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偽装する人形


『一体何があったの!? カタリストのライフゲージがごっそり減ったんだけど!

 オマケに――ッマズいわ! 【モールドレッド】がこっち(ダメージディーラー)のほうに来てる!!

 疑似タンクやるけど、長くはもたないよ!』


 〈とまと姉さん〉からボイスチャットが入る。

 その声に反応して〈カタリスト〉がビクリと身体を反応させた。


「……レイくん!?」


「その名前で言うなよ。 ……それに、これゲームだからな?

 マジで泣きそうな声出すんじゃねえ」


「だって、レイくんがいなくなったら、私がこのゲームする理由なくなっちゃう」


「あー、わかったわかった。」


 〈カタリスト〉は器用に片足とスラスターやバーニアの噴射を使って起き上がる。

 足に食い込んだ【炎熱刀マグナ】を引き抜くと杖替わりに【モールドレッド:エルヴィス素体】の反応がある方を向く。

 

 彼は僕を一瞥しただけですぐに横を抜けていった。



「信じてくれなかったんだね」



 ベルチカの顔を見ることはできなかった。

 ただ顔を俯かせてすぐにでもこの状況が終わってしまえばいいと願う。

 けれど歴然と訴えてくるのは、光の粒子となって消えていくプレイヤーキラーの亡骸だ。

 

 どこぞのバカが放った銃弾に目もくれず、どこぞのバカが奪った左足を構うことなく、寸前まで削られたライフゲージに恐れることなく、ベルチカを守り抜いたのは……正真正銘、〈カタリスト〉だった。


「何やってんだ……僕は」


 前線では銃声が響き渡った。

 時々聞こえてくるクラン専用のボイスチャットチャンネルからは満身創痍の〈カタリスト〉をフォローしながら必死に【モールドレッド】と戦う仲間の……プレイヤーの声が聞こえてくる。

 〈ベルチカ・フレシェット〉が疑似的な盾役としてクリーチャーと近接戦闘を行ってるらしい。

 そうだ。そもそも彼女は僕よりも断然強くて……〈カタリスト〉から守ろうだなんて思考は、僕の押し売りの好意でしかなかった。


 プレイヤーキラーはついに霧散して消え去る。

 キャラロストしたプレイヤーの所持アイテムは半分がその場にドロップし、半分はどこかのロケーションでサプライドロップとして配置される。

 もういっそ自分もこうなれれば、そう願った瞬間、ボイスチャットから歓声が沸いた。

 【モールドレッド:エルヴィス素体】の討伐に成功したらしい。

 直にRESULTERの緊急脱出機能が開放される。そうなれば僕は一目散にこの場から姿を眩ませるべきなのだろう。

 

「…………あれ」


 ふと、違和感に気づく。

 目の前で塵芥と化した殺人鬼は、そうであってもプレイヤーである。

 ”なら……どうしてドロップアイテムを落としていないのか”。


 それにプレイヤー自身は痛くもかゆくもないはずなのに、瀕死になってからヤツは一言も言葉を発していない。

 そういうロールプレイもあるのかもしれないが今思えば不自然だ。


 ……俯いた顔を無理矢理振りあげる。踵を返して【モールドレッド】討伐に騒ぐプレイヤーたちの元へと駆け出す。


 ――杞憂だったのならそれで構わない! もうどうせ戻れない身なんだから!


 〈ごすけmk5〉との会話で度々話題にあがる”アバター”という種族。

 彼らが覚えるスキルの一つには、死体を偽装するためのダミー人形を作り出す能力がある――。


「来ないで!! 今度は何をするつもりなの!?」


 ベルチカは狙撃手に備わった察知能力で僕の接近を素早く覚ったようだった。

 スコープレンズの反射が煌めくのがわかった。

 それでも止まらず、スラスター噴射による最高速で〈カタリスト〉へと向かう。

 事情を説明している暇はないし、今の彼女に……僕を信じろというほうが無理だった。


「…………」


 PK対策として持ってきた【超振動メイルブレイカー】を腰部の収納スペースから取り出す。

 握ると同時にチェーンソーのような音を立てて短い刀身の輪郭が曖昧になる。


「!! ――そこか!!」


 〈カタリスト〉を不意打ちするために殊更蠢いた空間の歪みを逃さない。

 その箇所目掛けて僕は【メイルブレイカー】を投擲した。

 刹那、僕の背にも衝撃が走り、受け身を取ることもできずに前のめりで地面に伏せた。


 つい先ほど命を狙われたベルチカではなく、〈カタリスト〉を守る対象に選んだのは、殆ど勘にすぎなかった。

 いや、勘ではない。 ベルチカがさっきはっきりと言っていた。

 〈カタリスト〉がいなければ、このゲームをする理由がなくなる、と。

 それは、プレイヤーキラーにも好都合なのではないか、そう思ってしまった。

 結果的にはナイーブなヤツの大勝利と言えよう。



「……っ。 き、さま……召喚の邪魔を――」



 流線形のRESULTERを身に着けた小学生よりも低い背丈の人形が〈カタリスト〉の足元へと落下する。

 演技じみた今際の言葉を吐いたぬいぐるみチックなそれは、今度こそ本当のキャラロストを迎えたようだった。

 

 そして、僕も例外ではない。

 意趣返しの機会は随分と素早く訪れた。

 

 返すほうではない。返されるほうだ。

 僕のRESULTERの胸部装甲には修復不可能な風穴がぽっかりと開いている。


「――――……。」


 皆の表情を見るのが怖かった。

 だから、前のめりの倒れたのは正解だと思う。




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