歩く破壊者と死なない君
この世界には化け物が存在する。
その化け物の通った後には命ある生物はいなかった。
人々は恐れ、そして戦った。
しかし、その者達は返り討ちに合い死んでしまった。
生きて帰ったものはいない。
そして、人々はその化け物に関わらないようにした。
どんな姿かは分からない。
いつしかその化け物は
"歩く破壊者"
と呼ばれるようになった。
王国の金猫亭という酒場にフードを深く被ったいかにも怪しい者がカウンターで酒を飲んでいた。
その者が酒を飲んでいると今酒場に来た2人の中年冒険者たちの話が入ってきた。
「いやぁ〜今日も疲れたわ」
「お疲れさん」
「ありがとよ。これで数日間は安泰だな」
「一体何狩ったんだい?」
中年冒険者は出てきた酒を一気に飲み干し、自慢顔で答える。
「よくぞ聞いてくれた!なんと俺はキラーベアを1人で狩ることに成功したんだ!」
もう1人の中年冒険者は驚いた表情を作る。
「あの凶暴で有名なキラーベアか!?」
「ああ、そうだ。そのキラーベアだ」
「ロックすごいな。これでようやくなれるんじゃないか」
「ああ、そうだな。これで長年夢だったBランク冒険者になれる」
「先越されちまったな……」
「ガーレならすぐに追いついてこれるさ」
「そう言ってもらえると助かるぜ…… でも、歳が歳だからな……」
そう言って下に俯く。
この世界の冒険者は35歳が限界だと言われている。
その理由としては体が衰えるからだ。
やはり人間、老いには勝てないのだ。
「いや……本当にすまない。お前の気持ちを考えてなかった……」
「いや、いいさ。それにやれることはやってみるさ」
「そうか、何度も言うがすまなかったな。お詫びとしてここは俺が奢ろう」
「おう、それはすまないな。カッカカ」
ガーレはさっきとは打って変わって笑い出す。
「まさかお前、それが狙いか! 今のはなしだ!」
「残念だったな! 今の話取り消せねぇぜ。なんたって周りの客はさっきの言葉を聞いちまってるからな」
それを聞くと吹っ切れたかのように叫ぶ。
「あーわかったよ! ここは奢ってやるよ!」
「カッカカ。 そうこなくてはな!」
ロックとガーレは酒をどんどん注文して飲んでいく。
2杯、3杯と進んで酔いが回ってきたところでロックが口を開く。
「そういや、ガーレあの話聞いたか?」
「なんの話だ?」
「あれだよ、あれ。 え〜と歩く破壊者だよ」
ロックはその単語を聞くと真剣な表情になる。
「歩く破壊者がなんかやったのか?」
「まだ、ギルドは発表してねぇみたいだな。 実は職員が話しているのを聞いたところ一週間かそこらで歩く破壊者が近くの森を通るらしいんだ」
「そうか、じゃあ今のうちに稼いどかないとな。奴が来たら稼げるもんも稼げないからな」
歩く破壊者。
それはこの世界で最も恐れられている最強の生物であり、通った後には動物は全て死んでいる。
植物には今のところ何の影響もない。
後わかっているとすれば能力のことである。
「そういや、なんで歩く破壊者なんて呼ばれてるんだ?」
「そりゃあ奴の能力が生物の命を奪うからじゃねぇか?」
「でも、おかしくねぇか?」
「なにがだ?」
「もし命を奪う能力なら歩く破壊者という名前なんかつけないんじゃないのか? もっと死を誇張する名前がいいと思うんだよな」
「そんなことは知らん。 だが、たしかに考えたことなかったな」
ロックとガーレは黙って真剣に考えだす。
しかし、その答えは出てこない。
ガーレは頭を抱えだす。
「ああああ、全然わからねぇや。もうこの話は終わりだ」
「そうだな、考えても歩く破壊者が通る森に近づかなければいい話だしな」
そう言うと2人は再び酒を飲み始める。
それと同時にフードを被った人物はお金を払い酒場を後にしたのだった。
王国の近くの森をゆっくりと進む1人の男がいた。
彼は整備されない道を通っているので手に持っている少し長めの短剣で道を切り開きながら進んでいた。
「前通ったはずなのにこんなにも植物が邪魔してくるとは思わなかったな」
彼は1人で呟きながら進む。
「そろそろ食糧も切れてきたことだし、ここら辺で補充しないといけないな」
彼はそう言うとバッグから水筒のようなものを取り出し、その中に入っている水を飲み干す。
「さて、あと少しでここも抜けることができるはずだ。がんばるぞぉ〜 頑張れ俺」
彼は自分に言い聞かせるとバッグに水筒のようなものをしまい再び歩き始める。
彼が歩く道は進めば進むほど蔦などが多くなっていった。
そして、1時間経ったというところで抜け出すことができた。
「ふぅ〜 やっと抜け出したか。ここに来るまでかなり体力使ったな」
彼が出たのは整備されてるとは言いがたいほどの場所ではあったが、先ほどの場所よりかは幾分かはマシであった。
「さて、ご飯にしようかな。お腹が空いて動きたくないけどあと少しの辛抱だな」
彼はバッグから木でできた串と肉を取り出す。
そして近くにあった木の枝を集めるとポケットから手のひらサイズの水晶玉を取り出す。
「火よ起これっと」
そう言って水晶玉を集めた枝のところに放り投げる。
割れると小さな火が起こり、燃え始めた。
彼はそれを見ると少し太めの枝を加えていき火を少しずつ大きくしていった。
「よし、これで完了っと。あとは肉を焼くだけだな」
串に肉を刺し火で炙り始めた。
「いや〜やっぱり疲れた時には肉だな〜。 ていうか毎日肉だったな」
彼は1人で笑う。
そして思う。
あぁ、どうして俺には一緒に笑って話せる仲間がいないのだろうと……
そうこうしてるうちに肉を食べ終わる。
「さて、腹もいっぱいになったことだし片付けるか」
そう言って立ち上がろうとしたところで草むらが少し揺れ動く。
最初は風のせいかと思ったがすぐにその考えはなくなる。
なぜならそこからフードを被った怪しい人物が現れたからである。
「な……ど……どうして……どうして……」
彼が驚いて動けない中フードを被った人物は腰から剣を抜いてかまえる。
そして、聞こえづらい声で話しかけてきた。
「そこのあなた」
「え……は、はい!」
「なぜこんなところにいる? 今この森は人間は近づいてはいけないことになってるはずだ!」
「えっと……そうとは知らなかったというか……そのなんていうか」
言葉を濁しているとそれを勘付かれたのか臨戦態勢に入ろうとする。
「ちょ! ちょっと待って!」
「何が待てよ。 ここで何をしているか言えないものを信じると思うのかしら? それにお前もこの森にいるということは少なからず腕に自信があるんでしょう?」
(やばい……非常にまずい……でもこんな状況でも嬉しい自分がいる)
つい笑みを浮かべてしまう。
それがさらに警戒されるのを強めるとは思わず。
「俺はここで飯を食っていた。 そしてすぐに言わなかったのは10数年ぶりに生きてる人間に会えたからなんて言っていいかわからなかったんだ」
フードの人間は少し警戒を緩める。
「残念だが、それを信頼するほど私は甘くないわ」
「これでも真実なんだ。信じてくれ頼む!」
そう言うと頭を下げる。
フードの人間は少し考えた後ため息をつく
「はぁ〜 たしかに今にも殺されそうな状況で頭を下げる悪党はいないか……」
そう言うと剣を腰にしまう。
「ありがとう、いや〜本当に殺されると思ったよ」
「今はそれよりも歩く破壊者が近くに来てるから街まで送ってあげるわ」
「いや、いいよ。 街に行ったら人間殺しちゃうし」
その言葉にフードの人間は問い返す。
「どう言うこと? どうして人を殺しちゃうの? それにさっきも生きた人間には10数年ぶりに会ったて言ってたわね」
「それは俺の能力が生き物を殺すのに特化しているからだよ」
「でも使わなければいいじゃない」
「いや〜 実は能力を制御できてないんだ。今この瞬間もダダ漏れで君が生きてること不思議でしょうがないよ」
「え……つまりもしその漏れてるものに触れると死ぬということ?」
「そうだよ」
ここで確信する。
なぜ、このような場所にいたのか。
人間に会ったのは10数年ぶりと言ったのか。
そして、殺そうとしてるのに全く戦闘態勢に入らなかったのか。
それを意味するところは……
(もしかして、彼が歩く破壊者? そうだとしたら今まであらゆる国を悩ませていたのは魔物ではなく人間ということ?)
彼を見てみるとそのキラキラした瞳でこちらを見つめていた。
「そうだ!名前ってまだ教えてなかったね。俺の名前はノールって言うんだ。君の名前は?」
「アリアよ。1つ聞きたいのだけどこんな森にいるのは能力で人を殺さないため?」
「そうだよ。 俺はあまり人を殺したくはないんだ」
「ふ〜ん、 そうなんだ」
彼女はとりあえず歩く破壊者の正体をつかむことができたのでそのまま帰ろうとする。
「ちょっと待ってくれよ」
「何かしら?」
「帰るというなら明日もここに来てくれないかい?」
アリアは少し考える。
「別にいいわよ」
「ありがとう。それと……」
「?」
「俺と友達になってくれないかい?」
「友達? 別にいいけど……」
"友達" そう言われたアリアは少し嬉しそうに見えた。
「それじゃあ俺とアリアはこれから友達だね」
「ええ、そうね。それじゃあちゃんと明日来てあげるから待ってなさいよ」
「うん、わかったよ」
そう言うとアリアは元来た道を進んでいく。
アリアは自身の能力が歩く破壊者に有効なことを知っていた。
そして、歩く破壊者を殺せるかはわからないが深手を負わすぐらいはしてやろうと思った。
しかし、出会ったのが人間でしかもお人好しにもすぎる大馬鹿者だったのでその気は失せてしまっていた。
そして、アリアにとって友達と言われたのがとても嬉しかったのである。
この世界には能力というものが存在する。
ある者は超常の力をある者は役に立たない力を授かる。
能力は最低でも2つ持っており、生まれた瞬間から持っている先天性の能力と生まれた後出現する後天性の能力が存在する。
どちらも発現数に限度はないがこの世界の平均は計6つとされている。
次の日ノールはアリアが来るのを楽しみに待っていた。
(アリアまだかな〜 いつ来るのだろう)
ノールは倒木に腰をかけながら心を躍らせて待っていた。
すると、草むらの方からフードを被った人物が現れる。
「アリア! さぁさぁこっち来て!」
ノールは自分の隣を手でトントンと叩いて呼ぶ。
「ええ、わかったわ」
アリアはゆっくり歩いて行き隣に座る。
「それで、来たけど用は何かしら?」
アリアは座ると質問をしてくる。
「え?」
それに対しノールは何を言ってるかわからないような反応をする。
「え? じゃないわよ。あなたは用があったから呼んだんじゃないの?」
「いや、特に考えてなかったな〜」
アリアはため息をつく。
「あなた人を呼ぶときはもう少し何か考えといた方がいいわよ」
「そうか、次からは何か考えとくよ」
ノールは笑顔で答える。
「それじゃあ私からの質問ね。 あなたの能力について詳しく教えて」
「いいよ。 俺の能力の名前は"即死"と言って動物を殺す能力がある感じだね」
「即死、聞いたことない能力ね」
アリアは深く考える仕草をする。
「そうなのかい? それと"即死完全耐性"と言うやつだね」
「即死完全耐性?」
さっきまで考える仕草をしていたアリアが驚いたように問いかけてきた。
「うん」
「そう、私と同じ能力ね」
「一緒なのかい? アリアと同じ能力か〜 嬉しいな」
ノールはニコニコ微笑む。
「あなたは気づいてるかわからないけど即死完全耐性がなければ即死の能力に対抗できない、つまりあなたはもしかしたら誰とも会うことなく一生を終えていたのかもしれなかったのよ」
「そうだね、確かにアリアに出会わなければそうなったかもしれない。でもアリアと出会えた。それでいいじゃないかい」
「あなたは強いわね。本当に…」
「俺は弱いさ。でもこうしてアリアという友達ができたから強くなれる気がするんだ」
ノールはアリアに微笑む。
「あなた本当に感じた通りのいい人ね。大丈夫よ、私があなたを守ってあげるわ何があってもね」
その言葉の意味することがノールには分からなかったが、特に悪い気はしなかった。
「ノール、質問いいかしら?」
アリアが問うと、ノールが再び嬉しそうに笑う。
「アリアが初めて名前で呼んでくれた! いいよ、今ならなんでも答えちゃうよ!」
「そんなに嬉しいことかしら? 質問というのは能力が漏れてるというのを具体的に教えて欲しい。それと、その能力はいつ発言したかも」
アリアの真剣な声にノールも真剣になる。
「えっと、具体的にってどういう感じのことを言えばいい?」
「そうね、もしわかるならどれくらいの範囲で漏れてるかとかかしらね」
「どれくらいか……多分自分を中心に1kmぐらいだと思う」
「1kmね……かなり広いわね」
その数字は驚異的な数字であり、今までノールが誰とも会うことがなかったのを納得する。
「俺もこの能力についてよくわからないからこれくらいしか多分言えないと思う」
「そう、わかったわ。この質問はこれで終わりにして次の質問に答えてくれるかしら」
「え、うん。えっと……よくは覚えてないけど確か5、6歳だと思う」
「5、6歳ね……」
先天性の能力はランダムで何になるかはわからない。
だが、後天性の能力は性格や記憶の底にある願望などによって発言すると言われてる。
つまり、ノールは心のどこかで殺したいと思ってるのかもしれない。
(もしこれが本当ならかなり危険ね。けど、そうは見えないわね)
アリアはノールを見て判断する。
そう判断させたのはアリアの能力である"悪意"である。
この能力は生きてるものすべてに有効で半径200mの範囲にある自分に向けた悪意を察知することができるのである。
これを常に使用してるアリアはノールからの悪意を一切感じていなかった。
(この能力は嫌いだけど便利なのは変わらないわね。こうして判断することができるしね)
アリアが1人でそうこう考えているとノールが声をかけてきた。
「さっきから下向いてるけどアリア大丈夫?どっか具合でも悪いの?」
「大丈夫よ、心配してくれてありがと。ちょっと考え事してただけよ」
「そっか、よかった」
ノールは再び笑顔になる。
「早いかもしれないけど私はそろそろ戻るわ」
「もう戻るの? そっか…… また明日も来てくれる?」
「ごめんなさい、明日は来れないわ」
「いつなら来れるの?」
「そうね、5日後かしら?」
「その間会えないのか……会えないことがこんなにも悲しいのか」
ノールは涙を浮かべる。
「ノール、こんなことで泣いてたらきりがないわよ。それに5日後には会えるんだから。それまでに何か考えなさい」
ノールは腕で涙を拭う。
「わかったよ。飛び切りのものを考えとくよ」
ノールはアリアに笑顔を見せる。
「最後にノール、あなたは体を鍛えなさい」
「鍛える?」
「そう、あなたは能力が制御できずに漏れてるって言ったけどそれは能力と体が合ってなくて起こされてるはずよ。だから次会うまでに鍛えて鍛えまくりなさい」
「わかったよ」
「それじゃあまた」
「またねアリア」
そう言ってアリアとノールは別れたのであった。
アリアと別れて2日が経った。
ノールは森で死んでる生き物を見つけ解体をして食糧を確保していた。
「ふう、終わりっと。とりあえず食糧と水は大丈夫だな」
ノールにとってアリアは唯一親しく話すことができた相手である。
それが嬉しくてたまらなかったが、たった1日会わないだけで心にぽかんと穴が空いたようになっていた。
「まだ2日目か……長いな……」
ボーッとしていると別れる時にアリアに言われた言葉を思い出す。
「鍛えるか…… でも何したらいいのかわからないな」
1日目は水を確保するために森を探索していたからできなかったが今日やる決心がついたのだ。
「たぶん足の方は大丈夫だよな……」
ノールの足は今までずっと歩いてきたので筋肉が程よく付いていた。
しかし、それも一般的な人よりも少し上ぐらいであった。
「とりあえず腕だよな……」
そこに落ちてる10kgほどの岩があったので持ち上げようとする。
だが……
「あれ、この岩重いな。もしかして見た目より重いのか?20kgくらいあるのか?」
そう言ってる間にも持ち上げようとして少し浮いたところで手を離してしまい尻餅をつく。
「はぁ〜重いな。これくらいなら行けると思ったんだけどな〜。とりあえずこれを繰り返すか」
そう言って再び石を持ち上げようとするのだった。
次の日ノールは腕に激しい痛みを感じた。
「腕が痛い。 なんでこんなに痛いんだ。石をあげすぎたか」
ノールは腕が痛いのでご飯を作る時以外は動かないことにした。
4日目も3日目と同じ感じに過ごした。
そして、5日目ノールは期待を膨らませアリアが来るのを待っていた。
「まだかなぁ〜 まだかなぁ〜」
ノールが独り言を言いながら待つこと1時間、フードを被ったアリアの姿が見えた。
「アリア! 久しぶり!」
「ノール、久しぶりね」
そう言うと今度はノールが何も言わずとも隣に座る。
「それで今回はちゃんと考えてくれたかしら?」
座ると同時にアリアはノールに質をする。
「ふっふ〜ん、ちゃんと今回は考えたよ」
そう言うと草むらを漁りだす。
そして、ノールが取り出したのは腰ぐらいの長さの剣だった。
「これだよ、剣で勝負しようよ。アリア!」
おそらく最初に会った時にアリアが剣を使っていたのを見て思いついたのだろう。
しかし、ノールはアリアの剣の実力をよくわかっていなかったのである。
「剣の勝負ね。いいわ、やってあげるわ。でも私は受けるだけにするわ」
「なんでそんなこと言うんだよ。まだ戦ってもないのに」
「私は長年剣を使ってきたからわかるけど剣の持ち方や持った時の構えでわかるものなのよ」
「そうなのかい?」
「ええ、そうよ。とりあえず打ち込んできなさい」
そう言うとアリアは受けの構えを取る。
ノールはそんなこともわからず斬りかかる。
だが、それをいとも容易く受け流されてしまった。
「アリア!すごいよ!本気でやったのに、こんな簡単にかわされるなんて!」
「当然よ、何年剣を使ってきてると思ってるの。それに私の能力に"剣士"があるからね」
「思ったんだけどアリアは一体いくつ能力を持ってるんだい?」
「9つよ」
「ヘェ〜すごいな。俺なんて2つしかないのに」
「能力は量じゃなくて質で決まるものだからそう落ち込まなくても大丈夫よ」
「そうなんだ。それはそうとアリア!俺に剣を教えて!」
ノールが言ったことにアリアは驚く。
「え……剣を? 別にいいけど剣の能力を持たないノールにはきついかもよ?」
能力には使用型と補助型がある。
使用型とはノールの即死のようにその能力自身を使用することで効果を発揮するもの。
そして補助型はアリアの剣士のように剣術などの成長促進、能力補助などさまざまな補助的な能力のことである。
「別に大丈夫だよ。頑張るから」
「そう、そこまで言うならまずは筋力増加ね」
「筋力増加?」
「ええ、さっきノールが剣を持った時あまりの重さでしっかりと立てていなかったし、持ててもいなかった。つまり、単純に筋力が足りないのよ」
「なるほどなるほど、それで何をすればいいの」
「とりあえず今からやることを覚えなさい」
そう言うと様々なトレーニングを見せていく。
それはノールから見てもわかるほどきついものだった。
「はい、とりあえずこれを毎日やること」
「え、うん。アリアちょっといい?」
「ん、何?」
「なんであんだけやって息1つきれてないの?」
「今までやってきたことが違うからよ。ノールもこれくらいできるようになるわよ」
「できるかな〜。でもやってみるよ」
そう言うと腕たせみたいのをやり始める。
しかし5回も行かずに倒れてしまう。
「とりあえずはそんな感じでいいわよ。少しずつできるようになるから」
「わかったよ。こんな感じでやればいいんだね」
「だからってこんな感じのまま行ったらダメよ。限界までやりなさいよ」
「うん、わかった」
「それと体が痛くなったら休みなさい」
「痛くなったら休むと、ふむふむ」
「まあ、それくらいね。次に来れるのが14日後だからしっかりやっときなさいよ」
「14日!?」
それはノールにとって絶望的な数字であった。
「大丈夫よ。むしろこれくらい期間が空いてる方が成長が見れるってもんよ」
「そうなのか…… わかったよ。アリアが次に来るまでにびっくりするぐらい筋肉をつけてやるんだから」
「それは楽しみね。それとはい」
そう言うとアリアはノールに服を渡す。
「これは?」
「服よ。ノールもそろそろちゃんとした服を着た方がいいと思ってね」
「アリア……ありがとう」
ノールは涙を浮かべる。
「すぐ泣かないの」
「アリア、1つだけお願いがあるんだ」
「何?」
「フードを取って顔を見せてほしいな、なんて」
その瞬間空気が一瞬ではあったが固まったような気がした。
そして、アリアは答える。
「次来た時の成果次第ね」
「わかったよ。頑張るよ」
「それじゃあ私はそろそろ行くわ。頑張りなさいよ」
「うん」
アリアの歩みが進み出す。
アリアの素顔を見るために人生で初めて頑張ろうと思ったノールであった。
好評なら続きます