秘密が秘密じゃなくなるとき、彼の心が見えてくる
ケンカした。
私は今日も彼とケンカした。
彼とケンカした理由。
それは彼が女の子と一緒に歩いていた。
私はそれを偶然見てしまった。
彼に聞くと彼は
友達だと言う。
私はそんな彼の言葉を信じられない。
何故なら彼はこれが初めてじゃないから。
彼は自分のことをあまり語らない。
だから彼には謎が多い。
なんで私と一緒にいるのかも不思議なくらい。
私は彼のことを知らない。
だからそんな人を信じられるはずもない。
「何で私に教えてくれないの?」
「友達って言ってるよ」
「その言葉を私が信じられる程、私達ってお互いを知ってる?」
「信じてもらうことしか俺にはできないよ」
「あなたはどうして全てを語ろうとしないの?」
「君が俺を知ったら君は離れていくから」
彼は悲しそうに彼の本音を少し教えてくれた。
どうしてそんな顔をするの?
私はあなたの全てを知りたいのに。
彼は自分の全てを知ってほしくないみたい。
彼は何を抱えてるの?
彼は何をそんなに知られたくないの?
教えて。
私はあなたの全てを受け止めるから。
「君にはちゃんと話しておかないといけないと分かってたんだ。
でも、俺にはまだ覚悟ができない。
君に嫌われることに」
「どうして私があなたを嫌うなんて決めつけるの?」
「俺だったら絶対嫌うから」
「それは分からないじゃない。
私はあなたじゃないよ。
あなたと感じ方は違うと思うよ」
「俺のこと嫌いにならないでなんて言えないけど、
俺には君が必要だということは覚えていてほしい」
「うん」
私は“嫌いにならないよ”なんて言えなかった。
今の彼にはその言葉は言ってはいけない気がした。
「俺は子供の頃、施設で暮らしてた。
親のいない俺は荒れてた。
悪いことはなんでもやった。
万引き。
ケンカ。
女関係も酷かった」
そう言って彼は私の反応が気になるのか私の顔を確認した。
私は驚いたけれど彼を嫌いにはならない。
「まだ続きがあるんだ。
俺はある女の子と付き合いだした。
彼女は俺の全てになった。
彼女のお陰で俺は悪いことをしなくなった」
彼は話ながら苦しそうな顔をしている。
何で?
彼女の出会いはいい思い出じゃないの?
「ある日、彼女が妊娠した。」
「えっ」
「彼女はまだ14歳だった」
「若い」
「俺は嬉しかった。
彼女は産んでくれると思っていた。
彼女の妊娠が分かった2週間後に赤ちゃんが流れた」
「彼女はどんな思いだったんだろう。
今の私だって妊娠したら不安はでてくると思うのに彼女はまだ若いのにどれだけの重荷を背負ったんだろう」
「彼女は赤ちゃんを失くした後、俺に1通の手紙を渡して消えた」
「えっ」
「俺はその手紙で赤ちゃんがいなくなったこと、そして彼女が俺の前から離れることを知った。
彼女は普通の家庭の子だから親に何か言われたんだろう」
「えっ、あなたはそんなふうに思ってるの?」
「え?」
「彼女がどんな思いで手紙を書いたのか、ちゃんと考えた?
親がいるからとかじゃなくて彼女の気持ちを考えたの?」
「俺は彼女とちゃんと話し合ってこの先のことを決めたかったんだ。
でも彼女は一人で決めた。
俺は必要ないんだって思った」
「違うよ。
彼女もずっと一緒にいたかったと思うよ。
でも、彼女もあなたも若い。
自分達だけでどうにかなる話じゃないと分かってたんだよ」
「俺って彼女のことを考えてあげてなかった」
「私に話したことで彼女の思いに気付けたでしょ?
人って自分主観で物事を考えてしまうの。
だから友達や恋人、家族が必要なのよ」
「君に話して良かった」
彼は笑顔で言ってくれた。
「それで? 何でその話が女の子と一緒に歩いているのと関係あるの?」
「俺は、施設で過ごしてる子達の手助けがしたくてボランティアをしてるんだ」
「ボランティア?」
「俺が過ごした施設に顔を出してる。
そこで出会う女の子達は俺に恋愛の話をしてくるから、場所を変えて深い話をしたりするんだ」
「彼女の為?」
「彼女への償いかな」
「償い?」
「俺はあの時、何も彼女の支えになってあげられなかった。
彼女みたいに悩んで苦しんでいる子達を助けてあげれば、彼女も喜ぶかなって思ってるんだ」
「それはいいことだと思う。
彼女も喜んでいると思うよ。
私だったら嬉しい」
彼の思いは分かった。
彼を嫌いになる要素なんて一つもない。
彼は自分主観で物事を考えてたんだ。
私は絶対嫌いになるって思いこんで、
私に全てを話してくれなくて、
私って彼にそんなことで嫌いになるような彼女に見えてるの?
それが何よりもショック。
「嫌いにはならなかったけど」
「けど?」
「私ってあなたにとってその程度の彼女に見られてたのがショック」
「その程度?」
「あなたの過去を知って嫌うような彼女に見える?」
「あっ、それは」
彼は焦っている。
分かってるよ。
そう思うことで自分に言い聞かせてたんだよね。
私に過去を話さない理由を作ってたんだよね。
嫌われたくなくて。
私は彼にどうしても言いたい気持ちが生まれた。
「大丈夫。
あなたの全てが大好きよ」
その言葉を聞いて彼は目を見開いて驚いていた。
「俺も大好きだ」
彼はそう言って私を抱き締めた。
私は今日、彼の全てを大好きになった。
彼女も幸せだったらいいなと思いながら私は彼の背中に腕を回した。
読んで頂きありがとうございます。
彼の秘密を知っても変わらない気持ちを書きました?
人って自分で思っているほど他の人は気にしていないものですよね。
大切な誰かに自分の思いを知ってもらって、確認するのもいいかもしれません。
あなたの考え過ぎかもしれませんよ。