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クエスト探し

(ティン)ランク用の仕事(クエスト)の受注書はこちらのボードに貼り出してあるもので全てです」

「ありがとうございます」


 僕たちの案内を終えて受付カウンターの方へと戻って行くギルドスタッフの女性に御礼を言い、僕は目の前の大きなボードに改めて向き合った。


(ティン)ランク用でも結構数があるなぁ」

「この紙切れの山が、御主が言う『クエスト』とやらに関係するものなんじゃな」

「うん、そうだよ。此処に貼り出されている受注書から、自分でもできそうな仕事を選んで向こうのカウンターに持って行くんだ」


 横幅二メートルほどのパーテーションみたいな木のボードが幾つも壁に沿って並んでおり、それぞれに何の規則性もない並びで受注書がピン留めされている。

 この中から自分で受注する仕事を選んで、その受注書をボードから剥がして受付カウンターへと持って行く仕組みになっているのだ。


「同じ板が何枚もあるのう。何処からでも選んで構わぬものなのか?」

「いや、ボードごとに難易度(ランク)別に分けられてるんだ。自分が持っている冒険者のランクと同じ等級の仕事までなら自由に選んでいいけど、それ以上の難易度(ランク)の仕事はやらせてもらえない決まりになってるんだよ」

「成程のう」


 ギルドに仕事を依頼している側だって、慈善事業をしているわけじゃない。れっきとした仕事としてギルドに冒険者の派遣を依頼している以上は、確実に依頼内容をこなしてくれる人材を求めているのだ。

 任務失敗した時に違約金を支払わなければならないのは、そういう理由から来ている。依頼者が冒険者に仕事を依頼するに当たって用意した物資とか費やした時間に対する保障、後は依頼者の期待に応えられなかった謝罪料……なんかも含まれているのかもしれないね。


「僕の冒険者ランクは(ティン)だから、選んでいいのはこのボードに貼られてるものだけだね。それ以外のは上のランク用のボードだから選べないよ」

「ふむ。なかなかに不便じゃの。その『ランク』とやらが変われば、選択肢の幅も広がるのじゃろうが」

「そうだね。高いランクの仕事の方が報酬も多いし、遣り甲斐はあると思うよ」

「御主はランクを高くしようとは考えてはおらぬのか?」

「それなりには上げておきたいとは考えてるよ。でも、すぐには無理かな。昇級試験を受けるにも資格が必要なんだ」


 冒険者ランクの昇級試験は、試験を受けるために必要なものを用意して冒険者ギルドに申し出れば、いつでも受けることができる。

 試験を受けるのに必要なものは、二つあるうちのいずれか片方。

 ひとつは、それまでに冒険者として働いてきたという実績。

 もうひとつは、別の冒険者から一筆したためてもらった昇級推薦状だ。

 前者の、実績を積む方法。これは地道にギルドで仕事を請け負い、任務をこなしていけば自然と評価に繋がるものだから普段から気にかける必要はない。個人によって評価を得るまでのスピードに差はあるけれど、普通に冒険者稼業をやっていれば普通に得られる資格だからだ。殆どの現役の冒険者はこちらの方法でランクを上げていることだろう。

 後者の、他の冒険者からの推薦を受ける方法。こちらは少々特殊で、(ゴールド)以上のランクを持つ冒険者三名から冒険者としての実力を認められ、推薦状を書いてもらい、それをギルドに提出することによって昇級試験を受ける資格を与えられる、というシステムになっている。こちらの方法なら、一段階ずつしか上に上がれない前者の方法と異なり、飛び級で更に上のランクに上がることも可能だ。勿論試験に合格する必要はあるけれど。

 こちらは単純な冒険者としての実力だけじゃなく、人脈とか信頼とか、様々な要素が絡んでくる。だからそう簡単に得られるような資格ではない。

 知り合いでも親しくなければ推薦なんてしてくれないだろうし、親しくてもそもそも(ゴールド)ランク以上の冒険者じゃなければ推薦状は書けないし。ろくに冒険者稼業をしておらず実績を持たない(ティン)ランクの冒険者が推薦してもらうなんて、それこそ身内のコネでもなければ無理だと思う。

 この辺りのシステムを見てると、日本社会とよく似てるなぁって思う。若くても実績があれば上の役職に就けるところとか、大卒の新人なのにいきなり重役に就いた奴が実は社長の息子でした、ってやつとかね。


「まあ、焦って目指す必要はないよ。ひとつずつ地道に積み重ねていけばいいんだ」


 最低でも(アイアン)ランクまであれば日々の三食分の食費を一回分の任務で賄うことはできるし、(シルバー)ランクまであれば現役の冒険者でいる間は生活は安泰だ。(ゴールド)以上にもなれば一気に任務達成の報酬が跳ね上がるので、オーダーメイドの武具を製作したり色々なことができるようになるだろう。

 ツクヨミの『目』を作成するために必要な素材を調達できるだけの貯蓄が必要だから、まずは(シルバー)ランクを目標にして地道に頑張ろうと思う。それ以上のランクを目指すかどうかは、(シルバー)ランクに上がった後でその時の状況に応じて考えていくつもりだ。

 どうせなら最高峰(アダマント)を目指せばいいのにって? ……流石に金剛(アダマント)ランクに上がることは考えてないかな。一度の任務達成で得られる報酬は巨額だけど、そもそも金剛(アダマント)ランクの冒険者自体が数えられる程度の数しかいないから、金剛(アダマント)ランクってだけで嫌でも有名人になっちゃうしね……


「ふむ。御主に何かしらの考えがあって方針を決めておるのなら、それで構わぬのではないかの。御主の人生は御主のものじゃからの、わちきが横からどうこうと口を挟むようなことではあるまいて」

「うん」


 やっぱり人生の大先輩が言うと説得力が違うというか、重みがあるね。彼女は人間じゃないけど。


「して、どれを選ぶのじゃな」

「そうだなぁ……うーん。今は物資調達とか荷物運びの人手募集が多いみたいだけど……」


 物資調達の仕事は、その名の通り指定された品物を調達して依頼人へと納品する内容の仕事だ。ぱっとイメージするのは近くの森で薬草を摘んでくる、みたいな採集系のクエストだろうけど、遠方の土地でしか手に入らない特産品を納品してくれ、なんて内容のものもあったり、特定の魔物の革とか角が欲しい、なんて狩猟絡みの依頼もあったりするから、選ぶ時は何を要求されているのか内容をよく確認しないと駄目だよ。

 荷物運びの仕事は、これも文字通り依頼人から受け取った荷物を指定の場所に運ぶ内容の仕事だ。殆どは大店が出している倉庫整理の人手募集か商品の納品依頼なんだけど、たまに遠く離れた土地で暮らしている親族に届けてほしい、なんて内容のものもある。港町なら商船に商品を運び入れてほしい、とか、鉱山の町だと鉱山の奥で働いてる炭鉱夫たちに食糧を届けてほしい、とか、土地柄が反映されやすい分類の仕事だと言えるね。

 まあ、(ティン)ランクのクエストは基本的に冒険者ではない一般人でも請け負える内容の仕事が多いから、魔物の討伐依頼系の任務でもない限りは直接命が危険に晒される状況に陥ることは殆どない。全く怪我をしない、というわけでもないけれど。

 

「僕一人で請け負う初めての仕事だし、まずは基本的なところから行こうと思う。受注から完了までの一通りの流れをちゃんと理解しておきたいしね」


 ジュリアのパーティにいた時もクエストは何度も経験したことはあるけど、手続きとか諸々のことは彼女たちがやってたから、僕はちゃんとやり方を把握してるわけじゃないんだ。大雑把なことは分かってるつもりだけどね。


「それじゃあ…… …………うん、これと……これにしよう」

「一度に二枚とな。選ぶのは一枚だけじゃなくても良いのじゃな」

「うん。基本的に一度に請け負える仕事の数に制限はないよ。内容を確認して、同時にこなせそうだったら請け負っても構わないんだ」


 例えば、商船に荷物を運び入れる依頼と新鮮な魚を仕入れて納品する依頼を同時に請け負ったとする。

 任務をこなす場所が同じ港なわけだから、まずは商船で荷運びの仕事をして、その後漁港で魚を買い付けて依頼人の元に納品に行く……という流れなら同時に二つの依頼をこなせるでしょう?

 こんな感じで、同時にこなせば移動とかの手間が省ける内容の仕事はいっぺんに請け負った方が得になる場合もあるんだ。

 此処は近辺に山とか海もない平原のど真ん中にある町だから、普通の荷物運びだとか清掃業とか、そういう内容の仕事が主になるけれど、それでも同時進行できそうな内容の仕事は進んで引き受けていった方がいい。

 この辺の見極めと判断力も、冒険者に求められる実力のうち。冒険者は単純に腕っ節の強さだけが求められているわけじゃないってことだね。


「どっちもこの町の中でやる簡単なお使いみたいな内容の仕事だよ。こっちの依頼は倉庫の中を片付けるための人手が欲しいっていう荷物運びの仕事で、こっちのはお客さんのところに商品を届けてほしいっていう納品の仕事だね」

「……確かに、童でもできそうな内容の仕事じゃな」


 僕の目を通して受注書の内容を見ているのだろう、ツクヨミが成程と納得した様子で頷いている。


「わちきの目が普通に見えればの……少しくらいは飯代を稼いで御主を楽させてやれるのじゃが」

「その気持ちだけで有難いよ。……僕も、一日でも早く貴女に『目』を作ってあげられるように頑張るね」


 ツクヨミは、僕の『視界共有(イデム・オクルス)』がなくても普通に歩いたり建物の壁や木を避けたりすることはできるらしい。

 今までは魔力を視認できる第三の眼で空気中に漂っている魔素の流れ方を見て、それで周囲の地形を把握していたのだそうだ。

 でも、彼女の故郷である異次元(ルガル)と比較すると、こちらの世界の魔素濃度は大分低いらしく、ぼんやりとしか地形が把握できないのだそう。だから足元に小さい小石とかが落ちてても分からないことも多いし、不意に飛んできた物体の存在は認識できないのだそうだ。

 そもそも、物体の形状しか分からないわけだから、色なんて区別がつくわけがない。同じ形の瓶を幾つも並べられて「一個だけ色が違う瓶はどれだ?」なんて訊かれても、答えられないよね。そんな状態で商品の納品とか、ミスができない内容の仕事ができるはずがない。

 ガラクタの山に紛れ込んだ魔法の道具(マジックアイテム)を探してくれ、みたいな依頼なら秒で片付けてくれそうだけどね……


「手を貸してほしい時は、ちゃんと言うよ。なるべく僕一人でやれる内容の仕事を選ぶつもりだけど……そういう機会があったら、その時は助けてね」

「うむ」


 それじゃ依頼を受けに行こうか、と僕たち二人は二枚の受注書を手に受付カウンターへと向かった。 

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