表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

裏方のお仕事

「【Outsider Sticker】……」


 消費アイテムと弾薬の補充が終わって、ようやく一息ついたところで処理忘れのアイテムを発見した。

 クラン共有のアイテムストレージの中身を整理するのは調達係である僕の仕事だった。

 ”どうしてゲーム内でも仕事を?” なんてフレンドから小馬鹿にされたことがあったけど、MMORPGというゲームジャンルにはそういった面があるのだと僕は思っている。

 承認欲求とか、自己肯定感とか、多分そういうのを満たすためにゲームをプレイしているプレイヤーはたくさんいるんじゃないかな。


「素材アイテムでもないし、キーアイテムの分類にもされてない。

 誰が入れたんだろ……。」


 ストレージから取り出して使用してみると、何の説明もないままに【Outsider Sticker】は光の結晶となって消滅する。


「え、ちょっ、――しまったっ」


 まさかの消費アイテム?

 いやでもステータスに変化はないし……。

 

「どうしたの? 顔色悪いよ?」


「あっ、えっ!? そ、そう?」


 背後から唐突に声をかけられて返事が裏返る。


「気分悪いなら、私、残ろうか?」


 振り向くと煌びやかな装甲を纏った女神のような女の子がいた。


「ぜ、全然気にしてない。 いってらっしゃい。

 僕と違って〈ベルチカ〉がいないと攻略できないんだからさ。」


「それじゃあ……〈バイフェ〉行ってくるね」


 プレイヤー名〈ベルチカ・フレシェット〉が眉間にしわを寄せながら下手くそな笑みを浮かべる。

 電波妨害とビーム効果を無効にする特殊パールコーティングが煌めいたのがわかった。完全武装した彼女は歩く要塞と化している。

 小脇には彼女が得意な中・遠距離型兵装【甲皮破砕用アンチアーマーライフル】の姿がある。かつての戦争に使用されたアンチマテリアルライフルをクリーチャーの皮膚を貫けるように口径を広げ、更に火薬を増加した弾丸を放てる。

 けれど扱い熟すにはそれなりのプレイヤーテクニックやパッシブスキルを要求される。

 扱うためのパワーアシスト機能の向上はもちろん、スラスターによる反作用制御や偏差距離もこなせなければ【アンチアーマーライフル】はその真価を発揮してくれない。

 つまり、僕じゃ装備はできても威力は半減してしまう。


「ベルチカ! 調達係のことはもういいだろ?

 早く行くぞ。 他のクランに狩場が占領されちまう。」


 プレイヤー名〈カタリスト〉は”シュナイダー”と呼ばれる前衛職で、他ゲームでは盾役と称される約柄を果たしている。

 ベルチカと同じく装備は一級品で、どの兵装もアーマードスーツに見劣りしない。

 

「……そんな言い方ってないじゃない?

 私たちがすぐに攻略へ行けるのは〈バイフェ〉が消耗品や装備を用意してくれるからでしょ」


 カタリストは一度溜息をついてベルチカに詰め寄った。

 彼女は一歩後ずさって距離をとろうとするも、その首元に彼の手がかかる。


「冗談は止せよ。 テキトーなビルドして戦闘に参加できない寄生虫を置いてやってんだ。

 アイテム集め程度やってもらわねえと割に合わねえのは当然だろ?」


「だからって、これはオンラインゲームなの。 〈バイフェ〉は一プレイヤーとして私たちをサポートしてくれてるのよ」


「それに関しては同意見だ。 

 ――ほら〈バイフェ〉、彼女もそう言ってるぞ。 とっととこのクランやめて好きにプレイしたらどうだ?」


「――!!

 私はそんなことを言いたいんじゃ――」



「ありがとう、ベルチカ。

 カタリストも、助言はありがたくもらっておくよ。」


 発端である僕自身が仲裁に入ってこの言い合いはいつも終わる。

 カタリストはつまらなそうに舌打ちをし、ベルチカはバツが悪そうにこちらから目を逸らす。

 他のメンバーも「やれやれ」と事の成り行きを見守ったのち、狩場へと移動していく。


「おい器用貧乏ならぬ無能貧乏。

 追加の仕事だ。コイツの検証と弾薬やアタッチメントの調達を今日までにしておけ」


 別れ際に〈カタリスト〉がメッセージ分をこちらへ寄越す。


 【兵器搭載型重機関銃 リベンジャー】【超振動メイルブレイカー】、【融解性ショットガンシェル】【フルチョークバレル】――……【フィールディング・アクティエーター】!?


「カタリスト、待ってくれ。 アクティエーターなんて代物、今日までに調達するなんて無理だ!

 どの競売にもかけられていない希少パーツを――」


「ベルチカには渡したって聞いたぞ?

 それでオレの申し出は断るってことか?

 足回り関連の希少パーツは全部オレに回せって言わなかったか」


 思わず表情に出そうになる。

 カタリストの背後にいたベルチカも面食らったような顔をしてゆっくりと頭を横に振っている。

 【フィールディング・アクティエーター】は高機動スーツの瞬発性を高めるための内部パーツだ。

 旋回やスラスターを用いたマニューバー機動の使用感が別格になると今噂になっているレアパーツだった。

 つい1か月前に僕はそれを偶然手に入れることができて〈ベルチカ・フレシェット〉に渡している。

 内蔵部品故にバレやしないと高を括っていたが……よりにもよってカタリストにバレた。


「それはベルチカの対物ライフルだと機動性能が殺されるから補っただけなんだ。

 今挑んでいるロケーションは素早いクリーチャーが多いだろ。

 だから、ダメージディーラーの彼女が……」


「――なら今度はベルチカのためじゃなくてオレのために用意しろってだけだ。

 無理ならあっちから貸してもらうだけだからよ。」


 こちらだけに聞こえるよう、カタリストはこちらへと耳打ちしてきた。


「まぁ、あっちが拒否したら無理やり奪うけどな」


「……っ! 用意してみせるさ。」


「さんきゅ、じゃあな。 寄生虫♪」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ