の学年の活発女子、旭夕紀さんと幼馴染らしい。

いや、ひとつくらい分けてくれよ。君も僕と同じで自分からは何ひとつ行動していないだろう。何故か謎の美女に気に入られ、何故か部活の立ち上げに巻き込まれ、何故かそこにマドンナもやってくる。あと幼馴染がいる。羨ましすぎるだろ。どうなってんだこの世界は。

一人でそんなことを思っている今この瞬間も、影親君は謎の美少女転校生、深海さんと二人で何かを話している。そしてさらに…



「輝いる?」



幼馴染キャラ旭さんも登場した。彼女が教室に現れただけで、目当てが影親くんだということは暗黙の了解のように教室に伝わる。



「ヒューヒュー!」


「ほら影親、嫁が来たぞー」


「「そんなんじゃない!」」



二人声を揃えて反論するお馴染みのやつ。ヒューヒューじゃねえんだよ男たち。悔しくないのか。



「ほら、これ!この前の、お礼…。」


「あ、ありがとう。」


「く、口に合わなかったら、捨てなさいね!」



顔を真っ赤にしてそう言いながら足早に教室を出る旭さん。そう、彼女はいわゆるツンデレキャラなのでしょう。



「影親も隅に置けないね〜。」


「深海さん!だから違うって!」



恥ずかしそうに座っている影親君の肩に手を置いて彼をイジる深海さん。彼女の長い髪が影親君の顔の真横にある。いい匂いがしそうでとても羨ましい。

とまあ影親君の周りではこんなようなことが幾度となく繰り広げられている訳で、見たくないのに気になってしまう。そうして彼とその周りのドタバタ劇を遠巻きに見て、唇を噛み締めながら僕の1日が終わる。それでも、自分を主人公と思い込みたい、僕はそんな人間だ。


帰宅途中、スーパーで惣菜を物色する時間。僕の母は仕事で滅多に家に帰ってくることはなく、父も既に亡くしている。だから大抵の場合は何かを食べてから帰るか、買って帰るかのどちらかだ。思えばこの状況が、自分を主人公と思い込ませたくなる大きな要因なのかもしれない。

適当に買い物を終えて自宅に向かうと、家の玄関の前に見知らぬ老人が立っていた。こわい、怖すぎる。こう言う時、どうすればいいのだろう。恐怖で身動きが取れなくなっていると、老人がこちらに気づいた。



「探しておったぞー!お前さんが竹崎龍飛君か!」



気さくにそう言いながらこちらに寄ってくる老人。何故僕の名前を知っているのだろう。



「なんで、僕の名前を知ってるんですか…?」


「おっとすまん。わしは君の父、竹崎龍馬の古い知り合いじゃ。」


「知り合い?」



突然、老人の口から父の名前が飛び出したことに驚きを隠しきれなくなる。



「驚くのも無理はない。ほれ、これを見てみろ。」



そう言って老人が取り出した一枚の写真には、その老人と父が映っていた。



「これ、どう言う…。」


「ここからの話は家の中でさせてもらっても、よいかの?」


「え、あ、はい。」



父の話になったので思わずそう答え、見たこともない老人を何故か家に入れてしまった。



「わしが龍馬の友だということはわかってくれたようじゃな。ズズズ…うまいお茶じゃな。」


「あ、はい。あざす。」



父の知り合いか何か知らないが、図々しく人ん家でくつろぐこの老人に少し腹が立つ。影親君ならこう言う時やってくるのは、こんな老人じゃなくて可愛い女の子なんだろうなぁ。

そう思っていると、老人が口を開いた。


「お前の父、龍馬は立派な竹細工職人じゃった。それは知っておるな?」


「はい。」



そう、竹細工職人だった父は5年前、竹細工を広める活動のためと言って家を出た。そしてその後、海外でなんかの事件に巻き込まれて亡くなったと聞いている。もちろん当時は悲しかったが、5年も経ったら流石に切り替えて生きていると言うものだ。



「では、これが何かわかるか?」



そう言って老人が見せてきたのは、小さい人形がくっついたド派手な竹とんぼのようなものだった。



「竹とんぼ…?」


「少し違うな。これは”ドラゴンフライヤー”!」


「…なんすかそれ?」



あまりにもクソダサい名前に思わず呆れてしまう。



「知らんのか?今子供達を中心に世界的に大ヒットしているおもちゃじゃぞ。」


「知らないっすね。それがなんですか?」



そう言いつつ、現代っ子らしくインターネットの力を駆使して検索してみると、確かに出てきた。竹とんぼの要領で空に飛ばし、その対空時間を競うと言う遊びらしい。しかし、ちょっとしたバトル要素があるのがウケたようで、どうやら本当にすげえ流行ってるらしいことがわかった。



「何を隠そう、これを生み出したのがわしとお前の父、竹崎龍馬なのじゃよ!」


「えっ、父が?」



なんの脈絡もなく出てきたダサい竹とんぼが、思わぬところで繋がってしまったようだ。



「そうじゃ。しかし、龍馬は竹細工職人としてあまりに優秀だった。優秀すぎたのじゃ…。」


「どう言うことですか?」


「このドラゴンフライヤーは、おもちゃの域を超えていた…。」


「…ん?」


「ドラゴンフライヤーには計り知れない力が秘められているのじゃ!そして、それを悪用し、よからぬ企てをする者たちまで現れ始めた…!」



なんだこの感じ。変な老人、異常に流行ってる玩具、おもちゃで世界征服…。



「龍馬の息子である君に、頼みがある!」



嫌な予感がしてきた。



「龍馬が最初に作り上げたこのドラゴンフライヤー!わしにも使いこなせなかったこれで奴らと戦い、コイツらを普通のおもちゃに戻してやってほしいんじゃ!」


「え…。」


「龍馬の息子であるお前なら、竹崎龍飛なら!きっとそれができるっ!」



やはり間違いない。影親君がそうであるように、僕も嘘みたいな主人公だったんだ。しかしそれが、某雑誌のホビー漫画的なそれだとは、夢にも思わなかった。でも僕が憧れていたのはあくまで学園モノ、ハーレム系ラブコメの主人公であって、こういうんじゃない!

これから僕は、キャップをかぶったり、穴あきグローブつけたり、鼻の頭に絆創膏付けたり、決め台詞とか考えないといけないのか?とか思うと不安になってくる。



「そっちじゃないんだよぉーーーーー!!!」



心の叫びが、声に出てしまった。



続く。

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