頭撫でて。
再入院した翌日の昼。
「 汗かいた。気持ち悪い」
夕陽は、体を起こしてベッドから出る。
まだ、本調子ではないので体を起こすのも辛いが、かいた汗を放置しておく訳にもいかないので、ベッドサイドのロッカーから着替えと汗拭きシートを出す。
着ていたパジャマを脱いで、汗拭きシートで体を拭くと新しいパジャマに着替えた。
「 さっぱりしたけど、髪臭わんよね?」
夕陽は自分の髪を一房持って、匂いや手触りを確認し、顔をしかめる。
―――ベタつくし臭う気がする。お風呂入れんけぇ仕方ないけど、せめて髪ぐらい洗えたらいいのに。
「 何やってるの?夕陽。髪の匂い嗅いで?」
病室に様子を見にきた瞳子が、娘の行動に不審そうな目を向けていた。
「 髪を洗っとらんけぇ、臭いとかベタつきが気になるんよ。ねっちょっと確かめてぇや」
と夕陽にせがまれ、瞳子は触ったり臭いを嗅ぐが夕陽が言うほどではない。
「 別に気にならないけど」
「 なら、ええけど」
夕陽は、ベッドに横たわるが、さっき口で言った事とは裏腹に気になるらしく、まだ仕切りに髪の毛をイジったり、臭いを嗅いだりしてる。
瞳子は、夕陽の洗濯物をロッカーから出したり、新しい着替えを入れたりしながら、密かに観察していた。
――本当に人って変わるのねぇ。男の子だった頃、うちにお泊りする時、お風呂なんかカラスの行水で、まともに洗ってんだがないんだか、わからなかったのに。今じゃ、一日お風呂入らなかっただけで、気にしてるんだから。まぁこれも、『林原くん』のお陰かしらね。
瞳子は、荷物の整頓が済んだタイミングで、夕陽にある事を告げた。
「 今日、林原くんお見舞いに来てくれるって、よかったわね」
「 ええ?!」
瞳子の意外な一言に驚いて、夕陽は、飛び起きる。
「 雫に頼んで、夕陽の入院知らせてもらったの」
「 なんで知らせとんよ。母さん」
「 なんでって、娘の大事な人に知らせて何が悪いのよ?」
「 色々問題あるんよ。 おれ、お風呂に入っとらんけぇきしゃない し(汚いし )」
「 へー。でも、実はもう来てるのよね」
瞳子は楽しそうに言ってから、拓人を呼んだ。
「 じゃあ。私は、仕事に戻るから」
「母さん」
夕陽は、瞳子を呼び止めたが、瞳子は、無視して笑顔で病室を出ていった。
残された二人は、お互いを見つめ合う。
――さっきの会話丸聞こえだったんだが、僕、来ちゃマズくなかったか?
――うわわあん。母さんのバカ!ドア開けっ放しじゃったけぇ、さっきの丸聞こえじゃん。恥ずいー。穴があったら入りたい。
微妙に気まずい雰囲気だが、話さないのもなと思った拓人は、差し当たりのない話題を振った。
「 あー、調子はどう?」
「 昨日よりましじゃけど、まだダルい」
夕陽は、モゴモゴと小声だ。まだ少し恥ずかしいらしい。だが、拓人はそこは、気にせず、いつもの調子で話す。
「 そうなんだ。雫は、ものすごい熱で魘されてるって、言ってたけど、元気そうでよかった」
「 うん。昨日は凄い高かった。 一時、40℃くらいまで上がったって。おれは覚えていないけど」
「 40℃ 」
――40度ってヤバイじゃないか。まぁ本人はケロっとしてるけど。
「 今も、37℃から38℃行ったり来たりで、なかなか下がらん。おかげで熱いしダルい」
「 そう。どれ?」
「 うわ!」
拓人は、夕陽のおでこに手をあてる。
夕陽は、拓人に触れられているので、ますます熱くなる気がした。
「 熱いな。確かに」
「 おれは、どっかの誰かが、触るけぇますます熱くなった」
「 ごめん。でもさ、どのくらい熱いか触ってみないとわからないからさ」
「 うう。じゃったら、頭撫でて」
「 触られるの嫌なんじゃないの?」
――ホンマに意地悪なんじゃけん。ほんとは、かまってほしいの知っとるクセに。
「 いきなり触るけぇじゃ。今は、ええの」
「 はいはい。わかったよ」
拓人は、夕陽のお願いに苦笑いで答えた。
「 拓人さんの手気持ちいい」
安心仕切ったのか、夕陽はウトウトし始めた。
やがて、本格的に寝息をたて始めた夕陽。
「 やれやれ、手のかかる彼女だよ」
拓人は、夕陽の頭から手を離すと、ため息まじりに、そうひとりごちたのだった。




