初登校。
9月1日。夏休みが終わりいよいよ今日から二学期、夕陽とアキにとっては初登校日でもある。
朝食後、夕陽は、旭ヶ丘学園中等部の制服に着替えていた。
まだ9月なので夏服である。黒いラインが襟に沿って1本だけ引かれた白いセーラーカラーのブラウス。黒のプリーツスカートが、旭ヶ丘学園中等部の女子の制服である。
「 スカートやっぱり変な感じスースーするし。一応、下にスパッツ穿いとるけど」
夕陽は、そう言いながら鏡で全身チェックする。一週間前から毎日慣れる意味で制服。ただし汚すといけないので、雫のお古で着る練習をしたとはいえ、自分用に作られた制服を着るのは今日が初めてだ。だから余計に変な感じがする。
――拓人さんに見せたいな。
と一瞬思うが、アキの声によって現実に引き戻された。
「 準備出来たん?」
部屋の真ん中を仕切っている本棚の向こうから、アキの声が聞こえる。
本棚は夕陽が入院した翌日に、父が置いたらしい。
二段ベッドは、二つに分けて使えるタイプなので、今はシングルベッドとして、それぞれのスペースに置いてある。
「 出来た。おれ、もう行くで」
夕陽は、教科書やノートを入れたメッセンジャーバッグを肩に提げると、アキの側を通り抜けて部屋のドアへ向かう。時間としてはまだ余裕があるが、必要な用事以外では、アキとは関わらない。それが今の夕陽のスタンスだ。
「 えっ一緒に行かんの?」
「 行かねー。 おれ、チャリで行くもん。 歩いて行こうか思うたけど、ちと遠いし」
学校までは二キロ近くある。バスが駅前から出ているので、アキや雫はバスで通学をする。
夕陽はアキと関わらない為に、自転車通学を選んだ。
アキはこの前の事件の後から、夕陽のご機嫌とりに熱心だが、夕陽は適当にあしらってる。
「 あっ弁当忘れんといてや。 台所に置いとるけぇ。じゃあの」
「 あっうん」
夕陽は、そう言い残すと部屋から出て行く。
マンション内の自転車置き場まで来てブルりと身震いした。
「ちょっと寒いかも。ベスト着ようかな?」
念の為バッグ内にベストは入れてるが、自転車に乗ると汗をかくかも知れないのでやめておいた。
自転車に乗り、自宅マンションの敷地から、歩道脇に設けられた自転車専用レーンに入る。マンション近くの商店街を抜け、学校へ向けて自転車を走らせる。まだ7時半前だが、通勤通学ラッシュに差し掛かるせいか、駅へ歩を早めてる人が多い。
そんな人達を尻目に、夕陽は自転車を走らせる。
程なくして、銀行や大手ファミレスや市役所や県庁の庁舎なんか見えてくる。
旭ヶ丘学園は、市街地のど真ん中に建っているのだ。
「 到着っと」
校門脇の時計を見ると、7時45分過ぎだ。だいたい15分くらいで着いた。
「 超ぶり(すごい)でっかい。 中等部と高等部一緒じゃもんね。当たり前か」
夕陽は、自転車から降りて自転車置き場を目指す。
早めに出てきた為、生徒の数は少ない。
「 えーと、一年はあっちか」
夕陽は、予め教えもらった通りの場所に自転車を止めにいく。
クラス毎にスペースを割り当てられているため、後からくる人に迷惑にならないように、詰めて置いた。
「 そういや、アキも同じクラス何だっけ」
夕陽は、この後起こる事を予想しつつ、げんなりした。
夕陽は、玄関のガラスに写った自分の姿を見る。
腰まで伸びた黒髪に、つり上がった目付き。
そこに、アキがいたなら、確実に比べられだろう。
アキは、夕陽と違い正統派美少女だ。
ボブの髪。くりっとした目に、色白な肌。そして、華奢な体。
身長こそ差は無いが、勝ち気そうに見える夕陽と並んだなら、確実にアキの方が持て囃される。
「 まあ、今からそんな事考えても、仕方ないわい」
夕陽は、さっさと玄関から入る。
先日、母とアキと一緒に来た時に下駄箱の場所は、教えられている。
夕陽は自分の下駄箱に靴を入れて、上履きに履き替えた。
玄関から左に曲がり、職員室に向かう。
教員に声をかけ編入生である事を告げると、廊下で待機してるように言われた。
程なくして、担任とおぼしき男性が現れた。
「 音無さん。あれ、姉妹でって聞いたけど、もう一人は?」
「 えーと、すみません。おれじゃない。私一人、先に来てしまいました。姉はバスで来るので、間もなく来ると思います」
「 あーそうなの。 じゃ待ってよ」
しばらくすると、杖をついたアキがやって来た。
「 君が、お姉さんのアキさん?」
「 そうです。すみません。遅くなりました。」
「 で、こちらが、夕陽さん。僕は、担任の田中です。一応ご両親と校長からあなた方の事情は伺ってます。ですが、他の生徒には、男の子だった事はバレないようにお願いします」
「 はい」
「 先生。ウチ、佐々原さんには話してるんですけど」
アキは、おずおずと手を挙げて言う。
「 佐々原さんから聞いてます。あなた方は幼なじみ同士だし。問題はないでしょう。さっ教室に行きますよ」
田中は夕陽達を誘導した。
教室に着いて、皆の前で自己紹介させられる。
「 音無夕陽。 趣味は料理です。よろしく」
夕陽は、ぶっきらぼうに自己紹介すると、指定された席に着いた。
「 ねっ。音無さんって双子?でもあんまり似てないな」
隣の席の男子生徒が、そう訊いてくる。
――見たとこ下心無しって感じだけど、男子とあんまり仲良くしない方がいいよな。よし。男の子ぽくっすれば引くかもな。
「 違う。おれらは、双子じゃない。俺は、事情があって、音無の家の養女になったけぇ」
「 へぇ。それより君、俺っ子って奴?」
と男子生徒は、興味津々で訊いてくる。遠ざける為に使ったおれだが、
相手は俺っ子に対して、抵抗感も嫌悪感無いらしい。
「 うん。男兄弟の末っ子なんよ」
夕陽はそう答えておく。男子生徒はへーっと言って、更に質問を続ける。
「 なっ彼氏とかいんの?」
「 今は、ホームルームじゃけ、私語辞めようや。ねっ」
「 あっうん」
と男子生徒は、何故か顔を赤らめて、
「やべぇ、めっちゃかわいい」とか呟いていた。
その後、ホームルームと始業式が終わり休憩時間になり、隣の席の男子生徒が、話かけてきた。
「 ねっさっきの話。彼氏とかいんの?」
「 おるよ 」
「 まじでか 」
男子生徒の声に反応した夕陽の前の席の女子生徒が、振り替えると質問してきた。
「 えーどんな人? 」
それを皮切りに、夕陽のまわりに、いつの間にか人垣が出来て質問攻めに合っていた。
その反面、持て囃されると思ってたアキの周りには、幼なじみらしき少女以外誰もいなかった。
昼休憩も質問攻めにあい夕陽は、今日1日で疲れたのは、いうまでもなかった。




