エピローグ
ただひたすら、真っ白な空間。その空間に、2人の人物がいた。
一人は、真っ白なローブを着た老人。もう一人は、真っ黒なショートカットで、白いワイシャツ。紺色のプリーツスカートという服装の少女だ。
二人は、神妙な面持ちで話をしている。
「ホンマにええんじゃな?」
老人の問いかけに、少女は力強く頷き、答える。
「ええ、あの子にもう一度だけ、チャンスを与えてくださるのでしょう?その為だもの。だったらたとえ、世の理に反する事だとしても」
と少女の最後の呟きは、誰にも聞こえなかったが。
ーーー
「 あれ。ここ、どこ?」
と自分の呟きと共に、夕陽は目覚めた。真っ白な天井に、点滴がぶらさっがった点滴台。病院かな?
だけど、おれ、さっきまでモンスターと戦っていたんじゃなかったっけ?
いやその前に、もっと重要な事思い出さなきゃいけないような。
必死に記憶を辿る夕陽の前に、一人の男性が、顔を覗き込んでくる。
医者らしく白衣を着ているが、寝癖がついてボサボサな髪と、どこかヘラヘラしてる表情のせいで、イマイチ信用出来そうにない感じの人だ。
「 よう。目覚めたか? 夕陽。」
「 優おじさん?」
夕陽の問いかけに、大げさに頷くと、手元のカルテをチェックしながら、ブツブツ呟く。
「耳も聞こえとるし、目も見えとる。……その他も異常なし。まぁ気になる点
はあるが、ひとまずは成功か」
ーー成功ってどういう事だろ?それより、おれどうなってんの?
「今のおれの状況を、説明してもらえんですか? 」
「 おう、そうじゃった」
優は、わざとらしく手をポンと叩いて、説明をし始めた。
「 夕陽。お前は、律とウチに遊びに来る途中に、事故にあった。それは、覚えとるか?」
「 うん、まあ」
「ならええ」
優は、説明を続けた。優の説明によると、夕陽は、双子の姉 律と優の家に二人だけで遊びに行く途中事故にあった。
律は、脳死状態だが体は綺麗。逆に夕陽は体は、駄目だが脳は無事。
夕陽の脳を律の体に移植したとの事。
夕陽は、優の説明に疑問を抱く。
−−でも、律のやつはおれと一緒に死んだハズだから、アイツの体が無事な訳ない。神様曰く、律の魂は無事に天国に行ったらしいし。
夕陽は、そう思った。けれど優から鏡を見せられて納得する。
異世界にいた頃と、自分の姿が違っていたからである。
優が言う通り、今の自分は律の姿だ。
腰まで伸びた黒髪、双子の自分と同じやや釣り上がった目。
ただし、この姿は中学一年生くらいまでの律だ。本来の律は、ショートカットなのだ。
「 あの神様の話は、マジだったんじゃ」
夕陽は、日本に戻される前に聞かされた、話の内容を思い出す。
年齢は若返る事。何より、自分の記憶と現実は少し違う事になっている。
夕陽の記憶では、本来なら律も自分も高校生のハズ。
しかし今は、中学生くらいまで若返ってる。現に叔父に確認した所、中学1年生だと言われてしまった。
異世界で自分の精霊だった白い猫のそら。そらは、どうしてるのだろう?
病院だから、いる訳ないが、一緒に戻ってきたのなら、何処かにいる筈である。
「 ねぇ、おじさん。 そらは?」
「 あの白い猫か。 あの猫なら、うちにおる。雫が世話しとるで」
「なら良かった」
雫が世話してくれてるなら、安心だ。食べ物や毛繕いに関して色んな注文を付ける猫なので、普通の人だと悲鳴をあげてしまう可能性があるが、その心配はなさそうである。
「 あっそうじゃ、お前、色々あって、家で引き取る事になった。 ようするに、俺の養女になった。名前も、音無夕陽」
「 なんで、本人の意思確認する前に、おじさんの養女になっとんですか。意味わからんわ」
「 しゃーないじゃろ。 お前の手術する時に、お前の両親との話し合いで、そうなったんじゃけ」
夕陽は、日本に戻った事を後悔した。異世界で自分に与えらたチート能力が、自身の命を晒す。異世界で、死にかけた時、神様にそう告げられた。
そこで、神様は夕陽に日本へ転生し直す事を提案し、夕陽も了承した。
神様には、予め夕陽に都合が悪くならないように、調整した結果だと言われてるが、納得いかない事になっている。
「 お前が、怒るのも、無理はないわい。律の体に脳移植した時点で、お前の意思無視しとるし。 けど、アキの事例があったけん。隆史さんに、どうにかしてくれって言われりゃ、無下に出来んし。ただ、紫織さんは、大反対じゃった。それでこんな事になった。すまん」
叔父の説明してくれた内容を聞きながら、夕陽は自分の中で情報を整理し、一つの答えに達する。
あのまま、異世界で過ごしいれば、こんなややこしい事にはならない。だけど異世界に行ったのは、俺の本望じゃなかった。戻るのも、それなりに代償がいるって事か。まあ、一度死んだ人間を無理やり、復活させるんじゃもん。仕方ない事かと。
「おじさんじゃなくて、父さん? 色々、迷惑かけるけど、よろしくお願いします」
「あ〜 気色わりぃけぇ、敬語使うなや、むしろアキの奴がお前に、迷惑かけるかもしれんで? 仲悪いけぇのお前ら。」
「 忘れとった。アキと暮らすんかあ。 嫌じゃ」
夕陽は、一番苦手な従姉妹の顔を思い浮かべて、苦虫を噛み潰したような顔になる。
アキと夕陽は、とある事件から仲が悪くなった。
異世界の生活も楽じゃないけど、日本の生活も大変な事になりそう。夕陽は、そう思った。