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召喚獣バンクナンバー1の俺は異世界で本気を出せなくて辛い 【なろう版】  作者: 佐久間零式改
第一部 さすらいの召喚獣ランクナンバー1の男
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第14話 もちろん温泉回かな

『異世界ダブルアーク その2』






「君は間違っておるのです。この世界では、召喚士の正装が白ふんどしなのです。正装を変態など言い切るのは間違っておるのです」


 俺を召喚した召喚士パ・オは赤く腫れた頬をさすりながら言う。


 トレンチコートを羽織り、白いふんどしをはいているこの男は自らを『召喚士パ・オ』と名乗った。


 俺が無意識のうちに手加減していたのにも関わらず、俺にぶん殴られたのに生きているという事はそれなりの実力者であるのだろう。


 魔王とか邪神とかの取り巻き達よりも強いと思われた。


「いや、どう見ても変態だから」


 俺の住んでいる世界でそんな格好で出歩いていたら、すぐさまおまわりさんに逮捕される。


「召喚士の正装がこれなのです。正装をバカにするものではありませんのです」


 白いふんどしに、トレンチコートが正装だと?!


 どんな狂った世界なんだ、ここは。


「ふんどしが正装とかないから。というか、諸悪の根源がお前で、倒せばミッション達成になるんじゃないか?」


 召喚士の頭がおかしいから、世界がおかしくなったに違いない。


 そんな変態がトップに立ったりするから、俺が召還されるような事態へと発展してしまうんだ。


「なっ?! わ、わわわわわわ私を世界の敵みたいに言わないで欲しいものです! 私はこう見えても、この世界の英雄です!」


 頭がくらくらする。


 こんな奴が英雄扱いされる異世界なんて長居したくはない。


 これまで同様、とっととミッションを達成して元の世界に戻るべきだな。


「はい、止め。英雄だなんだの話題はこれまで! で、俺を召還した目的を話せ。ちなみに、俺はおっさんとは契約しないから! 単独でやらせてもらうから!」


「私と契約しないとは……残念です」


 パ・オは落ち込んだようで、ふてくされたような顔をした。


 こんな変態と契りを交わしてしまったら、俺まで変態になりそうだ。


「さっさと内容を話せよ」


 どうも傲慢な態度を取ってしまうが、仕方がない。


 相手が変態のおっさんなのだから。


「では気を取り直してお話しするのです。数年前よりこの世界ダブルアークに異変が生じておるのです。魔物が多く出現し、魔王だけではなく、魔神までもが闊歩するようになってしまい、この世界が破滅しようとしているのです」


「そんな奴らは全部倒せばいいだろ?」


「他の召喚士4名が召還した召喚獣と共に倒しておるのです。なのですが、異変が一向に収まらず、魔物どもが出現しているのです」


「そいつらを生み出しているボスがいるだけだろ?」


「なんということです! それは盲点であったのです! 我々は全て倒せば終わると思っていたのです! さすが召喚獣殿」


 大発見だとばかりにパ・オが大きく目を見開いた。


「それくらい分かれよ」


「当事者である私達には盲点だったのです。しかし、ボスはどこにいるのです?」


「それを今から調査するんだろうが」


「素晴らしいのです! もう目標ができたのです!」


「……なんかまた殴りたくなってきた」


 本当にぶん殴ろうかと思っていた俺だが、複数の人の気配を背後に察知して、とっさに身構えた。


「凄腕の召喚士ってのは、あんたか。俺ら最高のパーティーより雑魚そうだぜ」


 どうやら敵ではないようだ。


 だが、召喚獣ランクナンバー1の俺に対して、その言い方は喧嘩を売っているに等しい。


「ああん?」


 俺を馬鹿にしたのはどこのどいつだ。


 声がした方に身体の向きを変えて、俺を馬鹿にしていた奴らを睨み付ける。


 むさ苦しい男が三人ほど俺を見て、馬鹿にしているかのようにニタニタ笑っている。


 その後ろに控えめな態度でいる少女が四人ほどいて、召喚士なのか、高価そうなローブに、白ふんどしという服装であった。


 そのうちの一人の少女が青い毛並みの毛むくじゃらな奴を抱きかかえているが……。


 今までどこにいたんだと突っ込みたくなったが、俺がパ・オに気を取られすぎていたせいだと俺自身を納得された。


 なんだ、こいつら。


「上位ランカーという話ですが、本当ですか? ひ弱そうですよ」


 眼鏡をかけた優男がさげすむように俺を見ながら言う。


「ま、俺たちのパーティーの前じゃ、上位ランカーだろうと雑魚でしかないがな、がははっ」


 腕などの体毛が濃いゴリラ風の男がせせら笑った。


「パパの友達の召喚獣よりも弱そうだね、こいつ」


 ギザギザヘアのひ弱そうな男が皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「雑魚ぽん!」


 青い毛並みの毛むくじゃらが吠えた。


「紹介しますです。眼鏡の紳士がノビー・タノ様です。で、巨躯の美男子がジャイアーノ・ゴダー様です。で、美麗な髪型の男子がスネース・ネロ様です。最後に、青き流星の毛並み様が、ドーラエ・ノン様です。皆、凄腕の召喚獣なのです」


 既視感がある容姿をしているし、名前にもどことなく聞き覚えがある。


 劇場版の撮影かもしれないし、そうじゃないかもしれないし、本当に俺の気のせいかもしれない。


「四人の女子たちは、彼らを召還した女召喚士です。皆、白ふんどしをしておるからお分かりかと思いますのです」


 高価そうなローブにその身を包んでいるが、改めてまじまじと見つめてみると、スリットのような切れ目がおへその辺りから入っていて、白いふんどしを見せるような形になっていた。


 その格好は、意外にも艶めかしい……。


 しかも、皆、平均的に可愛くて、普通に出会っていたら恋をしてしまいそうなほどだ。


「……」


 ついついため息が出そうになる。


 シャーリーの件なら何やらでまだ虚しさが澱のように残っているって言うのに、どうしてこうも現実は追い打ちをかけてくるんだろう。


 俺だけがおっさん召喚士で、他の奴らが美少女の召喚士とか拷問以外の何者でもなかった。


 もうちょっと俺の心を癒やしてくれるイベントがあってもいいじゃないか。


『たまには、ラッキーイベントだってあってもいいじゃないか!』


 そう叫びたいくらいだ。


 現実なんて糞食らえ。


 異世界も糞食らえ。


「一人でやらせてもらうさ、今回も」


 俺は身を翻して、彼らから離れようとした時だった。


 一陣の風が凪いだ。


 その風には、鼻につくような鉄の香りが含まれていた。


 その臭いの根源を俺は知っている。


 血だ。


 血の臭いだ。


 しかも、一人だけではない、複数の人の血が流れている時の臭いだ。


「……なんだ、今のは?」


 悪意ととも敵意とも違う、天使の悪戯というべき『何か』を肌がひしと感じ取る。


 振り返ると、そこにいたはずの者達の姿がなかった。


 警戒しながら、周囲を流し見ると、三人と一匹の召喚獣がぼろきれのような姿形になって地面に倒れている。


 起き上がる事も、身体を動かすこともできないのか、身動きさえしていなかった。


 死んでいるのだろうか?


 いや、絶命してはいないが、虫の息といったところなのだろう。


 それに、召喚士の少女達もまた同じように倒れいていて、生きているのか死んでいるのかさえ分からなくなっている。


 皆、ローブがぼろ切れのように切り裂かれていて、切り傷か何か分からない傷が無数にその柔肌に刻まれていた。


 パ・オと名乗ったおっさんの召喚士は姿が見えなかったが、探す気さえしなかったので、あえて無視した。


「ランク二十位台など所詮はゴミじゃのう」


 艶っぽい女の声がした。


「誰だ、お前は? ここの異世界のボスか?」


「くっくっ、わらわがボスとは面妖な事を言うものじゃな」


 ふうっと旋風が吹いたかと思うと、俺の目の前に、白銀に輝く着物をまとい、七つの尻尾を持つ狐耳の妖艶な女が優美に立っていた。


「わらわの名は舞姫。立場は創世竜ギルバラルトと同じ、とだけ言っておくかのう」


 この女は俺と同レベルではないかと思えるほど、ピリピリとした空気が俺の肌を突き刺すように舞う。


「見た目は若いが、ただのババアか、もしかして」


 俺はポンと手をたたいて、納得顔をした。


 舞姫が清々しいまでの笑みを浮かべたのを見た次の瞬間、俺は何の攻撃を受けたのか分からないまま吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられていた。


 その上、顔を上げようとするも、舞姫に優しく踏まれていた。


「今度、ババアと言ったら、地獄の業火で千年間かけて焼き殺すまでじゃ」


「分かりました。綺麗なお姉さん。いや、綺麗な御狐様」


 舞姫が足をのけたので、俺は立ち上がって埃を払った。


 舞姫にしてみれば、じゃれた程度なのだろう。


 今のはさほどでもなかったが、そんじょそこいらにいる王やら、魔王やら、魔神やら、神やらとはレベルが雲泥の差だ。


 俺が本気を出せば、勝てるかもしれないが、ノーダメージで済むような相手じゃないと俺の第六感が警鐘を鳴らしている。


 むしゃくしゃしているし、舞姫と本気バトルをするのもやぶさかではないが……。


「うむ、物わかりが良い奴じゃ。褒美じゃ。ほれ、わらわの尻尾をもふもふさせてやろう」


 舞姫はそう言って、自慢であろう尻尾を見せつけるように俺にお尻を向けて、七つの尻尾を左右に振った。


「いや、エキノコックスが怖いので遠慮します、美しい御狐様」


「お主、わらわを馬鹿にしておるのか?」


「そんな事あるわけないじゃないですか。敬意を払ってますよ、たぶん」


「くくっ、ギルバラルトが惚れただけの事はあるのう。そうじゃのう、わらわはこれから温泉に行くのだが、一緒に行かぬか? 混浴だそうじゃ」


 悪戯っぽい笑みが、からかっているのかどうかの判断を迷わせる。


「今回は温泉回ですか? ボスを倒すとかそういうミッションを放っておいて」


 何故、召喚士と召喚獣達が倒れているのかさえ判然としていないので、何がなんだかよく分からない。


 俺は『狐につままれる』という状態にあるのだろうか?


「どのような展開になるかは、お主の選択肢次第じゃ。お主にとっては、ここのボスは塵程度だとは言っておくかのう」


 舞姫は小悪魔のように微笑む。


「もちろん温泉回を選択します」


 その方が話が早い気がする。


 何が起こったのかを知るには。


「うむ、当然の選択じゃな。ならば、そこに転がっておる一山いくら程度の女召喚士も同行させるかのう。創世の召喚獣を世話できるのだから、本望のはずじゃ。お主もそれでよかろう? ハーレムを望んでおるような顔をしておるからな」


 全てを見透かしているかのような舞姫の目が俺を刺す。


 それにしても、美少女を一山いくらとか言っちゃうのはさすがにまずい気がする。


「綺麗な御狐様に当然ついて行きますとも」


 俺はなんとなくだが気づいた。


 ジオールが俺をこの異世界に召還したのは、ミッションのためだけではなく、舞姫がそれを望んでいたからではないかと。


 だからこうして向こうから話しかけてきて、温泉に誘ったのでないかと……。


 しかしだ。


 今はそんな事よりも温泉だ。


 もちろん混浴に違いない!


 俺にとって吉と出るか凶と出るか!


 良い経験、もとい、良い思い出になるといいな!





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