女の子の日
生理ネタです。
体育のあと女子更衣室の事である。
夕陽に、友人になった女子生徒から、こっそりと訊かれる。
「 ねぇ、ゆう。アレ持ってない?」
「 アレ?」
「 やだな、ナプキンの事に決まってるじゃん」
夕陽は、一瞬何を言われたか分からなくてキョトンとしたが、先日雫から聞かされた『女の子講座』を思い出して否定した。
「 持っとらん」
「 そっか」
友人は、夕陽から離れて別のクラスメイトに声をかけていた。
そのやり取りを見て、普通に交わされる言葉に顔が熱くなる。
男子が居ない時の女子の恥らいのなさに少しびっくりだ。
小声じゃあるが、恥ずかしがらずにナプキンだの生理だの言ってる姿にこっちが恥ずかしくなってきた。
他の女子は気にしない娘のが大半かもしれないが、元男の夕陽からすれば勘弁願いたい。なんとなく居づらくて、そそくさと教室へ戻ったのだった。
その日の昼休憩時間。夕陽は、お弁当を食べながら、それとなく友人にある質問を投げかけてみた。
「 あのさ、そのアレっていつも持ち歩いとん?」
「 あっ ナプキン?まあ、そうだね。今日は、持ってなくて焦ったけど」
夕陽の質問に答える目の前の少女の名前は、小野ハルカ。天然パーマで、ふわふわな髪をポニーテールにした、背の高い少女である。
「 そんな事訊くって事は、もしかしてゆうって生理まだ?」
「うん」
夕陽は、恥ずかしいなと思いつつ、返事する。
――個人差があるって雫ちゃん言うとったけど、なんか自分がすごく子供みたいな気分だな。
「 そっか。気にしなくていいと思う。早かれ遅かれ誰でもなるんだし」
「ほうじゃね」
「そうよ」
と言って、ハルカはお弁当のおかずを口にする。おかずを咀嚼し飲み込んだころ、ハルカは思い出したように、こう言った。
「あっそうだ。いつなるか分かんないから、ナプキン用意しといた方がいいよ。お母さんに相談したら?」
「そう?」
「 うん。あたしは小6の時、ママがいつ始まっても困らないようにって、準備してくれたよ」
「 おれ、帰ったら母さんに相談しよう」
「 うん、そうしな」
――ハルカにそう背中を押されちゃ、相談しない訳にはいかないな。
そう思った夕陽だった。
夕方。帰宅した夕陽は、善は急げと鞄を放りだし、キッチンで夕食の準備をしていた母の元へ向かった。
「 えーと、母さん」
「 何? 」
どう切り出して良いか分からず、暫く、う〜とかあ〜とか唸っていたが、瞳子は、黙ってじっと待っていてくれた。
―――このままじゃ駄目じゃ、恥ずいけど言わにゃいけん。
「 あんね(あのね)すごーく言いにくいんじゃけどね。生理になった時の事をね色々、教えてほしいんよ」
「 別にかまないけど。急にどうしたの?」
瞳子はコンロを止めて、怪訝そうな顔で訊いてくる。
「 今日、学校で友達に言われたんよ。急に、なった時に備えた方がいいよ。って」
「 その通りね。いつか折を見て話すつもりだったし。あっそうだ、ついでって言っちゃなんだけど、今からナプキン買いにいきましょ。丁度ストック無くなりそうなのよね」
「 ええ?!」
夕陽は瞳子の提案に焦った。ナプキンは家にあるもんだと思ってたし、瞳子は医者であり、女性の先輩だから、雫の話より詳しい話が聴けたらいいだろうという位の気持ちだったのだ。
それなのに、イキナリナプキン買うとか、ハードルが高すぎだ。
だが、瞳子は容赦なく連れて行く。夕食の準備は?と聞いてみたが、雫に任せたとかえされる。
「 ええ!じゃないわよ。夕陽もいつか必要になるんから、どんなのがあるのか、確かめる意味でも買いにいくわよ」
瞳子は、きっぱりと言うと財布やスマホを入れたハンドバッグを持ってきた。
夕陽は、いやいやながらも、瞳子について行った。
自宅マンションから歩いて、すぐの駅ビル内のドラッグストア。
「 生理用品ってこんなにあるん」
夕陽は、目の前の生理用品のコーナーに並べられた、ナプキンの種類の多さにびっくりしていた。
「 そうよ。量とか夜か昼かでね。あと、羽なし羽ありとかでね」
瞳子は、そう言って、ピンクのパッケジと青のパッケージを取ると説明する。
「 こっちが、昼の普通の日用。 こっちの青のが夜用 の普通の日用 」
「 大きさも違う?」
「 そうよ」
夕陽は、瞳子の説明を聞きながら、女の子って大変だなと思った。