知らない人みたい。
知らない人間みたい。
9月終わりのある土曜日。部活を終えた渉が駅から家に帰る途中、ある人物を見つけた。
――あれって、夕陽だよな。側にいるの誰だ?
この前、仁に見せれた写真と同じ姿の夕陽と一緒に歩く少年に目をやる渉。
身長は、180近くあるだろうか、かなり背が高く、テレビで見るバスケ選手を思わせる体格をしている。年の頃は、渉と同い年か上と思われる。
夕陽とかなり親しい間柄なのか、二人共楽しそうに、話しながら歩いている。
渉は、二人がどこへ行くのか気になり、こっそり尾行する事にした。
夕陽は、紺のパーカーにミニのグレーのプリーツスカートを着ている。少年の方はブレザータイプの制服を着ていた。
この辺りではあまり見かけない制服だ。
――こっちって、俺ん家方面じゃん。その前に、夕陽の実家近くだよ
渉は、駅前の少し寂れた商店街を通り抜けると、住宅街に入る。
渉の家も夕陽の実家も、この近くにある。
渉が尾行してる事を、知らない夕陽と少年はとある一軒家に入って行く。
渉はその家が誰の家か知っていた。
中学時代、何度も遊びに行った、夕陽の実家である。
「 夕陽の実家なら、出てくるの待つかね」
そう言って、渉は自分の家に入った。
その間、渉は、自室の窓から昔の刑事ドラマの刑事のように、張り込みしていた。
それから、約30分たったくらいだろうか、自分の家から夕陽が出てくるか待っていた渉は、家を出て夕陽達の後を追いかける。
チャンスを逃したら、もう会えないかもしれない。変な人扱いされてもいいから、夕陽と会って話ししようと思った。
「 渉」
渉が必死に、走って追いかけてると急に、夕陽が振り返り、渉を呼び止めた。
「 はっ?」
渉は、間抜けな声出して足を止めた。
夕陽は、ニヤニヤとしたり顔で渉を見ていた。
その脇の少年は、済まなさそうな顔で渉を見ている。
「 おれが、気付いとらんと思って、ずっと後つけとったろ?」
「 うん。まあ、ってお前まさか」
「 ちょっと前に、高橋に会って皆が、おれの事覚えてるって話聞いたけぇ、驚かしちゃろかなって思った訳」
夕陽はニシシと笑う。姿形は違うのに、イタズラやサプライズが成功した時に、見せていた笑顔と一緒なのだから、不思議だと、渉は思う。
「 はあ、そうですか。健人は、なんでお前の事わかった訳?」
「 まあ色々あって、高橋と会う機会があって、仕草とか口調で、すぐにおれってわかったみたい」
「 ふーん。で、そっちのお兄さんに話してあるよな当然。俺の勘じゃ付き合ってる?」
渉の歯に衣着せぬ物言いに、夕陽隣にいる少年は、苦笑いしながら答える。
「 君が思った通りだよ。一通り夕陽から事情を聞いた時は、にわかに信じるには、突拍子もない話だけど、高橋や夕陽の義理の姉からも同じ話聞かされちゃさ、信じない訳にいかないだろ」
「 そうですか。 今さらですけど、俺、橋田渉って言います。 夕陽とはずっと、友達でした」
「 そうなんだ。僕は、林原拓人。よろしく」
「 こっちこそ。よろしくお願いします。色々、話をしたいから、どっかに移動しません?」
「 そうだな。どうする夕陽?」
「 おれ、駅前の喫茶店行きたい」
夕陽は、拓人のブレザーの裾を握って、そう言う。さっき見せた笑顔と違い、今は完全に、彼氏に甘える女の子だ。
拓人も、夕陽に甘えれて満更でもなさそうだ。
もし、渉に真央という彼女がいなければ、リア充爆発しろと言いたくなる光景だ。
「 ああ、あそこ。夕陽、あの店のストロベリーパフェお気に入りだもんな」
「うん、じゃけ行きたい」
「なら、そうしましょうか。まぁあそこしか行くとこないし」
「やった、早く行こ」
3人は、駅前の喫茶店に向かう。
渉は、2人の後ろを歩きながら、拓人と夕陽のやり取りを見ていた。
――しゃべり方とか変わってねぇのに、知らない人間みたいだな。
渉は、ぼんやりとそう考える。拓人に何気なく甘える仕草や楽しそうな笑顔が、夕陽を渉の知らない人間のように見せていた。
喫茶店に着くと、それぞれ好きな物を頼んだ。
最近の出来事を適当に話ていたが、渉はどこか悲しい気分で聞いていた。
「 どうしたん?渉、黙ってから」
「 あーなんかさ。夕陽が俺の全然知らない人みたいなんだよ。うまく言えないけどな、林原さんに何気に甘えたりとかしてるのみたら余計にな」
渉は、頬をかきながら言う。
「 一言で言うなら、俺の知ってる平原夕陽は、いない。 強いて言うなら平原夕陽の記憶を持った女の子。音無夕陽なんだよ」
夕陽は、渉の言いたい事がわからず首を傾げる。
「 橋田くんの言いたい事は、前世の記憶を持った人間って事だよな」
拓人は、渉の言いたい事を要約した。
「 そうです。友達だったのに他人みたいな」
「 渉からしたら、今のおれって、そんな存在なん?」
――目が潤んでるし。女の子になった事で、感情のスイッチの入り方が、違うのか?真央もそうだけど、目が大きい可愛い娘に潤まれるだけで、男の良心の呵責を感じさせるよな。
「 うう。泣きそうな目で見るな。彼氏に誤解されるぞ」
渉は、夕陽を宥める。 拓人の視線が痛くて仕方ない。
「 ごめん」
夕陽は、謝ると目の前のパフェを食べる始めた。
さっきまで、泣きそうな顔だったのに、もう笑顔である。
渉は、コーヒーを飲んでこっそり、呟く。
「 本当に、女ってくるくる表情変わるよな」
「 同感」
渉の呟きに拓人が反応して、首肯いた。
「 次会う時は、真央連れてくるから。多分、もみくちゃにされるぞ」
「 どういう事?」
夕陽は、また首を傾げる。渉は、夕陽の可愛い仕草を見ながら真央のとる行動を想像する。
―― 「可愛い」って言って、抱きしめて、もみくちゃにしたり、 髪を弄ったり着せ替え人形にするだろうな。
「 夕陽と身長が変わらないから、着せ替え人形させられるかもな」
「 えー」
夕陽は、心底嫌な顔をした。
真央の手持ちの服を着せられる自分を想像したのだろう。
「 そろそろ、帰るぞ。夕陽」
「 うん、じゃーな。渉」
「またな」
昔と変わらない挨拶をして、渉と夕陽達は、別れた。
夕陽が真央と会って、服を何着も着せられたのは、別の話である。




