仁とひな
今日から新学期の朝。服部ひなは、横に、音無仁を従えて登校していた。
「 あのさあ、なして ( なんで)あんたと私一緒に登校せんといけんの? 」
「 別にええじゃろ、同じ学校なんじゃし」
旭ヶ丘学園のではなく中島高校の男子の夏の制服。白いワイシャツに黒いズボンに身を包んだ仁が、ひなの側を歩きながらそんな事を言う。
「 今日は、一緒に行くけど明日からは1人で行きんさい。1人で! あと、ウチの半径100メートル以内に近寄りんさなんな。ええね」
無茶苦茶な注文を仁に付けた、ひなはずんずんと、早歩きで駅まで行く。仁は、苦笑いしながらひなの後を追いかけた。
二人の家の最寄り駅 中島駅のホームに、入ると真央が1人で電車を待っていた。
ひなと仁に気が付いた真央が挨拶してくる。
「 お早う。ひな。音無くん」
「 おはよ」
「 お早う。真央、こがな( こんな)男に挨拶せんでもええ」
「 ひな、そんな事言わなくても」
「 なんで、俺はこんなに嫌われとんか、訳分からんのじゃけど」
「 うるさい。黙りんさいや、このボケナス!近寄るなって言ったんじゃけ、話しかけなアホ!」
真央は、仁を罵るひなを観察する。
バカだアホだと、言いまくってるが本気で、怒ってる訳ではないらしい。その証拠に、ほんの少し頬が赤い。
―― 要するに、好きなんだ。それをばらしたくないからあんな態度なんだ。
真央はそう結論づけた。ただ、ひなが、必死にこんな態度を取る理由も察しがつくが、仁がその事に気づくかは怪しい。
――音無くんだけに限った事じゃないけどね。男って、こういう事なかなか気付かないからな~
真央が2人のやり取りを観察しながらそんな事を考えていると、バタバタとホームに駆け込んでくる1人の少年が現れた。
「 ギリギリセーフ。おはよ。真央。ひなとどなた?」
少年は、仁を見ながら訊いてくる。
「 渉くん。これは、音無仁。私の小学校の同級生。色々あって今日から、うちらと同じ学校」
「 ひな。これって。マジどんだけ俺の事嫌いなん。まあええわ。えーと橋田くんの噂はひな達から聞いとる。俺は、音無仁。よろしく」
「 俺は橋田渉。よろしく、音無」
と少年-渉は、人懐こい笑顔で仁と握手する。仁はどこかむず痒いような顔で、こう言った。
「 仁でええ。名字で呼ばれると変な感じするけぇ」
「 どういう事?」
「 雫って、双子の妹がおるんよ。じゃけ周りから下の名前でしか呼ばれた事ない」
「 なるほど。俺の事も、渉って呼んでくれ」
「 わかった。渉」
そんな会話を交わしてるうちに、電車がやって来た。
ひな達は、電車に乗ると渉が口を開く。
「 やっぱり、4人だと落ち着くな。あいつがいなくなってから、違和感ありあり」
ついそんな事を言ってしまってから、やべぇと粒やき、チラッとひなや真央の方を見る。初対面の人の前で亡くったはずの人間の話をするなと、言われまいかと思ったが、ひなも真央も平然としてる。
ただし、仁だけが違う反応を見せた。
「 あいつって、平原夕陽の事?」
「 へっ? そうだけど、なんで、夕陽の事知ってるんだ?」
渉は、目をぱちくりしながら質問する。
「 夕陽は、俺の従兄弟なんよ。ついでに言うと、夏休み中に、ひなや長谷川から話聞いたし」
「 ちょっとまて? 仁は、俺達以外に夕陽に関して、本当の事を記憶してるって事?」
「 そういう事になるな」
渉は、少しの間ぽかんとして、仁に、訊き返す。
「 えー?? 本当かよ。証拠は?」
「 渉。この話長くなるけぇ、放課後話そう。なっ」
「 あっうん」
仁の言葉に、渉は落ちついたようだが、納得いかないようで、少しむくれていた。
―――
学校に着くと、一度、仁はひな達と別れて、職員室に向かい、編入生である事を告げる。暫く待っていると、担任の先生がやってくる。担任に連れられて、教室に向かう。ちなみにクラスは、一年三組だ。
先に担任が教室に入る。仁は呼ばれるまで待機だ。
「 では、音無くん。入って下さい。」
そう促され仁は、教室入る。
教室中の視線が集まる。なんだ、野郎かよと、舌打ちしそうな顔で見る男子生徒と品定めするような目で、見つめる女子生徒の視線を受けて、仁は自己紹介した。
「 音無仁です。よろしくお願いします」
教室を見渡すと、さっき知り合った渉がいたその隣は、真央がいるところを見ると、出席番号順に席は並んでいるらしい。
その後ろのひなの席は、ぽっかり空いてるから欠席なのだろうと思っていたら、先生からひなの隣に座るよう言われた。
「 このさし (定規)の長さ分近寄りんさなんな。ええね」
ひなは、ペンケースから定規を出して、朝と同じようなセリフを言った。
その後は、ひなが仁を邪険に扱うだけで、つつがなく始業式がすんだ。
放課後になり、待ちきれない渉が話しかけてくる。
「 なあ、朝の話だけど。」
「 ファミレスでお昼食べながら、ゆっくり話そうよ」
真央がそんな提案をしてくる。
「 そうしょ。お腹ペコペコじゃし」
「 俺も」
「 学校じゃ他の奴らに聞かれるしな。行こうぜ。ファミレス」
4人は、ファミレスに移動して話をする事にした。
学校近くのファミレスに入り、席に座って、注文した後、仁が口を開く。
「 えーと何話したらええ?長谷川やひなに話した事皆?」
「 うん。仁が夕陽の事で知ってる事全部」
「 ええと、あいつが亡くって少し後からの事話そうか」
仁は、そう言うと自身の身の回りで起きた事を話し始めた。
「 夕陽は、小学生を助けようとして、車にはねられて亡くなって数日たったくらいかな? 親父が変な事言い出したんよ。
『 律と夕陽が今度、うちに遊びにくるらしいで』 それ聞いた時、親父頭狂ったか?って思った。律が夕陽の双子の姉なのは知っとる?」
「うん。全寮制の女子中に通ってたから、会った事はないけど、噂には聞いてた」
と渉は答える。その答えに頷き、仁は話を続ける。
「律は、事故で亡くなってるから、本当はこの世にいない。けど、俺と俺の双子の妹以外の家族。両親と一番下の妹は否定せん。しかも、夕陽は一番下の妹と同い年、中1だって言う。それとなく、妹に訊いた。『 何言うとん?兄ちゃんおかしいんじゃない。律も夕陽もウチと同い年じゃん』 このセリフを聞いた時、おかしくなったのは、家族じゃのうて、俺らの方って本気で悩んだよ」
仁は、そこまで話すと水をガブリと飲んで一息つく。
「 そしたら、先月、俺の実家に来る途中に事故にあって入院したって」
「 ええ!夕陽は、今どうゆう状態なんだよ?」
今の夕陽の姿を、知らない渉は驚きの声をあげる。
仁は、先日話して今の夕陽の姿を知ってる真央とひなに目配せして、渉にこう前置きをした。
「 渉。今から何聞いても、何見ても驚きんさんなよ?」
「 おう」
「 夕陽は、結論から言うと、女の子にかっとる」
「はい。どういう事? 」
仁から聞かされた事実が突拍子過ぎて、渉は、頭がついていかない様子で口をぽかんと開けてる。
「 ええと、事故が原因で、さっき言うた、夕陽の双子の姉 律の体に脳を移植されとるんよ。ちなみに、その手術したん俺の親父ね」
「 えーと、要するに、事故で夕陽の体が駄目になったけど脳は、無事だからその律って子の体に移植したって事?」
「 まあ、そう言う事になっとるわな」
「 漫画や小説みたいな話じゃねぇか」
「 私も最初は、疑ったけどね。でも、今の夕陽の写真みたら渉も納得するよ」
真央は、渉にそう言った。
「 この前、雫 俺の双子の妹が送ってきた写真があるけど、見る?」
「 見せてくれ」
「ちょっと、待っとって」
仁は、そう言うとスマホを出して操作すると渉に見せた。
「うわめちゃくちゃ可愛い。夕陽の女の子バージョン。でも、不機嫌な顔で写っているのはやっぱり夕陽らしいな」
腰まで伸びた髪が特徴的な少女。その顔は、不機嫌そうである。
写真を撮られるのが大嫌いな夕陽が、いつもする顔だと渉は、写真を見ながら思った。
「 それは、そうとそっちの話聞かせてや。まだそっちで起きた事聞かせてもらっとらん。ひなと長谷川が、渉に話すまで話さんって約束じゃったんじゃけ」
仁がそう言うと、真央が口を開く。
「 夕陽が亡くなって少ししてかな。異変が起きたの。中学の卒アルから夕陽の写真がことごとく消えてさ。あと、中学時代の友達の記憶から夕陽の事が消えてるんだよね」
まるで、最初から居なかったようにねと真央は言う。
「 俺の周りも似た感じかな、今ここにいないけど、夕陽の事覚えてるの、高橋健人ってやつと佐藤ミズキって娘だけ」
「 うちのクラスの人も同じよね。平原夕陽って同級生がいた事覚えとらん」
仁は、3人の話を聞きながらある結論に達する。
「 本当の夕陽の事覚えてるの人って、夕陽と深く関わった人だけって事かね」
「 うーん。 うちらはそうかも知れんけど、仁の方は、違うじゃろ? 仁の家族は、うちらよりもっと深く関わっとるが。じゃに、本当の夕陽の事をあんたと雫以外覚えとらんっておかしいじゃろ」
ひなは、ズバズバと言った。
「 ひなの言う通りじゃ。でも、なんでかわからんよの」
「 とりあえず、夕陽に会って、話聞けたらいいな」
「 でも、どうやって会うの? 会えても、向こうが私達の事、忘れてるかも」
真央は、そう言う。
しばらく、夕陽に会う方法を話していたが、結局、結論は出ずじまいだった。
お昼を食べ終え、各々ドリンクバーで取ってきたドリンクを飲みながら、渉は、疑問を口にする。
「そいや、なんで仁は、実家離れてるの?」
「うー、色々あってさ、家族。正確には親父と距離置く意味で、実家離れたん。一学期いっぱいは、音無の本家に居候しとってさ。そしたら、伯父さん。夕陽のお父さんが、うちに来いって言ってくれたけぇ、今は夕陽の実家におる。ってなんで、こんな事訊いてくるん?」
と非難めいた視線で仁は、渉を見る。
渉は、気まずげに頬をかきつつ答えた。
「べつに大した意味ない。ただ、仁がこう、思いつめたような顔してるからさ、よっぽど辛い思いしてんのかと思ってよ。ごめん。野次馬根性とかで訊いたんじゃないんだ」
――むちゃくちゃいいヤツじゃん。いけねぇな。旭ヶ丘じゃ、人の足を引っ張るのに必死な連中と一緒じゃったけぇ、変な勘ぐりするくせがついとる。
「こっちこそごめん。渉の事疑って」
「うーん、いい。気にしてねぇし」
と二人は、そんな会話を交わす。
さて、四人が夕陽と会った時、どんな事が起きるのか?
今は、神のみぞ知る事である。




