第6話 波乱の予感
「違う時間軸、あるいは、異世界に逃げれば良いとでも思っていたか? 白銀の一族の者よ」
女の声がした。
しかも、勝利を確信しているかのような傲慢さがその声音にはこもっている。
「お前にはもう戻る世界などありはしない」
喜びに震えているかのように声も震えていた。
「お前が行く時間軸、異世界は必ず破壊する。それが我らの手段だと分かれ」
黒のトンガリハットに、ぼろ布のような黒ロングいコートを着た長身が、俺がさきほど弾き飛ばした棺桶を引きずりながらこちらへと歩いてきていた。
「お前がいた学園も、デスティニー・マイスターが壊滅させている頃だろう。我が盟主にはたやすき事よ」
その名前を聞いて、この状況をどうすべきかと思案しかけていた俺の取るべき選択が定まってしまった。
俺はケモ属性の女の尻から顔を離し、なるべくその身体に触らないよう注意を払いながら、上半身を起こした。
「今、デスティニー・マイスターと言ったな」
俺は立ち上がり、トンガリハットの女と向き合った。
「なんだ、お前は?」
俺の存在など歯牙にもかけていなかったのだろう。
不審人物をみるように目を細めて、俺を見やってきた。
「デスティニー・マイスターの仲間なのか?」
デスティニー・マイスターという男をリヒテンなどが追っていたはずだ。
ジオールからちょこっとだけ話を聞かせてもらったのだが、デスティニー・マイスターは、頬に記されている回数死んでも蘇るのだという。
しかも、蘇生したときには、体力が完全回復しているという事であった。
俺の場合、二回デスティニー・マイスターを殺している。
あの時、残り四十五回ほど殺しておけば良かったのかもしれない。
「我らの盟主だ」
「……そうか。なら、敵なんだな」
デスティニー・マイスターはあくまでもとある人物の意思に沿って行動していると伝え聞いている。
彼らのリーダー的な人物は、この宇宙そのものを作り替えようとしているのだという。
作り替えるという行為が如何なるものなのかは分からない。
だが、良くない事であるのは、そこはかとなく分かる。
「やるっていうの? 三下が!!」
トンガリハットは手にしている鎖を引く動作をした。
数瞬のうちに棺桶が上から降ってきた。
俺は白銀の女を抱きかかえつつも後ろに跳んで回避し、地面に叩き付けられた棺桶が瞬く前に左へと軌道を変えたので俺は後ろへと飛んで、棺桶を避けていた。
「さっきの邪神よりもやるじゃないか!」
「あんたもやるね! 私の棺桶を何度もかわすなんてよ!」
「……だけど、そんなんじゃ俺は倒せない」
「……潰れろ」
空を切って流れていた棺桶を一端引いてから、一歩前へと踏み出す。
トンガリハットの女は全身全霊を込めたように大きく振りかぶる動作をして見せた。
「おしまいだね」
目にもとまらぬ速さで棺桶が落下してきた。
俺は逃げもせず、ケモ属性の女を右腕で抱えたまま、左手で天を掴むようにあげて、棺桶を壮絶な速度で落ちてきた棺桶を受け止めた。
衝撃で多少腕がしびれ程度で、致命傷でもなければ、多少のダメージを受けるような攻撃でもなかったということだ。
「こんなんじゃ俺は倒せないよ」
俺は余裕の笑みを頬に浮かべて、トンガリハットに見せつけてやった。




