律の出現 1
短く髪を切って数日たったある日、夕陽は、拓人の家に遊びに来ていた。
「 短く切ったもんだな」
そう嘆きながら、夕陽の髪を手で梳く。
勿論、今の長さも可愛い。だが、相談なしに切られた事は悲しい。
「 拓人さん。触らんといてや。もう、ぐしゃぐしゃになるじゃろ。折角、綺麗にしてもろうたのに~」
夕陽は、怒りながら拓人の手を払いのけると、雫に結んでもらった髪が崩れてないか鏡でチェックした。
「 自分じゃ、ひとつに結ぶしか出来んけぇ、雫ちゃんに結んでもらったのに~拓人がいらったら( 触ったら)ぐしゃぐしゃになるじゃろ~。もう~ 」
夕陽は文句を言いながら、ポカポカと拓人を叩く。
拓人は、揺れるツインテールが気になるが、また触ったら本気で怒って、口を聞いてくれなくなるので、触れるのは止めておいた。
「 ごめん。もういらわんけぇ ( 触らない)怒らないの」
「 うう。さりげなく、広島弁使って宥めるの。ムカつく」
夕陽は、眦をあげたまま拓人を見るが、ニコニコと、拓人が笑ってるので、夕陽は怒る気が失せた。
「 もう。髪いらわんといてね。( 触らないでね) おれ、自分じゃ直せんのじゃけ」
「 わかった」
「 わかったんなら、ええよ」
まだ、夕陽は怒ったふうな口調だが、顔は笑顔になってるので拓人は、安心する。
2人のささやかな喧嘩が終わった後は、た他愛ない話をしたり、ゲームしたりして過ごした。
夕方になり、夕陽が家に帰る途中に、事件は起きた。
駅前の商店街の雑居ビルに差し掛かった時、誰かから、大声で呼び止められる。
「 そこの子危ない!」
「 へっ?」
ガッーシャンと、夕陽の目の前に看板が落ちてきた。
夕陽が足を止めてなければ、確実に直撃していた。
夕陽は、へにゃんと座りこむ。
「 大丈夫かい? 怪我してないかい?」
「 大丈夫です。 ありがとうございました」
声をかけた男性が、夕陽に手を貸して立ち上がらせてくれた。
男性にお礼を言ってから、夕陽は足早に、そこから立ち去ろうとする。
「 惜しかった。でも次は、必ず」
夕陽は、かすかにそう聞こえた気がして振り返るも誰もいなかった。
「 夕陽、絶対にウチの所に来てもらうけぇね 」
雑居ビルの影から、立ち去る夕陽を見つめる少女は、ボソッと呟くとその場から、シュッと消えた。
夕陽の目の前に、看板が落下してくるという事故が起きた日の夜の事。
「 夕陽、夕陽ってば!」
「 ん~? 」
アキに、強く揺さぶられて、夕陽は、目を覚ました。
「 何~? いきなり起こして? 」
夕陽は、アキに不満たっぷりな視線をおくる。 気持ちよく寝入ったところを、無理矢理起こすなんて酷いと、文句を言おうとするが、アキの顔がやけに険しいので、喉元まで出かけていた文句を飲み込んだ。
「 無理矢理起こして、ゴメン。だけど、ウチの見間違いかもしれんけどね。りっちゃんが、夕陽の上に乗って、首を絞めようとしとるように、見えたんよ」
アキの言うりっちゃんとは、夕陽の双子の姉 律の事である。夕陽は、夕方の出来事を思い出す。
『 惜しかった。次は、必ず』
――夕方聞いた声は、聞き間違いじゃなかったんじゃ。
そう気づき、ゾワリと背中に寒気が走った。
「 アキ。見間違いじゃないよ。 夕方、看板が、おれの目の前に、落ちてきた後、『 惜しかった。次は、必ず。』って声が、したんよ。今思ったら、律の声だったと思う」
「 ちょっと、それって、りっちゃんが、夕陽の事殺す気満々って事じゃろ!めっちゃ、ヤバいじゃん」
「 律が? おれを殺す訳ないじゃん。 おれの姉さんなのに」
のほほんと、夕陽が言うとアキは、頭痛がすると言わんばかりに、頭を抱えて黙りこむ。
「 アキ、どうかした?」
夕陽が呼びかけると、アキは、夕陽の胸ぐらをガシッと掴み、ガクガク揺さぶり、低い声で話す。
「 よお聞きんさい。殺す気がなかったら、頭のてっぺん目掛けて、看板落としたり、上に乗って首をしめたりせんのよ。 (しないのよ。)理由は、よう知らんけど、りっちゃんが、夕陽を殺そうとしとんのは明白じゃろ」
「 そうですね」
アキの発する怒りのオーラに押されて、夕陽は、コクコクと頷いた。
アキと夕陽が、そんなやり取りをしていると、部屋の明かりが急に消え、代わりに一人の少女がボォっと浮かび上がる。
腰まで伸びた黒髪。白い丸襟のブラウスに紺色のプリーツスカート。
夕陽は、その姿に見覚えがあった。
中学生の頃の律だ。
『 全く。アキは、いらん事を言わんでや。夕陽を何がなんでも殺すんじゃけ』
「 律?」
『ほうよ。あたしの顔忘れた?」
少女 律は、ふわふわ宙に、浮いたまま夕陽に、近づいてきた。
「 忘れる訳ないじゃろ」
『 ふーん。それは、そうと毎日あんた、楽しそうじゃね? 拓人さんだっけ?彼氏の名前。男じゃったあんたが、彼氏まで作るとは、驚きよ。ほんま、昔は、私がおらんにゃ、何ひとつ出来ん愚図じゃったのに』
「 何が、言いたいんじゃ! おれ、なんか悪い事したか?」
夕陽は、律に向かって怒鳴り散らす。
怖いというより、怒りからくる気持ちからだ。
『 悪い事しとるよ。 夕陽は、誰のもんになったらいけんの。ずっと、私のものなんよ。なのに、なして (なんで)彼氏なんか作るんよ』
「 別にええじゃろうが。男のままじゃったら、彼女が出来とったかもしれんのに、要するに、お前は、おれに大事な人が出来るのが気にいらんのか?」
『 うん。気にいらん。昔みたいに、りっちゃん大好きって言ってくれたら、殺すの止める」
「 知らんわ、そんな事。なんで、言わんといけんの」
夕陽は、律の子供じみた要求を退た。
はは
『 交渉決裂じゃね。明日から、気をつけんさいね。』
律は、そう言って消えた。
「 夕陽、明日からしばらくバスで通学したい方がいいよ」
「 うん、そうする」
夕陽は、律が一体何するかなと心配だった。




