律の出現 2
夕陽は、律にあんな宣言をされてからは、自身の行動に気をつけるようになっていた。
「 マジで、死にそう」
夕陽は、教室の机に突っ伏して弱音を吐いた。
移動教室の度に、階段から落ちかけたり、植木鉢が落下してきたりと、どれもテンプレ的なものではあるが、実際にやられると恐い。
律は、本気で夕陽を殺すつもりだ。
自分の元に連れていきたいという、欲望の為に、手段を選ばずにいる姉の執念というか、呆れるとか怒りを通り越して、逆に天晴だとさえ思えてくる。
机に突っ伏してると心配したアキが、夕陽の元にやってきた。
「 夕陽、大丈夫? 」
「 大丈夫じゃない。 心が折れそう。 つうか、死にそう」
「 死にそうって、りっちゃんにマジで殺されるよ」
「 そうは言うても、律の執念深さは、日本海溝並みに深いんよ。それに、ブラコンじゃし」
夕陽は、やけくそ気味に言う。あまり思い出したくはないが、律は、ブラコンだった。
幼馴染のひなと2人きりになるのでさえ、嫌がってたから、重度のブラコンと言ってもいい。
クラスの女子から貰った義理チョコを、夕陽が留守にしてる隙に、全部処分された事もあった。
「 りっちゃんの事どうにかせんと、死ぬよ? 嫌でしょ、夕陽」
「 うーん。どうにかしたいけど、律と話し合いしようにも、襲撃してくるしな」
夕陽は、腕を組んで考える。はなこの顔が思い浮かぶが、幽霊の相手は専門外な気がする。
「 ひなちゃんは? りっちゃんに、唯一説教出来る人だから、頼んでみたら?」
「 ひなに? 霊感あるって聞いてないけど。まあ、自己中で我が儘な律が、ひなの言う事だけは、何故か聞いてたからな。よし、ダメ元でひなに頼んで見よう」
夕陽は、ひなに放課後、連絡する事にした。
放課後、夕陽が、学校の校門を出た所で声を掛けられた。
「 夕陽!」
「 ひな? なんで、おるん?」
「 あんたが、階段から落っこちて死ぬなんていう、超不吉な予知夢を見たけぇ心配になって、昼から学校サボって来たわけ」
「 はあ、そうなん」
「 ついでに言えば、悪霊になりかねんそこの幼なじみと、話ししようかと思うてね」
ひなは、空中を見つめながら言う。
「 律の事見えるん? 」
「 予知夢以外に、霊感があるんよ。他人に話しした事ないけど」
「 こいつ普段は、夕陽の前に姿見せんけど、今も、殺気バリバリに発しながら、夕陽の側におるけんね」
「 うん。それは、分かる」
夕陽は、頷いてから、昼間散々な目に合った事をひなに話した。
「 ふーん。まっどうでもええけど、場所変えようか。人目につきたくないけぇ」
ひなは、そう言うとすたすたと歩きはじめた。
夕陽は、慌ててひなの後を追っかけた。
―――
人気の無い空き地まで、やって来たひなは、足を止めると、律を呼び出す。
「 律。出てきんさいや」
無機質な声で律を呼び出すひなに、夕陽は、ゾッとする。
表情も冷ややかで、まるで雪女のよう。
彼女がいるだけで周辺の空気は、凍りそうである。
「 ひな、何の用? 」
律は、亡くなった時と変わらない姿で、夕陽の前に現れた。
以前出現した時は、中学生の頃と変わらない姿だったが、今は亡くなった時と同じ姿だ。
ショートカットの黒髪。白いワイシャツ。襟元には、紺と白のストライプ柄のネクタイ。そして紺色のプリーツスカートという高校の制服姿。
「 何の用って、分かっとるじゃろ? あんたを止めに来たんよね。あと夕陽を殺そうとする理由を聞きにきたんじゃわいね」
「 えー、理由?そりゃあたしの所に来てもらいたいからに決まっとるじゃん。ほらあたしって、ブラコンじゃし♡」
悪気の無い笑顔で律が、言った瞬間に、スパンと何かで、叩く音がした。
『いったー、なんすんねん』
頭を抱えて、ひなになぜか、関西弁で怒る律がいた。
「 あんたの態度にムカついて、ついね」
いつもの間にかハリセンを手にしたひなが、あっけらかんと言った。
「 いやいや、幽霊になんでハリセンとか物理的攻撃が通じてんだよ」
夕陽が最もなツッコミを入れたが、律もひなも普通に会話を進めた。
「ねぇ、律。なんでこんな事するん?」
『さっきも、言うたじゃん。あたしのところに来てもらう為だって』
スパーン!とひなのハリセンが律の頭に、炸裂する。
律は、本気で痛かったらしく、頭を抱えて座りこんだ。
「ええい!このエセヤンデレがぁ!嘘こくな!真面目に答えんさいや!」
とキレたひなは、ぺぺペンと、律をハリセンで叩く。
『やめて、やめてぇ。ひなにこれ以上叩かれたら、強制的に成仏しちゃう!真面目に答えるからやめーてー』
「ふん!はなからそうしときゃ、ええんよね」
と言い、ひなはハリセンを鞄にしまう。
『うう。痛い。なんでバレたん?』
「あっ?あんた、嘘つく時ね、大概、笑顔なんよ。バレんようにするのに必死で、笑顔になっとるけぇね。それにさ、自己チューが服着て歩きよるような、あんたなら、回りくどい事せんと確実に、殺すでしょ」
『あのねぇ』
あっさりと、人としてやば過ぎる事を言ったひなに、律は、ツッコミを入れかけて辞める。
ツッコミより、もっと大事な事を伝えなくてはいけない。
『あのさ、最後に一言ね。夕陽を殺しかけるような事してごめんね。でもね。こんな事したのはね、夕陽がさ、あたしに申し訳なく思って、死にたがってないか確かめたかったんだ』
「どういう事?」
と夕陽は、首を傾げる。
『そのままの意味なんじゃけど。自分だけが、転生したって事に罪悪感をね感じて無いかって事。もし、夕陽がその状態なら、確実に死ぬでしょ。だけどそうじゃなかった。死なないように、周りに気を付けて且つアキやひなに、助けを求めた。あたしの思い違いだったね。ごめん』
「んっわかった。それはそうと、律なら、今のおれの姿について説明出来る?」
と夕陽の問いに対して、ニッコリと笑顔で、律は答える。
『んー、神様との約束で全部答えれないけど、半分は、お父さんの願い。もう半分は、あたしの願い。これが重なって夕陽は、今の姿で生まれ変わったんよ。勿論、色んな代価のうえでじゃけどね』
「それがわかったらええ。ありがとう」『そっじゃあたし、神様の所に帰るね。バイバイ!またね!』
そう言って律は消えた。
「ヤレヤレ、人騒がせなね」
「んー、じゃね。でもこれで良かったんじゃ思うよ」
「えー?」
とひなは、不満そうな声を出してる。でも、夕陽的には、これでいい。多分律は、夕陽にもう一度生きるチャンスをくれたのだ。今度は、後悔しないようにと、神様にこちらへ戻ってくる時につけられた条件も今なら納得出来る。
律や父の願いを叶える為の代価だったのだろうと、そう考えながら、夕陽はひなと家路についたのだった。




