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すくらんぶる・JET ~トラブルメーカー~

作者: 津辻真咲


緊急出動のアナウンスが鳴り響く。

「起動部乗務課地上班非常係、緊急出動要請。11時51分、アンドロメダ宇宙防衛ラインへ宇宙籍不明の物体二機が侵犯中。14時の方向へスクランブル発射指示。繰り返す。起動部乗務……」

「またかぁ、昼飯も食べてないのに」

青柳あおやぎはため息をつく。彼は、戦闘機の整備ロボットだ。

「っていうか、ロボットだから昼充電?」

水瀬みずせはきょとんと言う。

「何!?」

青柳は、眉を吊り上げる。

一方、水瀬と同じパイロットの村崎むらさきは、黙ってそれらを見ていた。すると。

「ゴホンッ!!」

咳払いが聞こえた。三人はその声のした方、頭上のスピーカーを見た。

「さっさと行きなさい。このぉ、トラブルメーカー!! 隣の基地に負けるわよ!! 今度、上層部ひっくり返すような事したら、あんたたちのクビだけで済むと思わないで!!」

三人は呆然としていた。



航空格納庫。そこでは、ライン整備ロボットたちが最終点検をしていた。

「全システム、OK」

ライン整備ロボットたちが戦闘機から離れて行く。

ゴォォォ。

戦闘機二機が航空格納庫からスクランブル発射していく。固定翼の両端から白い雲を引き、甲を描いて外気圏のアンドロメダ宇宙防衛ラインへ向かった。しかし。

キラッ。一瞬何かが光った。

「!?」

ドゴォォォ。

戦闘機一機が空中爆発した。

「空中爆発!?」

地上のライン整備ロボットたちが騒ぎ出した。

「原因はどうなってる!?」

「早くしろ!!」

――今の爆発。まさか、あいつの戦闘機!?

水瀬は嫌な予感がしていた。

「水瀬、帰還せよ。アンドロメダ宇宙防衛ラインへは、隣軍基地と空母班に任せる事になった」

無線でその声が聞こえて来た。

「了解」

彼女はそう応答すると、無線機を切って機体を旋回させた。

――一体どうなってる!? 戦闘機が空中爆発?



「んー……」

青柳は部屋一面に戦闘機の破片を広げて、原因究明に力を入れていた。

「俺、あの空中爆発から、助かったんだよなぁ」

村崎は何度も無視する青柳に話しかけていた。

「どうせ、コックピットが核シェルター並だろ?」

青柳はしつこい村崎にいらいらしていた。

――残骸のサンプル集め楽しいなぁ。

一方、青柳の隣にいる水瀬は楽しそうに戦闘機の破片を眺めていた。

「原因、まだか?」

村崎は青柳に尋ねる。

「何!? こんなにバラバラになっているのに、そんなに早く……」

「ちっ」

村崎は顔をそむけた。

「何!!」

青柳は怒り心頭だった。

「このヤロー!!」

青柳は声を上げた。すると。

「また、ケンカですか?」

三人は声のする方へ振り向いた。すると、そこには特級の整備ロボットがいた。彼は、青柳の上司だ。

「それより、原因は分かったのですか? と、質問したいのですが、見る限り、まだの様ですね」

「う……」

青柳は固まる。

――俺のせい?

村崎も硬直する。すると、もう一人、訪問者が現れた。

「空中爆発とは、……バカだな、お前」

「何!!」

「あ」

三人はそちらへ振り返る。

「てめぇは、隣の基地だろ!! 何でいるんだ?」

村崎はその訪問者、リードにくってかかる。

「基地同士が近いから、連携が必要。その為の情報と計画の会議だよ。っていうか、お前なら、そんな事、聞かなくても分かってただろ?」

「ったく、俺の質問の意味知っててその回答かよ」

「あぁ、お前のバカさ加減を見に来たんだよ」

リードは本当の目的を話した。

「わざわざ、それぐらいで……」

村崎は手を強く握る。

「100km以上移動してくるのかよーーー!!」

「まぁ、100km以上離れてるとしても、一応お隣さんだからね。関係は良好の方がいいだろうから、こうしてわざわざ100km以上向こうから出向いたって訳だが。お前のバ……」

「へぇ。俺のバカさ加減は、ついでねぇ」

村崎はゴォォォっと殺気だっていた。

「?」

青柳の本体にEメールが届いた。

――何だろう。

青柳はそのメールを立体映像で開いた。

「なるほどー」

その場の皆は一斉に彼の方へ振り返った。

「こりゃ、バードストライクだったな」

彼はメールで送られて来た鑑定書を見ながら、そう呟いた。

「そーなの?」

「うん」

青柳は水瀬の問いに頷く。

「ただのバードストライクで、空中爆発は異常では?」

リードが質問を投げかける。

「そう言われても、引き金は、バードストライク」

青柳はきっぱりと答えた。

「それにしても。……空中爆発とは。お前、バ」

「二度も言わなくても、分かってるに決まってんだよーーー!!」

村崎は自分をののしるリードに罵声を浴びせた。

「はいはい」

リードは少し呆れていた。

「じゃ。私はこの辺で、御暇しましょう。結果は風の便りで聞く事にするよ」

リードはそう言うと、ドアを手で開けて出て行った。

「ちっ。やってらんねぇ」

村崎はドンッとこぶしを壁に当て、いら立ちを押さえていた。

「何か、鑑識みたい」

「まぁ、機体の残骸バラバラだからね」

一方、青柳と水瀬は機体の残骸を見て、なごんでいた。村崎のことはほったらかしである。

「……」

そんな扱いに、彼、村崎はぽつんと立ち尽くしていた。



数分後。

「どうしたの?」

水瀬はきょとんとして尋ねた。

「新事実が」

青柳はバサッと資料を机に置いた。

「最新のステルス製の鳥?」

水瀬はもう一度、きょとんとして尋ねた。

「何だよ、それ」

村崎は腕組みをしていた。

「分析結果からすると、その鳥がエンジンにバードストライクしたという事」

青柳は資料を広げて答えた。

「ステルス製だったから、そのまま戦闘機ごと空中爆発したって訳か」

村崎は結論をまとめる。

「二人共、気を付けな」

「?」

青柳は言いかける。

「最新型のステルスといえば、整備関係者の中では有名なんだけど。地球も加盟しているあのアンドロメダ宇宙防衛安全機構が極秘に外託団体へ開発依頼してるって噂になってる」

「ん?」

水瀬は再び、きょとんとする。

「その最新型のステルス製で出来た飛行物体が地球上にいるって事は……」

青柳は語尾が小さくなる。

「もしかして? 同盟してるのに?」

水瀬は気付いたようだった。

「これ、上層部……」

「知ってるな」

青柳はきっぱりと答える。

「俺が、この鑑定を宇宙防衛省の外託団体の研究所へ依頼した後、省の上層部が動いたって噂が技術部関係に流れてな。だから、この鑑定は民間の大学にいる俺の知り合いに頼んで再度、鑑定してもらったものだ。この鑑定書、上層部はこの存在にまだ気付いていないと思う。しかし、時間の問題かもな。だから、これはお前が持ってろ。俺の所に圧力がかかる前にお前に渡しておくよ」

「あぁ、分かった。ありがとな」

村崎は少し口角を上げて、受け取った。



食堂。そこで、水瀬は紅茶のティーバッグを持てあましていた。一方、村崎は貰った鑑定書を読みながら、マグカップにコーヒーを入れていた。

「ねーねー。どうすれば、いいのかな?」

水瀬が呟く。しかし、村崎は答えない。すると、村崎は鑑定書のある事実に気付いた。

――もし、この時点で上層部から圧力がかかったら。

――厄介だな。

すると、水瀬の携帯端末が鳴った。メールを開く。青柳からだった。

『勝手に鑑定依頼したのがバレている。上層部が来た』

「お前は、起動部の奴らの所へ行け」

「え、でも」

水瀬は戸惑う。しかし、村崎は続ける。

「そして、奴らと同じ、何も知らなかった。そうしろ。」

「え!?」

「いいから!!」

村崎は資料室へ駆け出す。

「どこ行くの!?」

水瀬は叫ぶ。すると。

「シュレッダー!!」

村崎の叫ぶ声が聞こえた。そして、水瀬は立ち尽くした。

――何で……?



資料室。周りの棚には資料がきれいに整理されて並んでいた。そんな中、村崎はシュレッダーの前に佇んでいた。

――確か携帯に番号が。



上層部の男性がドアを開けた。

すると、そこには鑑定書をシュレッダーにかけている村崎がいた。

「どうやら、トラブルメーカーのあなたでさえ、さすがに今回の件、どういう意味か理解しているみたいですね」

上層部の男性はそう言い、村崎の手元を見た。

「……」

「航空幕僚長がお呼びです。お会いになられますか?」

「はい」



「麦は地面に落ちれば、多くの実を結ぶ」

「……」

「潰しなさい」



その夜。村崎は共用保管室にしまってある、個人にそれぞれ配備された小型銃をIDを使い、持ち出した。

屋上には誰もいない。見えるのは、美しい夜景だけだった。

村崎は銃口を自分のこめかみに当てる。そして。

――黙祷。

フラッシュバックしたのは、名も知らない同僚の出棺。

――俺は何に負い目を感じればいいんだ?

――俺は君の考え方が心地好いのだけれど。

――やっと、正式に自分を嫌いな理由見つけた。自分の気持ちも無視できる。

血液が飛び散った。

――やっと、守る人になったのかと思ってる。



村崎は病院で意識を取り戻した。

「何で?」

近くにいた水瀬が涙を流していた。

「泣いてるのか?」

「近くのビルで籠城事件なんてなかったら、死んでたんだよ!!」

「?」

「その事件が解決した後に近くの鉄橋の道路を通らなかったら!? 警察の狙撃班が気付かなかったら!? その鉄橋が無かったら!? 死んでたんだよ!!」

「……あぁ、そういう事だったのか」

どうやら、近くのビルで籠城事件があり、その事件の解決後、近くの鉄橋を警察の狙撃班が通り、自殺をしようとしている村崎を見つけ、阻止したようだった。

「何で?」

「?」

「何で組織の人間みたいな事するの!? 何で、宇宙防衛省という組織を守ろうとするの!?」

水瀬は取り乱した。

「だって、お前が昔守ろうとしてたから……。昔、お前は何も知らない組織の人間だった、誇らしそうにしてた、笑っていたのに……。だから……」

村崎の脳裏に過去がフラッシュバックする。

「今回だって、別に組織の駒にされたって。お前が、君が、昔に戻ってくれれば、俺はそれで良かったのに!! なぁ、俺は間違ってたかな……」

「……」

水瀬は言葉が見つからなかった。

「時間なんて、大っ嫌いだ。みんなは助けられないし、組織も壊すし、お前も変わっていくし」



水瀬は病室を出る。すると、病室のドアの横でリードが待っていた。

「あいつ、絶対出世しないな。」

「え?」

「保身の為に仕事しないから。じゃ」

彼はそう言うと、去って行った。

「……」

水瀬は去って行く彼の背中を見つめて立ち尽くした。



すると、彼女は昔の光景をフラッシュバックした。

「なぁ、お前」

村崎が水瀬に声をかけた。

「何?」

彼女はその声に振り返った。

「何で地球、守りたいんだ?」

村崎が問いかける。

「だって、攻撃しないから」

そして、彼女は続ける

「最大の防御が防御のままなの。だからだよ?」

彼女は笑顔だった。



病室。

「お前はこの地球、守ればいいよ。俺は邪魔がしたくてお前らの敵側になったわけじゃないからな? それから、これだけ。俺が守っていたあいつらは、間違っているだろう。でも、俺は、守らなければと思った。それだけは、理解するな」



航空幕僚長室。

「それで、何だ? この間の空中爆発の件についてと聞いているが」

リードは例の鑑定書のファックスを見せる。

「なぜ、その鑑定書を持っている!?」

航空幕僚長は取り乱した。

「あなたが一粒の麦と例えたあのバカが、オリジナルをシュレッダーにかける前に、私にファックスで送って来たものです」

――2次元の人は、赤道では平行な光が極地では交わる事は観測出来ても、原理は分からないらしいよ?

水瀬の言葉がフラッシュバックした。その言葉を思い出し、リードは考えていた。

――正義の行方もずれていくのか。

「その様子だと、麦がまた1つ増えるようだが?」

「無駄ですよ」

リードは言い放つ。

「私が死亡、もしくは私と連絡が取れない様になった場合、これを世に出して下さいと、知り合い数人の報道関係者にファックス済みです」

「……」

「それから、このファックスを知り合いの地質学者に見てもらいました。それで、やっと分かりました。この鑑定書が何の証拠だったのか。この最新型のステルスの成分の中の1つ、これが、地球にしか存在しない特殊な化合物だったのです!!」

「……」

航空幕僚長は何も答えない。

「これを作ったのは、あなた方で間違いありませんよね!!」

航空幕僚長は、紙を持った手に力が入る。紙がくしゃと潰れる。

「この宇宙防衛省を壊したいのか?」

リードは机の上に手を勢いよく振り下ろす。ダンッと音が響く。

「この航空幕僚長という私の経歴を壊したいのか? の間違いでは? 最後ぐらい、保身以外の理由で働いて下さいよ」

バタンッとドアが閉まる。リードは勢いよく、ドアを閉めた。

「ったく、どいつもトラブルメーカーばっかりだな」



一ヶ月後。新聞にとある記事が載る。

『航空幕僚長 失言により 辞任

「ステルス製の鳥が監察官だと、組織は良くなる」発言』

――ま、これであのバカの期待には、答えられたか。そう言えば、今日が退院だったな。



――早く会いたい。

水瀬は走って行く。航空格納庫のすぐ隣にある滑走路へ。すると、そこには村崎が空を見上げて佇んでいた。

水瀬は駆け寄る。しかし、勢い余って、ぶつかって地面に倒れる。

「ったく、いってぇーな。お前な、俺はまだ傷完全に治ってな……」

水瀬が涙を流していた。

村崎はそれを見て、微笑む。

「バーーーカ」


空は晴れている。今日も空を守る。



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