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召喚獣バンクナンバー1の俺は異世界で本気を出せなくて辛い 【なろう版】  作者: 佐久間零式改
第一部 さすらいの召喚獣ランクナンバー1の男
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第8話 悲しいな。君を壊さないといけないだなんて……

『異世界・アンドロイドだけの世界 その3』




 勢いって怖いものだな。


 条件としてデートをしたいだなんて口にしてみたものの、この世界に来たのは初めてで、この世界のならわしを俺は知らなかった。


 この世界でどこでデートするのとか、どうやってデートするのかとか全く分かっていなかったのだ。


「一つ聞きたいんだが、この世界でデートをするなら、どこかおすすめの場所ってあるかい?」


 俺はシャーリーを頼るほかなかった。


 おそらくはデータベースなどを持っていそうだから、渡りに船といったところだ。


「検索します。約四十年前のデータになってしまいますが、ご了承ください」


 数秒の間、シャーリーの動きが止まった。


「ハートランド山の山頂から見える夜空が綺麗だとされています。そこで誓い合った恋人達は、一生愛し合えるそうです。数百年前、かの疾風怒濤のジェネラル、ミストラルド三世が、素晴らしき炎竜姫ネーニャとその場所で出会い結ばれたと言われています」


「……誰だよ、それ! まあ、たぶん、この国の偉い人なんだろうけど……うん、そこにしよう。しかしだ、夜まで時間があるが、どうしたものか」


「山頂まで行くのには時間がかかります。自走車を利用すれば、夜には着くはずです。利用しますか?」


「それだ!」


 自走車がなんなのかは分からないが、シャーリーのエスコートしてもらうしかない。


「それでは、自走車を呼び出します。少々お待ちください」





 * * *





 自走車は、馬車に近い乗り物だった。


 ただし、馬などいるはずもなく、馬の形をした機械が引っ張るという、近代的というべきか、回顧的というべきか迷う乗り物だ。


 車の部分は、二人しか乗れず、シャーリーと隣り合うように座らざるを得なかった。


 肩を寄せ合うように座った事があるのは、東海林志織くらいなもので、シャーリーと肩を並べて座っているのは清新さが伴っていた。


「何かを話した方がいいのだが、何を話すべきなのか」


 シャーリーはそうでもなさそうだったが、俺はなんだかそわそわしていた。


 こういう場合、恋人ってのはどんな会話をしているのだろうか?


 俺とシャーリーは恋人同士ではないにしろ、パリッとしたトークをすべきなのではないだろうか。


 寝たりするのが一番なのかもしれない。


 そういうワケにもいかず、なんとなく居心地の悪さを味わっていた。


「四十年をどういう気持ちで過ごしてきたんだ、シャーリー達は?」


 話題が見つからず、気にはなっていた事を言葉にした。


「寝ても覚めても同じ時を過ごしているような事に次第に無感覚になっていきました。一体のアンドロイドが故障して廃棄され、製造したアンドロイドが故障した者の代わりに配備される度に私たちは変化を喜んだものです。ですが、その変化もしばらくすれば変わらない時の流れになっていき、また同じ時の流れに飲み込まれていくようなものでした。その中にあって、唯一私だけが自由に動き回り、可能な限り変化を与えていたのです。私だけがアンドロイド達にとって救いだったようです」


「ん? シャーリーだけは自由に動け……あっ、そうか。だから、俺を召還できたのか。でも、何故?」


「私に与えられていた命令は、開発者であるアシモフの補佐とその他の雑務でした。その他雑務の中には、他のアンドロイドの補佐ともあったため、法律には反しない限り、自由に動くことができたと言っても過言ではありません」


「拡大解釈は可能だったって事か」


「はい。私は補佐をする目的であれば私は動く事が可能でした。私に召喚獣を召喚するという術を教えてくれた友人がいたのです。その友人から召喚の方法を学び、ショウイチを召還しました」


 その補佐の目的が、1万体のアンドロイドの破壊か……。


 それがどういう心境なのかと、その友人がどういう奴だったのかは訊く気にはなれなかった。


「ここ……か」


 デートスポットと言っても、開けた広場があるだけで、他には何もない。


 整備は生物がいなくなってからもアンドロイドが続けているからなのか、散らかったり荒れていたりはしていなかった。


 来る者がいないのに整備を続けるのは、どんな思いが去来するのだろうか。


「で、ここで恋人たちが何をしていたんだ? いちゃいちゃしていただけか?」


 すっかり日が暮れていて、空には、満天の星空が広がっている。


 本当の恋人とここに来たら、良い気分になれそうで、デートスポットになっていた事も首肯できる。


「私の身体は人よりも硬いため、いささか気持ちよくないかもしれません」


 俺の後ろにずっといたシャーリーはそう言うと、正座するようにぺたんと地面に座り込んだ。


「どういう意味で?」


「膝枕です。かの疾風怒濤のジェネラル、ミストラルド三世が傷ついた時、ここで素晴らしき炎竜姫ネーニャが膝枕をして介抱したと言われています。それがきっかけとなり、二人の間で愛が生まれたのです。そのためか、ここでは、淑女が膝枕をするのがならわしとなっていたそうです」


「膝枕……」


 シャーリーが手で自分の太ももをぽんぽんと叩いて促してくる。


「ならば堪能するまで!」


 ままよと思いながら、シャーリーの太ももに頭を預けることにした。


 シャーリーが言うように硬いかどうかは、今回が初体験のため分からないが、十分に柔らかいと思う。


 それに不思議な事にシャーリーから体温を感じる事ができた。


「人肌なのか? ぬくもりがある」


 冷たいという想像を裏切られて、意外な事に心地よい温もりがある。


 もしかしたら、開発者のこだわりであったのかもしれない。


 実の娘に模すための……。


「星空を観察するには、私の乳房が若干邪魔かと思います」


 視線を向けてみると、なるほどその通りだ。


 俺の視界の半分くらいをシャーリーの膨らみが占めてしまっている。


 手を伸ばしたり、いい仲だったらむしゃぶりついたとしても問題ないのだろうけど、俺とシャーリーはそんな事ができる関係でもない。


「……」


 悪いと思いながらも、勘づかれないように匂いをかいでみる。


 機械油のような鼻につくような……というようなものを想像していたが、全然別物だ。


 柑橘系の匂い。


 そして、ほのかな甘いパンの香り。


 もしかしたら、毎日パンを作るようにプログラムされているのかもしれない。


 消滅した人のために。


 食べる人がいないのに焼き続いているのかもしれない。


 捨てるだけのために。


 シャーリーがそんな事を四十年ずっと続けているところを想像して、涙腺があつくなるのを感じた。


「悲しいな。君を壊さないといけないだなんて……」


 だが、俺は涙を見せない。


 ミッションを抜きにすれば、俺とシャーリーはこんなふわふわした関係を続けていられるのかもしれない。


 だが、それでは駄目なんだ。


 シャーリーを解放してやらねばならない。


 寝ても覚めても同じ時を過ごしているループのような毎日に終止符を打つためにも。


「心が痛むのですか? ショウイチは優しい人なのですね」


 シャーリーが俺の顔をのぞき込むようにすると、二つの山が揺れて、俺の鼻先をなでた。


 気持ちがそわそわしたが、シャーリーの気持ちをおもんばかると、瞬時にざわついた思いが収まる。


「夜が明けたら終わらせよう。明けない夜がないように、終わらない悪夢がないように」


 この夜明けがシャーリー、いや、この世界にいる一万体のアンドロイドにとって最後であって欲しい。


 そして、次の夜には永遠の眠りが訪れている事を俺は望む。



 * * *




 夜が明けた頃、俺はシャーリーに起こされた。


 途中、俺は眠ってしまったらしい。


 俺が寝ている間中ずっと、シャーリーは膝枕をして俺の事を見守ってくれていたようだった。


「全てのアンドロイドを招集できるようならして欲しい。今日の夜が来る前に終わらせるよ、このミッションを」


「分かりました。時間がかかってしまいますが、シャロード広場に集めます」


 自走車でシャロード広場に連れていかれ、俺は一人でアンドロイドが集まるのを待つ事となった。


 それから二十~三十分後だろうか、シャーリーが自走車で現れ、


「お口に合うかどうか分かりませんが、お腹がすいているようでしたら食べてください」


 三つのパンと飲み物を置いて、またどこかに行った。


 そのパンは、膝枕をしてもらった時に嗅いだ柑橘系の匂いそのものの味だった。


「これがシャーリーが焼いた最後のパンになるのかな? 味わって食べなければ」


 シャーリーを破壊すれば、毎日行っているであろう無為なパン作りから解放される。


 そうなると、シャーリーが焼いた最後のパンを俺が食べた事になる。


 これも巡り合わせなのかもしれない。


「ごちそうさまでした!」


 パンを全て平らげ、俺は手を合わせた。


 何故か、目頭があつくなる。


 だが、俺は涙を堪えた。


 終わる前に泣いてしまってはダメだ。


「全て終わらせるために俺が来たようなものだな」


 飲み物は渋いのだが大量の砂糖を入れて甘ったるくしたお茶のようなもので別の意味で満足できた。


 食事が終わった頃には、広場にアンドロイドが集まり始めた。


 シャーリーのような人型はやはりおらず、どのアンドロイドもむき出しの機械の身体をしている者ばかりだ。


 それからほどなくして、広場はアンドロイド達で埋め尽くされた。


 本当に1万体いるのかどうか分からないが、見渡す限りアンドロイドで、壮観と言うよりも不気味ではあった。


「お待たせしました」


 最後とばかりにシャーリーが広場に現れ、俺の前でお辞儀をした。


「シャーリー。俺は無抵抗の奴をぶっ倒す趣味はないんだ。可能であれば、かかってきて欲しい。一体一体、確実にぶっ潰していく」


「分かりました」


「俺はもう準備万端だ」


「では、始めますか?」


 その事をもう伝達したのか、シャーリーが珍しくせっついてきた。


「ああ、始めてくれ」


 俺は1万体のアンドロイドを前に、怯みもせずに身構えた。


「……それでは、ミッションスタートです」


 シャーリーのその言葉と共に、アンドロイド達が一斉に俺へと向かってくる。


「往生しろよ!」


 他のアンドロイドよりも機動力の高い一体が向かってくるのを拳で叩きつぶすと、機械油が血の飛沫のように俺の降り注ぐ。


 それが四十年間流す事を許されなかった涙のように思えて、なんとももの悲しくなってくる。


 そんな気持ちを振り払いつつ、俺は拳を向かってくる者達にたたき込んでいった……。


「……疲れるな、意外と」


 気がつくと、広場に立っているのは、俺とシャーリーだけになっていた。


 ここにいた9999体のアンドロイドは全てスクラップ状態というよりも、ただの鉄くずと成り果てて広場に散らばってしまっていた。


 無我夢中で飛びかかっているアンドロイドを拳で倒していた。


 途中で自我がなくなり、無我の境地に立って、アンドロイドを破壊し続けてしまっていたようだ。


 倒したアンドロイドの身体から飛び散った油が降りかかったのか、俺は油まみれになっていた。


 いや、これは油ではなく、アンドロイドの血と涙だ。


「後はシャーリーだけか」


 俺は油を全く拭わずにシャーリーと正対した。


「はい」


 シャーリーは構えもせずに、俺の事をじっと見つめている。


「シャーリー、戦う前にやり残した事があるのと、ちょっとした質問がある。いいか?」


「……はい」


「質問は、コアな部分を破壊すればシャーリーは停まるのか? それとも、全部破壊しない限りは駄目なのか?」


「ここにコアと言われる動力部があります。おそらくは、コアがなくなれば、私は稼働できないはずです」


 シャーリーはそう言って、心臓の辺りに手を当てた。


 やはり娘を模倣するために、シャーリーの身体を人と同じ作りにしたのかもしれない。


「やり残したのはキスだ。膝枕はしてもらったが、キスがまだだった。今、その約束を果たしてもらいたい」


「失念していました。ショウイチの心残りになるのであれば、仕方ありません」


 シャーリーがアンドロイドの亡骸を避けるように歩きながら、俺へと近づいてくる。


 俺もなるべく踏まないように心がけながら、シャーリーへと近づいていく。


「すまないが、俺ってキスはした事がないんだ」


「奇遇ですね。私もありません」


 何故か、俺たちは笑い合った。


 シャーリーには意思があると同時に、感情もあったのかもしれない。


 もしかしたら、俺が笑ったので、笑い返すようなプログラムがあって、それで笑っただけなのかもしれない。


「失礼する」


 俺はやり方が分からないながも、右手でシャーリーの事を抱き寄せて、唇を無理矢理に重ねた。


 シャーリーは抗わず、俺へとその身を委ねる。


 シャーリーの唇はとても柔らかかったが、キスは倒したアンドロイド達の血と涙の味がする。


 そうしている間、俺は左手で手刀を作り、人の心臓がある辺りに痛みを感じないようにとすっと素早く刺し入れた。


「ッ!」


 シャーリーのボディがびくっと震えるも、唇を離したりはしなかった。


 心臓の大きさは分からないでもない。


 心臓のレプリカとも言えるシャーリーのコアが刺し込んだ左手が捉えた。


 このコアを潰してしまえば、シャーリーは……。


「……終わらせてください」


 シャーリーは唇を離して、俺の目を見つめた。


 幸せそうな表情をしながら、俺に微笑みかけていた。


 感情がないはずのアンドロイドなのに、幸福そうな瞳をしていた。


 俺が見間違いかと思ってしまうほどの感情がその瞳には宿っていた。


「これで悪夢は終わるのか。アンドロイドが見ている悪夢が……」


 強く握ると、シャーリーのコアは簡単にひしゃげてしまった。


 シャーリーにとって、この四十年間が空っぽであった事を示すように。


 シャーリーの記憶を何一つ埋めるものがこの四十年間なかったかのように。


「ありがとうございました。私はあなたと会えて幸せでした……」


 シャーリーは涙のようなものを目から流したかと思うと、俺にその身体を預けてくる。


 転送の光の柱が立ち上る中で……





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