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異世界から戻ったおれが、双子の姉の姿になっていた件。  作者: ねこた まこと
一章 異世界から戻ったおれの新しい日常☆
4/35

苦言とねこと勉強



拓人と出会ってから、三週間が過ぎた。世間では夏休みが始まった。まわりでは、海やプールに行くだのという遊びに行く話題で夢中になってても、夕陽は編入試験間近なので、遊ぶ余裕なんか無い。

それでも今日は、ある事が楽しみで早く起きてしまった。

 朝食を終え部屋着のままがベッドで寛いでると、アキが声をかけてくる。


「 ねぇ。今日」

「 はいはい。長谷川さんが来るんでしょ。 おれは、今から準備したらソッコーで出掛ける」



 夕陽は、それだけ言うと二段ベッドの梯子を降りる。

 予め用意してた水色のTシャツに紺のキュロットに着替えて、メッセンジャーバッグと猫用のキャリーバッグを持って部屋を出た。

 そらがアキを嫌う為、夜の間は雫の部屋で寝てるのだ。



「雫ちゃん、入ってもええ?」

「ええよ」


と雫の部屋に入る。いつもなら「夕陽ー、そらと遊ぼー」と突撃してくる筈なのに、カマクラ型の猫用ベッドから顔すら出さない。ベッドの入口からはみ出てるしっぽが、左右にパッタン、パッタンと激しく動いてる。相当イラついてるらしい。


 

「 そら出てきな。あんたのご主人が来たよ」

「 んにゃ〜。夕陽。 今日はあのクソガキ一緒じゃない? 」


そらは、猫ベッドから顔をのそりと、出すなりそう言った。

 そらは、ただの猫となった今も異世界にいた時と同様話す事が出来る。

 ちなみに、雫の前でも堂々としゃべってるのは、雫が他の家族と違い、夕陽本来の事情を覚えているからだ。



「 クソガキって、アキの事か?」


クソガキって。そりゃ、そらを人間の年齢に換算したら、二十歳超えてるから、中学生のアキは子供扱いだなと見当違いな事を考える。


「 そいつ以外誰がいるのよ。昨日、そらのしっぽをわざと踏んづけやがったあのクソガキ!」


そらは、き〜と喚かんばかりにしっぽをパッタンパッタンさせる。


――ああ、昨日の事か。そらがアキに懐かないからって腹いせにしっぽを踏んだんだっけ。おれが怒っても、「ウチ悪くないもん。懐かんそらが悪いじゃもん」ときたもんな。まぁムカつくけど、ハイハイ言う事きかにゃあきかんで、ぎゃあぎゃあ喚いて面倒くさいしな。と夕陽は思い嗜める意味でそらに言ってみる。



「 そら。ムカつくけぇってクソガキ呼ばわりせんでも」

「 クソガキで上等よ。あいにくそらは、夕陽みたいに心広くないの。ねぇ、雫」

「 そうね。 妹だけど、アキを庇うつもりはないわ。この前、段ボールハウスから絶対出てくるなって言ったり、足が悪いのを理由にして自分の事やらせるし。母さんや父さんが叱っても駄目だし私が怒ったら逆ギレしたあげく、『ウチの命令きいて当然じゃろ!』だもん。自己中もあこまでいきゃアッパレだわ」


 雫は、ため息混じりにそう言って、チロリと夕陽を見る。

眉を寄せて怒ってるとも、困ってるともとれる表情(かお)だ。大概こういう時の雫は、文句とか苦言を呈するとか、あまりポジティブな発言をしない時だなと、夕陽はいとことして付き合ってきた経験から推測する。



「 夕陽、あんまりアキを甘やかさないでね。分かった?」

「 うん。分かった」

「 わかってんのかな?あっ それより早く行かなくていいの?」


雫は時計を示した。約束の時間は、10時。今は9時40分である。


「 ヤバい、そろそろ、行かんと。そら、キャリーバッグに入って」

「 あいさっさ」


夕陽は、メッセンジャーバッグを肩から提げると、右手にそらが入ったキャリーバッグを持った。


「 行ってきます」


夕陽は、雫にそう言って出ていった。

この前、拓人のお願いでおにゃんこさんを連れていった時。拓人の妹 理緒と出会った。


 理緒は、夕陽より一つ上の中学2年。帰る前に少し話ししたのだが、猫好きという事、夕陽が応援してる球団のファンという事が分かり、すっかり意気投合した。

その時、理緒に「そらちゃん連れてきてお願い」と頼まれてしまい、今日は連れて行く事になったのだ。



自宅マンションから、徒歩10分くらいの所に林原家はある。

林原家に着くと、インタホンを鳴らす。すぐに、少女が出てきた。

髪をサイドアップテールにした小柄な少女が林原理緒である。後ろには、理緒の母親 香苗もいる。


「 待ってたよ。上がって」

「 お邪魔します」

夕陽は、靴を脱いであがる。

理緒の母親 香苗に、母からの伝言ともに、手土産を手渡した。



「 そら、出ておいで」


理緒の部屋で、夕陽が、キャリーバッグを開けるとそらが出てくる。


「 んにー ( こんちわ )」

「 可愛い。 おにゃんこさん。おいで、そらちゃん来たよ」


 理緒がおにゃんこさんを呼ぶが、おにゃんこさんは、警戒するような目で、そらをじっと見ていた。

そらは、おにゃんこさんの様子に構わず近づいていく。

 おにゃんこさんは、近づいてきたそらに、鼻を向ける。そらも同じようにおにゃんこさんに、鼻を向けた。


「 あれ、何やってんの?」

「 猫の挨拶らしいよ」


しばらく、二匹のやり取りを夕陽達は、見ていた。


そらから離れたおにゃんこさんは、理緒に何か求めるように鳴いた。


「 んなな。んな」

「 おにゃんこさん。どうしたの?」

「 んなな。」

「 そらに、オヤツあげてって。夕陽。ちょっと、ゴメン。おにゃんこさん用のオヤツとってくる」


理緒は、部屋から一度出ると猫用オヤツを持ってきた。CMとかで話題になったどんな猫でも病みつきになるというオヤツだ。


「 おにゃんこさんは、食べたら駄目だからね。 昨日。病院に行ったあと、ご褒美にあげたの覚えてたんだ。」

「 そら。市販のオヤツ食べるかな。蒸した鶏のササミじゃないと食べんのよ。贅沢なお猫様じゃけ」


夕陽が言った事とは裏腹に、そらは理緒の手から嬉しそうに、ムシャムシャ食べていた。


「 なんでや。俺や母さんが、市販のオヤツ試しまくったのに」


そらは食べ終えるとご満悦そうに、口のまわりをペロペロと仕切りになめた。その後おにゃんこさんと、じゃれはじめた。


「 なんなんよー。家じゃったら、気にいらんご飯は、砂かけポーズして食べんかったりするくせにー」

「 猫って、そんなもんじゃない。おにゃんこさんも、同じ事する」

「 まあ。猫じゃもん。仕方ないか」


二人は、しばらく猫の話で盛り上がったあと、第二の目的の勉強会をはじめた。



「 あー家に、帰りとうない」


夕陽は、持って来ていた参考書を置いて、思わず本音を言ってしまう。


「 なんで? 」


理緒が、やっていた夏休みの宿題から、顔をあげて訊いてくる。


「 理緒に、話したよね。俺の事」

「 えっうん。脳移植の話とか、家族の事とか」

「 今の家族は、実の父さんの妹家族。色々あって、養子になったんよ。で、同い年のお姉さんが出来たわけ。そいつと、俺は、仲良くしたいけど、むっちゃ嫌われとる訳よ。理由は、ややこしいけ、説明省くけど」

「 つまり、そのお姉さんとケンカするから、家に帰りたくないの? 」

「 ケンカはせん。 同じ部屋じゃけど、二段ベッドの上段だけで、おれが過ごすようにしとる。顔を合わせなくて済むように、そこを段ボールで囲っとるし」

「 なんでそこまでするの? そのお姉さんに言われたの?」

「 いや、言われてない」

 

理緒は軽くため息をついて、自分の主張の続きした。



「 じゃ、意味ないよね。それ、だって夕陽は、そのお姉さんの為にやってるけど、相手は何とも思ってないよ。多分。それどころか、ラッキーぐらいにしか思ってない。だって、自分が何も言わなくても、嫌いな相手から、避けてくれる。その内それが当たり前になっちゃう」

「 それは、そうだな。」

「 ゴメン。偉そうな事言って」

「 いや、理緒の言う通りだし。聞いてくれて、ありがと」

「 別に大した事言ってないし」


二人は、話を切り上げ勉強に戻ると、理緒の部屋のドアがノックされる。


「 はい? 」

「 僕。 理緒。母さんが、一緒にお茶しようって」

「 ちょっと待って。お兄ちゃん」

「 なんだよ」


「 いいから入って。夕陽が来てるんだってば」


理緒は、拓人をグイグイと押しこむように、部屋に入れ込む。

拓人は、妹の行為に困惑しつつも、顔は少しだけ嬉しそうだ。


夕陽は、拓人に向かって挨拶する。

お辞儀を覚えたての子供みたいに、勢いよく頭をさげる。


「 こんにちは、お邪魔してます」

「 ああ、こんにちは」


お互い固まる夕陽と拓人。理緒はニタニタと笑いながら二人に、こう言って部屋から出ていく。


「 お兄ちゃん。先に行ってるよー二人でお話でもどうぞ。うひひ。おにゃんこさん。二人をよろしくねー」

「 んななー」

「 こら、理緒」


理緒は、うひひと笑い声を残し、

ドアをパタリと閉めた。


「 まったく。理緒の奴なんのつもりだよ」

「 さあ? ってこら!そら何やっとんね」


そらは、拓人が肩から提げたスポーツバッグへ付けられたお守りにじゃれついていた。

「 こら、離れんさい。おもちゃじゃないんよ」

「 んにー んにゃー」

「 もう、嫌じゃ言うても駄目」


そらを引き離す。そらのせいで和やかな気分は一気に吹き飛んだ。

躾のなってない猫だとか、キチンと猫の躾が出来ない娘って思われるかも。もしかしたら、物凄く怒られるかもしれない。とにかく謝らなきゃ。


「 ごめんなさい。 おれの猫がいたずらして」


 自分と一緒にそらにも、頭を下げさせた。若干不満そうに、そらが睨んでいるが、『お前のせいで、おれ怒られちゃうかもしれないんだぞ』という意味も込めて軽く睨み返し、顔を上げた。

 拓人は、キョトンとした顔で夕陽を見ていた。


「ん? 別にいいよ。 猫のやる事だし。この子、そらっていうんだ」

「 そうです。今日、妹さんに連れてくる約束してて」

「 そう。 敬語使わなくていいよあと名前でよんでいいからね」

「 じゃあお言葉に甘えて。拓人さんは、猫好きなん? 」

「 まあね。 小さい時から猫が一緒だよ。おにゃんこさんで3匹目かな。その前飼ってた猫は、母さんが結婚する時に実家から二匹連れてきたんだって。

まあ、その二匹は五年前に死んじゃってさ。二匹共、大往生だったよ。16才くらいだった」

「 へー。今の家族に引き取られる前に飼ってた猫がそのくらいだったなぁ」

「 今の家族?」

「 あっ」


夕陽は、自分の事を拓人に話してない事に、気付き自分の事情を話す。


「 あんね。理緒には、話したけどね。俺さ、脳移植者なんよね」

「 どういう事?」

「 えーと」


 夕陽は、事故にあってから、双子の姉の体に脳移植された事と、色々あって、音無家に引き取られた事を話した。


「 なんか、漫画みたいな話だけど。これって当然、秘密だよな」

「 普通はそうじゃね。でも、おれ信頼した人に秘密にしてくのとか無理なんよね」

「 だからといってホイホイ人に話すのは関心しないな。中には悪意を持って噂を流す人間もいるからね」

「あっ」


――つい喋っちゃったけど、よくよく考えたらそういう事する人いるもんな。

父さんや母さんにも、『脳移植の事は秘密!』って散々言われてたし、自分でも話しちゃいけないって解ってたのに、なんで話ししたんだろ?理緒には、しつこいくらい口止めしたのに、なんでだろ?

と自問自答していら、拓人が言い訳のようにこう言った。


「理緒や僕は、そんな事しないから、安心して」

「 あ、うん」


二人が、話を終え部屋を出ると、理緒が、ニタニタ顔で何故かいた。


「 理緒、リビングに行ったんじゃ」

「 行ったよ。けど、二人の事が気になってさ。うひひ。全部、聴いちゃった ごめんなさい」

「 こらあ、理緒」

「 だって〜 」


ドタドタと、兄妹喧嘩を始めた、拓人と理緒。


なんとなく、居ずらくなった夕陽は、そらをキャリーバッグに、入れると帰り支度をして、香苗に挨拶してから帰る。

玄関を出たところで、拓人が声をかけてきた。



「 夕陽さん」

「うぃ? 何」

「また遊びに 来る?」

「 来る!」


即答した夕陽に笑顔を拓人は向け、こう言った。



「 理緒から聞いたけど、旭ヶ丘の編入試験受けるんだって? 」

「 父と話し合って、姉妹で同じ学校のが楽だからって」

「 そっか、勉強一人でやってるの?」

「 うん。参考書と問題集でね」


夕陽は、メッセンジャーバッグから、四六時中持ち歩いている参考書を出す。

いつも読んでるので表紙の端が丸まっていた。


「 明後日の午後空いてるから僕が、教えてあげようか? 勉強」

「 うー。どっかの誰かみたいに、なりそう」

「 何?」

「 いや。こっちの話。お願いします。一人じゃ限界。」

「じゃ。明後日。午後一時から夕方まで。」

「 分かった。じゃあまた」


夕陽は、そう言って林原家をあとにした。

明後日を楽しみにしながら。



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