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召喚獣バンクナンバー1の俺は異世界で本気を出せなくて辛い 【なろう版】  作者: 佐久間零式改
第一部 さすらいの召喚獣ランクナンバー1の男
27/53

第27話 俺も交通事故に遭うなんて奇遇ですね

『ラストミッション その1』




「なんでだ?」


 飲食店のおばちゃんを問い詰めようとしていた最中に、俺は元の世界である自分の部屋に帰ってきていた。


「なんで俺は戻ってきているんだ?」


 あの世界を壊せたというのか?


 ただ単に強制帰還させられただけなのか?


 というか、あの少女は本当に安楽死施設に行ってしまったのか?


 分からない事だらけのまま帰還させられて、全くやりきれていないという不完全燃焼感が強い。


「ねえ、にーに」


 サヌも無事に戻されたようだが、珍しく思案顔をしていた。


「見かけなかった?」


 あの飲食店のところで、あの少女を見かけてはいなかった。


 サヌも俺と同じように探していたし、当然の問いか。


「ああ、見つからなかったが」


「……そっか。見間違いだったのかな?」


 あそこから安楽死施設が見えたし、少女が並んでいたのが見えたって事なのか。


 だとしたら、俺は信じるに値しない人間だったって事なのか。


 なんか自分自身が嫌になるな……。




 * * *




 異世界にいる時には痛みを感じなかったのが、元の世界に戻ってきてみると、日焼けの痛みがぶり返してきたのと、身体が焼けるように熱を帯びてきたせいで、俺は寝込む事となった。


 転送されると、身体の機能が地球でいる時とは異なるのだろう。


 その事を痛みという形で痛感させられた。


「こういうのを踏んだり蹴ったりって言うんだろうな」


 月曜日になっても痛みが治まらず、学校に電話をして休むことにした。


「にーに、良い子、良い子」


「お水持ってきてあげたわよ。日焼けで寝込むって、バカよね、あんたって」


「来てみたけど、僕は何をすればいいんだろね? 汗ばんでるし、身体拭こっか?」


「リリ、ご飯持ってきたんですよ。はい、あーんして、あーん」


 四人が代わる代わる部屋に来て、看病してくれた事もあり、痛みに耐えて寝ているだけの時間ではなかったので、救われた気分ではあった。


 この四人がいて良かったな。


 そうしみじみ思ったりした。




 * * *




 日焼けの痛みが引き、学校に行けるようになったのは、水曜日の事だった。


 日焼けの痛みは完全とはいえないまでも癒えてなくて、まだまだ多少の痛みが残っていた。


「先輩、見舞いに行ってくださいっす!」


「先輩、お願いっす!」


 一限目が終わって、だらだらしていると、柳美々と音々とが教室に駆け込んできて、俺の前まで来るなり、懇願するように言ってきた。


「……何の話だ?」


 お見舞い?


 俺、お見舞いに行くとかいう約束をだれかとしていたかな? なんてぼんやりと考えた。


「先輩、知らなかったんすか?」


 双子のどちらかが信じられないとばかりを目を見開いて、悲しげな眼差しで俺を見る。


「先輩、志織姉の事、聞いてなかったんすか?」


 片方がそう残念そうに口にして、何かを懇願するように俺を見て来る。


「熱が出ていたんで、2日間ほど学校を休んでいたんだ。東海林志織がどうかしたのか?」


「事故にあって入院したんすよ!」


 美々と音々は一大事とばかりに声を重ねて叫んだ。




 * * *




 学校が終わるなり、俺は東海林志織が入院しているという病院へと急いだ。


 俺が見舞いに来るのは嫌かもしれない。


 だが、例の件でデートすることになったりした仲なのだから、しない方がどうかしている。


 入院しているという病室のドアを開けた時、東海林志織はベッドから上半身を起こして、外を見つめていた。


 その表情は顔の左半分が白い包帯で覆われていたため、見る事ができなくなっていた。


 出先で交通事故に遭ったと美々と音々から聞いてはいる。


 意識不明の重体までは行かなかったそうだ。


 だが、左側から車に当てられ、身体がフロントガラスに激突。その衝撃でフロントガラスが割れ、ガラスの破片で顔に傷ができただけではなく、衝突による衝撃で大腿骨骨頚部骨折という怪我を負ったという。


「……」


 表情は見えなかったが、その背中は哀愁を帯びていた。


 お気に入りの場所で見かけた時や、あの道で追い抜いた時よりも、その背中は実際よりも小さく見える。


「お、おう」


 俺の存在に気づいたのか、それとも、ただ窓から視線を外しただけなのか、志織が俺の存在に気づいて、俺に顔を向けるなり、感情が読み取れない微妙な顔をした。


「見舞いに来たんだが……」


 志織は笑おうとしているのか、それとも、しかめっ面をしようとしているのか不明瞭な複雑な面持ちで俺を見つめていた。


「……ごめんね」


 思いがけない言葉が志織の第一声であったため、俺は面食らった。


 何を謝ろうとしているのだろう。


 事故にあってしまった事なのか、それとも、俺が来た事に謝ろうとしているのか。


「行けなくなっちゃったね」


「何の事だ?」


「デート、行けなくなっちゃったね。ごめんね」


「……あ、ああ。気にする必要なんてない。まずは治療が最優先事項だ」


 なんで今そんな事を言うんだ、志織は。


 俺はデートするなんて一言も言っていないし、周りが勝手に勘違いしていただけなんだ、なんて主張は俺にはできなかった。


 デートすることになってしまっているのならば何が何でも行ってやると覚悟は完了していた。


 その上、気の利いた台詞が口からでなかったせいもあってか、気まずい空気が生まれてしまった。


「今度は私が不完全燃焼ですって顔をする番かな」


 その静寂を打ち破ったのは、志織だった。


「ええと……」


 話が見えてこない。


 志織の言葉はどこから来ているのだろう。


「君が霞通りを疾走している時は凄く充実した良い顔してたよね? でも、高校に入ってからはいつも不満そうな顔してて、気にかかっていたの。だから、絡んじゃったりして、ごめんね」


 志織が俺を『不燃物』とか言っていた理由がようやく解せた。


 志織は中学時代の俺をよく見かけていたんだろう。


 たしかに、8キロの距離を全速力で走っている間はとても充実していた。


 その間は何もかも忘れて、ペダルをこぐことに集中し、学校生活よりも満たされた時間が過ごせていたように今だと思える。


 その時に比べれば、高校に入学し、異世界に転送されるようになってからは不満たらたらだった。


 全力を出してしまえば問題が起きるので出し切れず、速攻で沈む奴ばかりで全力でやり合うような敵にも出会えず、鬱屈した日々だった。


 そんな俺を見て、東海林志織は『不完全燃焼』と感じたのかもしれない。


「謝る必要はないさ。退院できたら、またロードバイクに乗って全力疾走すれば、何もかも忘れられるさ。きっと不完全燃焼にならないさ」


 俺は何気なく言ったつもりだった。


「……そうだよね。できたら、いいよね……」


 東海林志織の右目から大粒の涙が一つ。


 そして、堰を切ったように涙が流れ始め、左側を覆っていた包帯が次第に濡れていく。


「もしかして……」


 俺は言ってはいけない事を口にしたのだと知った。


 志織がどんな怪我を負ったのかは聞いていたが、どういう内容の怪我だという事を調べもしなかったし、聞きもしなかった。


 俺の予想が正しいのならば、志織は……。


「私、がんばるから……だから、きっと行こうね……。行こうね……」


 志織は手で顔を覆い、嗚咽をもらした。


「……」


 がんばれ、なんて無責任で、他人行儀な言葉を投げかける事は俺にはできなかった。


 そんな台詞は志織を傷つけるだけだ。


「行こう! 絶対に行こう! 退院したら絶対に行こう!」


 安易な慰めなどはかける気はなかった。


 かけるべきではない。


 そんな言葉は、東海林志織を真性の不完全燃焼にさせてしまうだけなのだから。




 * * *





 その後すぐ、検査の時間だからと病室を追い出され、俺は帰路についた。


 その道すがら、


「俺も交通事故に遭うなんて奇遇ですね」


 なんて言ってしまったら志織から絶交されるだろうが、青信号になったのを確認して横断歩道を渡っていたところ、俺はトラックに突っ込まれてひかれていた。


 怪我はそれほどでもなかったが……。





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