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第14話 もうヤダ、このアイドルオンステージ

 この異世界の首都らしき場所に俺は飛ばされていた。


『福男を決めるお祭りに参加するついでいい。とある人を連れてくるがよい』


 ナルイハーVを倒し、サリサとかいう少女に後ろを取られた一騒動があった後、リヒテンからそんな事を告げられた。


「連れてくる? 誰を?」


『そのイベントに参加すれば自ずと分かる』


 それだけ言われて、俺が返事をする前に異世界へと転送された。


 今日、三度目の転送だっただけに、もう身体が悲鳴を上げそうではあった。


 俺をここまで酷使するとは、ブラック企業並だな、本当に。


「ここが会場なのか?」


 福男を決めるお祭りみたいなものとは聞いていたが、国というべきか、この異世界をあげての一大イベントのようではあり、大広場とおぼしき場所に多くのむさ苦しい男達がすし詰め状態で息をするのも苦しいくらいだ。


 ざっと見では数千人はいそうで、汗臭さが渦を巻いているかのような感じがして、大広場は男の園のようではあった。


「福男を決めるって言っていたが、どうやって決めるんだ? その辺りの説明を全く受けてはいなかったが、普通に競争とかそんなもんなのか?」


 どう見ても筋肉自慢な男ばかりで、インテリだとか優男の姿が見えない。


 なんか嫌な予感がするが、俺の気のせいだと思いたいところだ。


「参加者の皆様~♪ 筋肉もりもりになってる~?」


 大広場の上空にホログラムなのか、どう見ても小学生の低学年にしか見えない上、ランドセルを背負って、どこぞの小学校の制服にしか見えない服装の少女が映し出され、ハイテンション気味な挨拶を述べた。


 その美女の姿が見えるなり、大広場は色めき立って、わいのわいのと歓声が上がる。


 なんだ、このノリは?


「十年に一度の筋肉祭りだけど、みんなの筋肉、元気かな~?」


『元気で~す!』


 女神の問いに応えるように、大広場の男達が陽気な声でそう返した。


 ついていけそうもないんだが、このノリには……。


「みんなの筋肉、もう最高潮~?」


『サイコウチョー!!!!!!』


 またよく分からないノリで返しているし……。


「みんなはそのご自慢の筋肉で勝利を掴めそう~?」


『当然、勝利を掴む!!!!』


 なんていうんだろうか。


 アイドルのコンサートでの一体感的な空気がこの大広場を支配していた。


 その中で、俺は部外者でしかない。


 この異世界ではこの空気が読めれば楽しめるんだろうが、異邦人の自分にはさっぱりではあった。


 疎外感がひどくて、逃げ出したいくらいだ。


「今年こそ、ヒャーレン山に住む魔王レベロングを倒しちゃうぞ! その筋肉があれば、今年こそ、きっと勝てるよね~?」


『勝利は我が手に!!!』


 なんだ、これ。


 十年に一回、筋肉隆々の男達を集めて、魔王レベロングを倒そうとかいう試みなのか。


 これのどこが福男と関係があるんだよ。


 騙された、すっかり騙された。


「見事、魔王レベロングを倒した筋肉さんは英雄として賞されるので、がんばってねー!」


『がんばりまーす!』


 もうヤダ、このアイドルオンステージ。


「じゃ、ルールを説明するね。でも、ルールは簡単に。標高二千二百メートルのヒャーレン山の山頂まで登って、そこに居城を構えている魔王レベロングを倒すだけ! これだけだから簡単だよね?」


『簡単でーす!』


 簡単なワケないだろうが。


 今年こそって事は、今まで倒せてないって事だろうが。


 それを簡単とか言っちゃう、この異世界の筋肉野郎達って……。


「それじゃ、そろそろスタートの時間かな? みんな、がんばってねー!」


『がんばりま~す!!!!!!』


 そして、沸き上がる歓声。


 大広場の熱気は最高潮に達していたが、俺はすっかり呆れかえっていて、萎えきっている。


 俺には無理だよ、この空気は。


 というか、ヒャーレン山ってどう行くんだ?


 この異世界に来たばかりだから、地理とかよく分からないんだけど、まあ、この筋肉達に付いていけば辿り着けるか。


「それでは、スタートしますよ! スタートですっ!!!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』


 男達の叫びとも雄叫びとも取れる絶叫で、大広場の筋肉達が動き始めた。


 俺は出遅れたせいもあるのか、筋肉の波に呑まれて、揉まれて揉まれて揉まれて揉みくちゃにされながら、人の流れに流れ流れていた。


「こ、この俺が……」


 もうなるようにしかならない。


 この筋肉の波に逆らうだけの気力が今の俺にはない。


 もうなるようになれ……。



 流れに身を任せているうちに、大広場にいた男達が一路、前方にそびえ立つ雪山に向かっているのが分かった。


 あの雪山がヒャーレン山のようだが、この一段で攻略できるものなのか?


 筋肉の鎧があっても、標高が高ければ高いほど気温が落ちていくはずだから魔王に会う前に凍死とかしていそうなんだが、大丈夫なのだろうか。


 そんなのは俺の杞憂だろうな。


 十年に一度、こんな事をやっているんだから、みんな分かっているんだろうし。



* * *



「分かってないじゃん!」


 俺は思わずそう突っ込んでいた。


 雪山登山開始早々、寒すぎたせいで動けなくなる者が多数出ていたのだ。


 身体をガタガタ震わせて、その場にうずくまる者がいて、雪山に対する対策をしていない阿呆がたくさんいるのが散見された。


 俺はようやく筋肉の波から逃れる事ができて、そんな奴らを横目に頂上を目指していた。


 この雪山程度ならばなんとかなると確信している。


 ここよりも寒い異世界ならば、何度か体験していたから登れない事はないだろうし。


 気になる事と言えば、ものすごい勢いで滑落してくる筋肉野郎を見定めて、ジャンプなり横に飛ぶなりして避ける事くらいだ。


 頂上にいる魔王なんて、この俺様にかかれば、ものの数秒で終わるだろう。


 滑落してくる奴に巻き込まれて、ふりだしに戻るさえなければ、きっと魔王程度なら指先一つで倒せるだろう。


 だが、福男っていうの何なんだ?


 それだけが俺には分からなかった……。

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