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異世界から戻ったおれが、双子の姉の姿になっていた件。  作者: ねこた まこと
一章 異世界から戻ったおれの新しい日常☆
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夕陽キレる!

夕陽キレる!



朝から、しとしと雨が降るある日。

夕陽は体調が悪く寝ていた。

熱が出て頭痛も酷く起きていられない。(すぐる)が診てくれた。


「風邪じゃの。まぁ編入試験とかの疲れが出たんじゃろ。無理せんと寝ようりんさい」

「……うん」


優はくしゃりと夕陽の頭を撫でると、二段ベッドから離れると同時に、アキが喚きはじめた。


「夕陽!ウチの足の調子悪いんじゃけ騒がんといてや!」

「何言うとるんじゃアキ!夕陽は調子が悪いんじゃ!今のお前のが騒がしいわい!足の調子が悪いなら大人しゅう(大人しく)しとれば、ええじゃろが!」

「……わかったよ」


 ムッと拗ねてアキは部屋から出て行った。


「やかましくしてすまんの。俺は仕事に行くけど、母さんがおるけぇ、何かあったら言うんで」


と言って、優も部屋から出ていく。

二人が出ていって暫くして、眠りについた。



―――


 目が覚めた夕陽は、携帯を引き寄せて時間をチェックすると、十二時を示していた。携帯を枕元に戻すと、キョル〜クウゥと、間抜けな音をお腹が発する。


「……お腹空いた。レトルトのお粥あったよね。食べにいこ」



夕陽はベッドから出て、リビングに向かった。


「 あら、寝てなくてもいいの?」


瞳子は、夕陽にそう訊いてきてくる。 仕事を休んで、ずっと家にいたのだ。


「 大分楽になったし……おなか空いたし」

「 そう。お粥温めてくるわね。ああ、これがあなた宛に来てたわよ」


瞳子は、一通の封筒を差し出す。

夕陽は封筒の送り主を見て、うげっと声を出した。


「 そうか、今日じゃった合格発表」

「 開けてみたら」

「 うん」


夕陽は、恐る恐る封筒を開けてみる。

目に飛び込んできたのは、嬉しい二文字だ。


「 やった。受かった」

「 見せて。本当。やったじゃない。今夜は、お祝いね」

「 やったー」


と夕陽は、一人大喜びする。毎日、嫌な思いをしつつも、勉強した甲斐があった。何より勉強を教えてくれた拓人やお守りをくれた理緒のお陰もあるのかも知れない。とにかく自分の努力が報われた瞬間だから、自分の体調やとある事を忘れて、夕陽はその辺を飛び跳ねたりした。小さな子供の様な振る舞いを瞳子も咎める事なく、夕陽の大喜びする様子を見守っていた。


だがそこに、絶対零度の声がした。


「 むっちゃご機嫌じゃね」


Tシャツに黒いスウェットのショートパンツという服装のアキだ。

いつも、ニーハイで被われてる足は、今日は素足である。左足は醜い傷痕が目立つ。


「 ウチの左足の調子悪い時に、ギャンギャン騒がんといてっ言ったじゃろ」

「 ごめん」


夕陽は謝る。雨で傷が痛み思ったように左足が動かない時のアキは、めちゃくちゃ機嫌が悪いので、夕陽は、なるべく優しく接してるが、今日は別だ。風邪で自分自身辛いのに、アキの言う事にイチイチ反応してらず、適当にしか返事しなかった。というか、出来なかった。


それでますますアキは、機嫌が悪いのかも知れない。


「 ええよね。夕陽は、足悪くないしね。どんなに、ウチが辛いか分からんよね」

「 アキ。夕陽がどれだけ、あなたに気を使ってると思ってるの」

「 そのくらい当たり前よね。同じような手術を受けても、夕陽は、全然不自由じゃないんじゃけ」

「 アキ。サアヤの分まで頑張って、生きると言ったわよね。だったら、そんな事言ってはいけないでしょ」


瞳子は、アキを嗜める。瞳子の言うサアヤとは今のアキの体の元の持ち主の事である。


「 それとこれは別じゃもん。お母さんまで、ウチの事悪く言う。お父さんも姉ちゃんも兄ちゃんもウチの事責める。 夕陽が来てからじゃん。もう、何もかも夕陽のせいじゃん。 夕陽なんかどっか行ってや」



――何なんそれ?自分の責任じゃろ。

おれのせいじゃないし。もう頭にきた!



「 言われんでも、おれから出てっていっちゃるわい。 全く、おれのやった事は全部無駄じゃったんか。 まあええ。出ていくんじゃけ関係ないわい。母さん。世話になりました。じゃあ」

「 夕陽、待ちなさい。こら!どこに行くの」

 

瞳子が追っかけてくるが、夕陽は、無視して自室に戻ると鍵をかける。

身近な物を愛用のメッセンジャーバッグに放り込む。

着ていたパジャマから、白と紺のボーダーのTシャツとお気に入りの紺のキュロットに着替えた。


まだ少し熱っぽいしダルいが、出ていくと言った以上この家にはいれない。

というかいたくない。

両親も雫も優しい。アキの暴走を止めようとしてくれてるのも知ってる。

だが、そんな家族の努力も知らずに、アキは夕陽に辛くあたる。

昔、夕陽が大事にしていた物を壊しておきながら、ヘラヘラ笑いながら謝ったアキ。それが原因でアキに大嫌い!と言った。以来仲が悪くなった。謝ったのに許してくれない夕陽が大嫌いだと、言ったアキだが、多分アキは、その人の怒りの意味を理解しないまま、謝ってる。その間違いを理解してないから、夕陽はアキの事が嫌いなのだ。


 夕陽は、自室から出ると、瞳子に見つかる前に玄関から、出ていった。


「 勢いで出てきたわええけど。どうしょ」


夕陽は、考えこむ。真っ先に実の両親の顔が浮かぶが会うのは無理だ。

 夕陽は、何となく拓人に会いたくなった。

夕陽は、拓人の家を目指して歩きはじめた。



アキのセリフにキレて、家を飛び出した夕陽。

拓人に会いたくなって、家の前までやってきた。



「 何やっとんじゃ。おれ」


拓人がいるとは限らないのに家に押し掛けても、迷惑なだけだ。


夕陽は、そう思って踵を返した。

理緒に会いにきたという理由も思いついたが、理緒は、明日まで部活の合宿でいないと言っていたのを思い出したのだ。


「 夕陽? 」

「拓人さん」


家に戻ろうとしていた足を止めて、夕陽は、拓人の元に駆け寄る。


「 雨の中、何やってるんだよ。傘ささずに。風邪ひくぞ」

「 家出」

「 家出でって。親とケンカしたのか?」


夕陽は、首を振って否定する。


「 じゃあ、なんで?」

「 アキに出てって言われて、じゃあ、出てってちゃるわいって言って家出した」


夕陽は、ボソボソと理由を話すが、自分がそれどころじゃない事に気づく。


―――体が熱い。さっきより体がダルいかも。


夕陽はそう思った瞬間、体がフラついた。


「 おい。大丈夫か」


夕陽の体が異常に熱い事に気づく。


「 何があったか知らないけど、こんな体で家出するとか、あり得ないだろ」


夕陽に声をかけるが、反応はない。


「 どうすんだよ。 家に連れて帰るべきだよな」


拓人は、途方に暮れる。家の場所は知っているが、気絶した人間を運ぶのは危険である。


「 林原先輩。 そのボロ雑巾娘を母の車に、放り込んで下さい。」

「 雫」


目の前に突如現れた、中学時代の後輩を見て驚くが、今はそれどころではないので、雫に言われた通り夕陽を抱えて、車に乗せた。

拓人は、家に戻ろうとするが、雫がニッコリ笑って、拓人の手を離さない。


「 そこの夕陽(おバカ)今から病院に連れていくの付き合って下さいよ。先輩。あと内部進学せずに、外部進学した理由とか諸々聞かせてもらいますよ」

「わかったよ。 付き合うよ」


拓人は、ため息混じりにそう言って、雫と夕陽の母が運転する車に乗った。


「 夕陽と仲良くしてくれてるみたいですね。先輩」

「 言っとくけど、別に付き合ってるとかそんなんじゃないからな。」

「 わかってますよ。 ただ、夕陽は先輩の事好きですよ。 多分。にぶちんだから、わかってないけど。」

「 なんだそりゃ。大体、雫そんな話をしたい訳じゃないだろ」

「 話、それましたね。 先輩が内部進学しなかった理由を知りたいんでした」


―――本当にコイツ変わってないや。相変わらずマイペースだよな。

まぁ付き合ってたのに、(こいつ)には、理由言わずに外部進学しちゃったもんな。……話したら、バスケ馬鹿ですね。彼女よりバスケ取っただけあります。なんて嫌味言われるかな。まぁいいか。



「 理由はバスケを思い切り、やりたかったから」

「 どういう事ですか?」

「 まんまだよ。高校に進学したら、バスケ部での活動は、適当にして勉強を中心にするって奴が、何人もいてさ。しまいにゃ、部活は内申点の為とか言う奴もいたから、こんな連中と部活やってらんねって思った訳。そんな時に、桃宮は旭ヶ丘と違って、勉強も部活も皆、本気で取り組んでるって聞いたんだ。それが、外部進学した理由」

「 そうなんですか」


二人が話終えたところで、音無家が経営する桃宮中央病院に着いた。


夕陽を拓人が、おんぶする。


「 林原くん。悪いけど、今から言う病室に、夕陽を連れていってもらっていいかしら」

「 別に、構いませんけど。なんで病室なんですか?起きたらすぐに帰れるようにしたほうがいいんじゃないですか?」


 瞳子にそう訊いてみる。無遠慮だと思うが、入院する程じゃない気がするので、そう訊いてみたのだ。


「 強制入院よ。また、家出されちゃ困るもの」


瞳子は、ニッコリと笑顔で話す。


「 病室に着いたら、そのまま付き添いしてくれない? 」

「 はあ」


拓人は、瞳子に言われた通り病室へ連れていく。


「 理由は、明日きかせてもらうからな」


拓人は、眠っている夕陽の顔に触れて、そう言った。


翌日。夕陽から家出の理由を、しつこく訊いて、怒られるのは別の話である。



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