第11話 あなたと受粉したいとか言われても困るよ!
『異世界プランターズ編 前編』
教室でいつものように居眠りをしていたはずなのに、目を覚ますとそこは異世界であった。
「……ん?」
目の前に広がっている異世界には、草木しか見当たらず、人の息吹を感じさせるものが一切なかった。
建物もなければ、人が通るような道さえなく、ただただ草原が広がり、遠くには森が存在し、果ては山々が屹立していた。
草原、いや、俺の背丈ほどの木々が生い茂る森の中にいるようであった。
「誰だ、俺を召還したのは」
俺が召還されたという事は、召喚士が存在しているはずだ。
俺は召喚士の姿を探るように四方八方に目を向ける。
だが、生物らしきものが全く現存していないかのような風景があるだけだった。
『私です』
「ッ?!」
俺の脳に直接話しかけられたように錯覚した。
『私があなたを召還した召喚士です』
「また脳に話しかけられている!?」
もしや、俺は覚醒してしまったのだろうか、ニュータイプに。
とうとう人類の次のステージであるニュータイプにまで上りつめたというのか、この俺が。
『それはあなたの錯覚です。口を持たない私たちは、あなた方の言う脳に直接語りかける事で、会話を行うのです』
「口を持たない? 何者なんだ、お前は」
『目の前にいます。目という器官を使い、私を見てください。すぐ傍にいます』
「俺の視界にあるものは草原……。もしや……ミクロの生命体か!」
召喚士が小さすぎて見えないと言う事もあり得る。
ようは小人の世界というのか、ここは。
「全然違います」
「ならば、なんだ?」
「あなたが先ほどから何度も口にしています。私は『草』の姿をした生命です」
「草の形をした……生命?」
この草原にある一茎の草と話をしているのだろうが、見分けが付かないので、誰と話しているのかが全くもって見当が付かない。
『私たちは自らを草とは言わずに、プランターズと命名しています。我らプランターズは、この大地に根を生やして生活している種族です』
「俺たちの世界で言うところの植物に召還されたって事なのか」
『植物という概念が私には分かりかねますが、おそらくはあなたの思っている通りなのでしょう』
「で、プランターズの召喚士さんが俺に何を求めているんだ? 俺には、やれない事はたぶんないぜ」
外来植物の討伐か?
待てよ。外来動物がプランターズを食い荒らしているから退治しろとかか?
それとも、雨がしばらく降っていないから降らせろとかか?
俺にできる事なら、いつものようにさっさとやって、さっさと帰ってやる。
『あなたと受粉したい』
「……」
言葉の意味が分からない。
『私たちプランターズは進化しなければいけないのです。そのためにも、あなたと受粉したい』
「あなたと受粉したいとか言われても困るよ! 俺、植物じゃないし!」
残念な事に俺こと本城庄一郎には人間用の生殖器は持っていても、雄しべ、雌しべはない。
そもそも俺は植物ではないのだから当然といえば当然と言えた。
『あなたと受粉したい』
そんな事を言われても、できないものはできないのだ。
やろうと思えば、俺の生殖器できたりするものなのだろうか、その受粉とやらを。
だけど、できるか分からないがやれ、と言われたらさらに困る。
今回のミッション、俺は達成することができず、戻る事さえ許されないのだろうか……。