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第20話 俺を召喚しようっていうか!!


 俺は完遂の弥勒とやらを観察していた。


 強そうではあるが、勝てないって事はなさそうだ。


 しかしだ。


 今からこいつと戦わないといけないって事なのか?


 完遂の弥勒って確かナンバー2だった男だっけか?


 そうなると、相当強いのは確かだが、この傷だとさすがに無理だわ。


 とっとと回復して体制を万全にしておかないと。


 血が流れ続けていて、体温が下がっているし……。


「ドンゴ、全快の薬を交換してくれ」


 振り返ってドンゴをそう希望するも、ドンゴは険しい表情を何故か首を横に振った。


「どういう事で? ポイントがないからか?」


「……いや。本人が説明するさ」


「は? 本人って誰だ?」


 俺とドンゴの立ち位置のちょうど中間に光の柱が竜が空へと駆け上がるように立ち上った。


 転送の際に起こるエフェクトなのは確かだが、誰が転送されたというのだろう?


「くっ、殺せ……」


 そういう狙った台詞と共に転送されてきたのは、ジオールであった。


 こいつもどこで覚えてきたんだ、そんな台詞を。


 だが、苦痛に歪んだ表情をしていて、なんだか様子がおかしい。


「おい、ジオール。手は……いや、腕はどうした?」


 左手を右肩の辺りに添えているのだが、そこにあるべきものがなく、最初は見間違いかと思ってしまった。


「右腕は……どうした?」


 ジオールの右腕がなくなっていた。


 そこにあるべきものがなく、ジオールがサイボーグだと言っていたのが真実だと指し示すように大破している右肩から機械の身体の一部が露出し、まれにバチッと火花が散っていた。


 右腕だけの破損というように見えるが、実際は別の箇所も破壊されているのかもしれない。


 ジオールをここまで破壊できる奴って誰なんだ?


「完膚なきまでにやられて、一時的にアプリが停止してしまっていました。弥勒相手では、私などまだまだですし。四体ほどは倒しましたが、こう見えても被害は最小限に抑えられたんですよ」


「あいつ……か」


 感情にまかせて、あいつを殴りに行きたい。


 血が……血が流れすぎて、なんだか寒くなってきたんだが……。


「舞姫もリヒテンも無傷とは言えないまでも……それなりの……」


 ジオールは苦しそうだ。


 しかしだ。


 俺も苦しい。


 苦しいというか、意識が薄れている。


 目がくるくるまわってきそうだし、なんだか足下がふらふらし始める。


 血だ。


 血をくれ!


「そんな事よりも、薬だ。回復の薬をくれ……。俺が死にかけてる……」


 俺は倒れた。


 豪快に倒れた。


 受け身も取れずに倒れた。


 血は大事なんだ。


 今度、肉を切らせて骨を断つって言う作戦を採るときは、即座に回復できるかを考慮しておこう。


 無理して死んだら嫌だし……。


「あああっ!! つい演技に熱が入ってしまいました。すぐに全快の薬を飲ませますので、ご安心を」


 演技だったのかよ……。


 俺がこんなにも苦しんでいるのに、おのれ……ジオール……。


 この恨みはきっといつか晴らす……。


 意識が遠のきあるつつ中、何かを口の中に押し込められた。


 俺は残りの気力を振り絞って、ごくりと嚥下する。


 これは全快の薬……か。


 壊れていた細胞やら身体やら何やらが再生されていく感触が始まったな。


 この感覚はあまり好きではないが、仕方がない。


 しばらく蘇生作業に身を任せていると、段々と身体が元通り鳴っていくが分かった。


「……さて、俺様復活といこうか!」


 もういいだろう。


 俺はカッと目を見開き、上半身を起こした。


 チートレベルの回復薬は偉大だな。


 瞬時で元通りに戻ってやがる。


「……さて、最終決戦というところか?」


 自分の足で立っても、ふらふらしないのを確認してから、軽くストレッチをして身体をほぐす。


 ラスボスが自ら登場してくるだなんて、まるで打ち切り漫画の最終回みたいじゃないか。


 あれ? もしかして……。


「いえ、ラスボスの顔見せイベント程度ですね。弥勒を倒すのは現時点では無理ゲーです。伊東一刀斎さん、一万五千人と連戦して勝てる自信があるようでしたら、勝てますけれども」


「伊東一刀斎、一万五千人ってどういう意味なんだ? 意味不明だ」


 何度も頭をひねってみても、ジオールが言わんとしている事が理解できないでいた。


「弥勒には、クローンが一万五千体ほどいるんですよ。クローンと言っても、活動できるのは一人だけです。その一人にこれまでの経験値が蓄積され、常にアップデートされ続けているんです。最初はクローンが数十万体いましたので、結構数が減っていますね」


「クローンって、赤ちゃんから成長させる必要があるから同一個体に近づけるのは難しいんじゃなかったか?」


「異世界文明のクローン技術です。同一個体を増産する事ができたのです。欠点であり、長所でもある技術がそのクローンには備わって……」


 ジオールの視線が動いた瞬間、その身体が俺の視界から消えた。


 何が起こったのか咄嗟には了解できなかった。


 俺の真横に人の気配が唐突に出現したので何事かと思ってみやると、そこには、完遂の弥勒が平然と立っていた。


 弥勒が俺の動体視力では捉えられないほどの速度でジオールをぶっ飛ばしたのか?


「ジオール君。疲れたろう? そこでしばらく休みたまえ」


 弥勒に警戒しつつも、ジオールがどうしたのかと眼だけで周囲を探ると、工場の壁にめり込んでぐったりとしているジオールの姿があった。


「ちいっ!」


 一気に頭に血が上がるも、俺はどこか冷静だった。


 身体が勝手に攻撃態勢をとって、傍らにいた弥勒の顔面に鉄拳制裁を加えようとした時、弥勒は俺に笑いかけてきて、手を差し伸べてくるなり、こう言ってきたのだ。


「握手をしようではないか。初対面には挨拶は必要不可欠なものだ」


「は?」


 血の気がひいたというべきか、気概を一気に削がれたと言うべきなのか、俺の拳から力がふっと抜けた。


 俺は握った拳をゆっくりと開き、やり場がなくなったこともあってか、弥勒が差し出したきた手を仕方なく握った。


 無機質ではなく、厚くて頼りがいがありそうな手をしていた。


「……ふむ。それでこそ敵対勢力というものだ」


 弥勒は手を離すと、戦う意思はないとばかりに俺に背中を向ける。


「今回の敵は私ではない。もっと適任者を用意してある」


「は? 逃げるのか?」


「サリサ。舞台は用意した。ここで世界を恨みながら死ぬが良い」


「我が心の声を聞きなさい」


 弥勒の声に応えるように、どこからともなくリビングルームで聞いた覚えがある女の子の声がどこからともなく響いてきた。


 どういうことだ、これは!


 俺は緊張感を再び高めた。


「そこか!」


 あれだけのダメージを負いながらももう上半身を起こしている思案顔をしていた伊東一刀斎の遙か後方に人が立っていた。


 トレンチコートに白ふんどしという召喚士としての正装をした一人の女が立っていた。


 その女……おそらくはサリサは、人差し指を唇に当てると、口の中へとゆっくりと指を差し入れていった。


 八重歯に当たったところで、グッと人差し指を噛み、口の中に血の味が広がるまで八重歯を食い込ませていく。


「私の血は贄」


 人差し指を口の中から抜くと、八重歯によってえぐられた傷から血がポタポタと滴り落ちて来た。


 その血は地面に落ちるなり、光り輝き、爆ぜて霧のようになっていった。


「贄が呼び水となりて、我が声に応えよ、ユリ目ユリ科エンテリック・ホンジョウショウイチロウ!」


 なんで俺の名前を呼ぶ!


 俺を召喚しようっていうか!!



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