それでは魔王を決めたいと思います。立候補はおられませんか?
ようやくPTA会長の任期が終わったので書きました。
作者の場合はあみだくじでした。
「それでは、今期の魔王を決めたいと思う」
そう言って魔王城に集まった魔族たちを睨みつけたのは、現魔王であるティー・ピーエーである。
「こうして見ると、ずいぶんと欠席が多いようだが?」
魔王であるティーが苦々しい顔で呟くと、横に控えていた会計のエクセルが答えた。
「は、はい。四天王のひとりであるブロディ様は、お母さんの調子が悪いらしく委任状が届いてました。あと、委任状には『母の介護がありますので、魔王はできません』と書いてあります」
「それ、委任状の意味あるのか?」
「それと、四天王のひとりであるパンパンビガロ様は、オープンしたばかりの食パン屋が思いのほか繁盛しているらしく、今日は出席できないとかで委任状が届いています。こちらも委任状には『パン屋の朝は早いので魔王はできません』と」
「どこで店を開いたのだ?」
「たしか王都だとか……」
「人間相手に商売してるのか? しかも繁盛してるってどういうことだ! 人間もちょっとは怪しいとか思わねえのか!!」
「店の名前が『パンパンビガロおじさんのチーズケーキ』ですからね。行列が凄いらしいですよ。予約しないと買えないとか」
「いや、チーズケーキは?」
「チーズケーキは干し葡萄が嫌いだから止めたってパンパンビガロ様が」
「干し葡萄が嫌いって、子供か!」
「パンパンビガロ様は給食で葡萄パンが出てくると、必ず机の奥にしまい込んで食べたふりをしていたくらいの干し葡萄嫌いですから」
「そういや、かびたパンが机から大量に出てきて怒られてたっけ」
「ですので、パンパンビガロ様は欠席です。あと、四天王のひとりであるスタンサンセン様は、腕が上がらないとかで委任状が届いています。『右腕が痛くて魔王はできません』と委任状には書いてますね」
「だからあれほど必殺技の異世界ラリアットを使うのは止めろと言ったのに!」
「ラリアットを決めたあとの雄たけびに勝る快感はないとかで、最近ではドラゴン相手にもラリアットを見舞ってましたから」
「まじかよ。それで、どうなったんだ?」
「どこまでが首なのか分からなかったらしくて、見事に返り討ちにあってました」
「それでも四天王か」
「でも雄たけびは上げてましたよ」
「恥ずかしくないのか」
「他にも委任状がたくさん届いています」
「読んでみろ」
「はい。『以前に幹事をやったので魔王は免除になると聞いています』とか『強制ですか?任意ですよね?』とか『退会します。紅白まんじゅうはいりません』とか『単Pは分かりますが、県とか地区は意味ありますか?』とか……」
「ああ、もういい! というか、紅白まんじゅうってのは何だ!」
「親が退会すると、子供が卒業式で紅白まんじゅうが貰えなくなる地域があるみたいで。意地悪ですよね?」
「それは意地悪だな。親の退会と子供は関係ないんだから」
「さすが会長、いや魔王様。さすまおですね! うちの地域は魔王様で良かった。で、残るひとりの四天王であるビックバンエイター様ですが」
「あいつはなんだ?」
「勇者パーティーに角の形をからかわれて以来、屋敷に引き籠っています」
「角の形?」
「はい。角の形です」
それは不思議だ。
ビッグバンエイターの角といえば、魔界でも最も立派な角として知られている。
頭から生えた大きな角が途中から枝分かれし、大きく広がったその勇壮な角はわたしも見惚れていたものだ。
「ところが、勇者パーティーの中に異世界人が混じっておりまして」
「それがどうした。異世界人など今どき珍しくもあるまい」
「ところが、その異世界人はナラという街から来た者らしく、ビッグバンエイター様の角を見るなり、「鹿や! 鹿の角や!」と大はしゃぎで」
「鹿の角……」
「あげくの果てには、ビッグバンエイター様にせんべいをあげる始末」
「それでどうなった?」
「なぜかビッグバンエイター様も、せんべいを出した異世界人に何度も頭を下げてました」
「鹿じゃねえか!」
「でも、ビッグバンエイター様の角を揶揄していた勇者パーティーの様子を私がSNSにあげたところ、虐めの現行犯として大炎上しまして」
「どうなったんだ?」
「鬼族の女たちが勇者たちの個人情報をアップ。あえなく勇者パーティーは解散。個人情報がさらされた勇者たちは王都にいられなくなって魔族に寝返っております」
「俺たち魔族が言うのもなんだが、勇者も大概ひどい奴だな。というか、鬼族の女が怖過ぎだろ」
「鬼族の女の調査能力は半端ないですから。さらに、その勇者が今期の魔王に立候補しております」
「いや、それはだめだろ。そんな奴に魔王をやらせたら、イメージダウンも甚だしい」
「では?」
「仕方ない。今期もわたしが魔王を勤めよう」
「それがよろしいかと。しかし、これで魔王様の任期は歴代最長の127年となりますね」
「来年こそ、誰かに代わってほしいものだ」
「そんな事言いながら、実はけっこう好きなんでしょ」
こんな話を最後まで読んでくれて感謝します。
ちなみに、PTAは任意団体です。