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召喚獣バンクナンバー1の俺は異世界で本気を出せなくて辛い 【なろう版】  作者: 佐久間零式改
第一部 さすらいの召喚獣ランクナンバー1の男
18/53

第18話 ちわっす、三河屋です

『異世界オールオールド その3』





「ひゃっはー! 男だ!!!!」


「男! 男! 男! 男!」


「男はいねえが~!」


 早くも俺は追われていた。


 転送されてからわずか十分ほどで、外部から来た人間だと見破られて、何の一言もないまま襲われそうになったのだ。


 事情を知らない者ならば、即座に確保されて種馬にされていた事だろう。


「くそ! 逃げる事しかできない!」


 幸いな事に事前情報があったから、なんとか逃れる事ができた。


「どう逃げる、どう逃げる、俺!」


 最初は数名だった追跡者も今では数百人はいそうだ。


 足音だけでも、恐怖が駆り立てられる。


 そこまで飢えているのか、それとも、生物的な本能がそうさせているのか分からない。


 奴らは走ってくるゾンビ以上の迫力があって逃げるのがやっとだ。


 追跡者の気迫に圧され、立ち向かうなんて事もできない。


 この俺が、だ。


 なんなんだ、この異世界は。


 下手な魔王よりも、生存本能の赴くままになった奴のが恐怖の対象たり得るってところか。




 * * *





 大きな建物を飛び越えたり、数百人の追跡者を一時的に振り切ると、俺は隠れ場所の必要性を感じた。


「どう逃げるのが一番か」


 運営側の怒りを買ったからって、なんで捕まったら死ぬまで種馬の異世界へと送り込まれなくてはならないのか。


 俺は異世界ハーレム系主人公なんて目指してはいなかった。


 ヒロインとか、チョロインに出会いたかっただけなんだ。


 それをハーレムだなんて。


 今じゃ、異世界じゃなく現実世界の方がハーレム状態になっているし、東海林志織とのお泊まりデートまでしそうだしで充実し始めている。


 というか、俺は誰かに恋したりできるのかな、現実世界で。


 できるといいなぁ……。


 しかしだ。


 今の俺は逃亡者に徹しなくては。


 どうしてこんな事態になっているんだ?


 誰かきちんと説明してくれよ。


「……ここなら……」


 そんな事を頭の中でぐちゃぐちゃと考えていると、とある屋敷にたどり着いた。


 広い敷地の中に、貴族が住んでそうな豪華な屋敷があったのだ。


 しかも、人の気配はあまりなく、ここならば隠れていても見つかる可能性は低そうではあった。


「見つかっても逃げられるそうだし、ここに隠れるか」


 敷地が広いから見つかったとしても逃げられそうだと、この屋敷に侵入して隠れることにした。


 警備員がいそうなレベルなのに、警報装置一つない無防備な防犯体制であった。


 俺は悪いと分かっていながらも侵入し、とりあえず隠れそうな部屋を物色することにしたんだが……。


「侵入者とは珍しい」


 本職が泥棒ではなかったからか、あっけなくこの屋敷の住人らしき男に見つかってしまった。


 というよりも、見つめられたのだ。


 俺は音を立てないようにとある部屋のドアを開けたつもりであった。


 男はデスクワークをしている最中だったらしいのだが、ドアが開く音に気づき、男が顔を上げた。


 その時、ドアを開けた俺と目が合ったのだ。


「……」


 中に人がいるかどうか確認せずにドアを開けた俺が大馬鹿者なだけなんだが。


「ちわっす、三河屋です」


 見つかったからには開き直るしかなかった。


「異邦人か。ゆっくりしたまえ」


 男は一瞥するなり、俺の存在などなかったかのように仕事を再開させた。


「お邪魔します」


 この部屋にいてもいいのかなと思い、俺はその部屋に入った。


 映画などで見るアメリカ大統領の執務室そっくりの内装の部屋であった。


「追われてきたのかね?」


 男は書類に何かを記載しながら、俺を見ずに問う。


「……そんなところですかね」


「あの者達は人ではない。人ではなくなった、ただの獣だ。種族繁栄という本能に支配されているからたちが悪い」


「ゾンビよりも怖かったな、あれは」


 追いかけてくる姿を思い出して、俺は身震いした。


「化け物よりも生きている人の方が恐ろしい。そのようなテーマの物語は多い。あの者達はテーマ通りに化け物などよりも恐ろしいのだよ」


 この男は俺に語りたいのではない。


 積もり積もった恨みを言葉に込めて、俺ではない誰かに語りかけているような気がする。


「何故そう思うんで?」


「あの者達には愛がない。愛がない交わりなど獣にも唾棄されるべき所業である」


「そこまで言うからには、何か知っているので?」


「愛とは理性である。理性とは愛である。故に、愛のないものに理性はない。そのような者達に繁殖する権利があるというのかね?」


 男が顔を上げて、俺の目をじっと見つめてくる。


 意見を求めているのではなく、肯定を求めている目であった。


「彼らは滅ぶべき存在だと言いたげだな」


「断言しよう。滅ぶべきである」


「滅びたくはないから本能に従っているんじゃないかな? 愛も理性も本能の上に成り立っているっていう可能性もある。もしかしたら、愛も本能も紙一重かもしれない」


 男はあごに手を当て、一考するかのような表情を見せた。


「君は、あいつと同じ意見なのだな」


 男はふっと遠くを見るような目をした。


「誰の事を言っているのか分からないが、光栄ですと言っておくか」


「ニール・ヴァーナ。私が愛した男だ。ニールが愛した男が、大統領であるゼクス・カリバー、そう……私だ」


「……」


 まあ、愛の形は色々とあるよね。


 それを恥ずかしげもなく言われると、そっちの趣味とか耐性がない俺はどう反応していいのか分からない。


 しかし、ゼクスの目を見る限り、純粋そうであり、すんなりと受け入れられそうではあった。


「君は拒否反応を見せぬのだね」


「拒否反応っていうか、どう反応していいのかわからないってところかな」


「外で君を追いかけ回している者達は、その事実を知るや否や、私とニールを糾弾した。あり得ない、気持ち悪い、大統領としての不適格だ、と。恐ろしいものだよ、終いには、男である以上、女を愛するべきだ。生産性がない、と言い始める者達が現れたのだよ」


「誰を好きになってもいいような気がするが……」


 ゼクスがニールを愛していたのは確かなようだ。


 俺は誰かをこんなふうに愛したりできるのだろうか。


 可愛いヒロインや、チョロインが出てきた時、そこまで愛したりできるのだろうか。


 っていうか、愛ってなんだ?


「その通りだ。しかし、同性同士の愛を許さず、力ずくで破壊する者達は確実にいるのだよ。今では生産性のない者達がそのような事を行ったのだから滑稽なものだ。そのまま滅びれば良いのだよ」


「二つ質問がある。いいかい?」


 そこまで聞いて、俺は気づいた事があった。


「何かね?」


「一つは、ニールは殺された。そうだよね?」


 愛を破壊する。


 その言葉の意味がそうとしか思えなかったからだ。


「……十三年前の話だ。見せしめのように殺されていたのだよ。言うのははばかられるが、私との愛を否定するかのように……」


 男は感傷に浸るように、目を閉じた。


 涙を流すのではないかと思ったが、ニールの死についての涙はもう枯れてしまっているのかもしれない。


「二つ目は、ワクチンがあるのに使っていないのは、最愛の人を殺された復讐のためなんだね」


 ゼクスが目を開けたタイミングでそう言った。


「……知っていたのか、その存在を」


 ゼクスは顔色一つ変えなかった。


「外の世界にいれば、偶然知る事もあるさ」


「ブーメラン効果なのだよ。生産性と糾弾した者達が生産性の喪失により滅亡する。それをブーメランと言わずに何というのかね?」


 何か言いかけたところで、屋敷の外がざわめき始めた。


 俺がここに入ったのがばれたか。


 それとも、ゼクスが知らせた?


「逃げたまえ。ここに逃げ込む者は多い。故に、あの者達は必ずここに来るのだよ」


 どうやらゼクスは無関係のようだ。


「初めに言って欲しかったな、それ」


 とっとと逃げようと思ったが、言わなければならない事がある事に思い至った。


「愛のないものに理性はないって言ったけど、ニールを失って愛を失ったゼクス、あんたも理性がないって事になる。だから外の奴らと同じようなものじゃないか? 復讐のためだけにワクチンを使ってないところとかさ」


 俺はそれだけ言って、執務室の窓から脱出することにした。


 窓を開けて、思いっきり飛び、庭に着地した。


 さて、どこをどう逃げようか。


 一気に駆けだそうとした時だった。


「……あれ?」


 右腕に何かが当たった。


「なんだ?」


 よく見ると、右腕に何か針のようなものが刺さっていた。


「……」


 全身の力が一気に抜け、立っていられなくなった。


 しかも、意識までもが薄れていく。


「……くそっ、ますいやく……か……」


 俺はほんの数秒、意識が飛びそうになるも、すぐに持ち直していた。


 麻酔薬には耐性が付いてしまったのか、数秒意識が飛ぶ事は飛ぶのだが、その数秒の峠を越してしまうともう平気なのだ。


「さて、逃げよう」


 俺には効果がない麻酔薬だと分かった事もあって、気にせずに逃走を続けたのであった。




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