表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は「 」にあふれている  作者: 伊達 虎浩
6/32

第1章 5

 横浜にある中華街の路地裏で、伊織はこれから自分が何をするべきかを考え、作戦を実行させる。

 中華街へようこそと、書かれた看板の下をくぐり抜け、周りの人達に怪しまれぬよう、早足で目的地へと急ぐ。


 キョロキョロしたり、ゆっくり歩いたりなどしない。

 そういった行為は、目立ってしまう。

 商売をしている人間達にとって、そういう行動をとる人間は、何かを探して迷子になっているか、初めての土地を楽しむ観光客に見えてしまう。


 任務を遂行させるため、観光客を装ってもよいのだが、あいにく両手が死んでいる為、買い物ができないうえ、ご飯も自分では食べれない。

 周りの人に、少しでも顔を覚えられてしまうリスクは避けたい。

 伊織は人混みに紛れながらその場を後にする。



 探し始めてしばらくすると、ようやく目的地に辿りついた伊織。

 そこはホテルであった。

 長期任務を遂行させるには、まずは寝床の確保が最優先である。

 荷物を置く事も勿論だが、部屋が埋まってしまい、野宿する何て事にでもなったら目立ってしまう為だ。


 チェックインを済ませ、部屋に入った伊織は、上着をベッドの側にあるイスにかけた。

 本当は、ハンガーを使って壁にかけたいのだが、腕が上がらない。

 伊織は部屋の隅々をチェックする。

 盗聴器や盗撮などされていないかを確認し、隣の部屋に耳をあてる。

 音漏れの心配がないか確認をすませると、部屋の外へと出ていき、隣の部屋を思いっきり蹴った。


 忙いで自分の部屋に戻り、玄関のドアを少しだけ開けて耳をすませる。

 誰だ!!と怒鳴り散らす男の声を聞いた伊織は、また同じように部屋の壁に耳をあてた。

 音も声もしない。

 一通りやる事をやった伊織は、包帯を外しにかかる。


 包帯の下はひどい火傷の後であった。

 しかし伊織は、その事に全く興味を示さず、傷口を観察する。

 財前は言った。

 何処にいてもわかると。

 何故か?答えは簡単である。

 発振器が何処かにつけられているか、尾行者がいるか、この街全ての人間が財前の手下かだ。


 尾行はされていなかった。

 この街の多くは中国人で、財前の手下はいないだろう。

 0とは言わないが、自分が選んだこのホテルに、偶然手下がいる可能性の方がずっと低い。

 それならば、自分が眠っている間に、体の何処かに発振器を隠したと考えるのが妥当である。


 風呂場の鏡を見て、背中の部分、お尻の部分などを確認するが見当たらない。

 となれば、怪しいのはこの両腕である。

 治療するふりをして仕込むのは難しくない。

 発振器の上に皮膚を重ね、隠せばいいからだ。


 しばらく両腕の傷口を見ていた伊織は、ため息と共に両腕を見るのをやめた。

 どの道やるしかないのだから、発振器が何処にあっても関係ない。

 めぐみなら直ぐに、対処してくれるだろうと考えた所で、伊織は思い出した。

 下水道の暗闇の中、自分に向けて近いうちにまた会おうと告げてきた少女、神童なつきのあの言葉。

 やつにはこうなる事が見えていたのだろうか。


 しかし、これは伊織にとっても有り難い事であった。

 シャオロンの居所を掴む為には、どうしても人手がほしいところだ。

 そんな中会って、事情を説明すれば神童なつきが加わるかもしれないという事だ。

 情報収集という意味ではめぐみに劣るが、その頭脳は是非とも借りたい。


 伊織は、上着のポケットを調べるが何も入っていなかった。

 着換えさせられているのだから当然である。

 伊織は、なつきの電話番号を記憶している。

 いや、記憶させられていると言った方が正しい。

 携帯が無い時に、応援を呼ぶには当然番号が必要であり、その番号が解りませんでは話にならない。

 S組の連中は授業を通して、これをマスターしている。


 部屋の電話機では盗聴の恐れがあると、外の公衆電話へと足を運ぶ。

 なつきの電話番号を入力し、数回コールする。


「・・・。」


「なつきか?俺だ!伊織だ」


「伊織君。わざわざ公衆電話など使わなくてもよいではないのかね」


 その言葉を聞いて、伊織は固まってしまう。


「・・あぁ。借りた携帯から電話するぜ財前さん」


 まさかの割り込み回線に伊織は舌打ちしそうになる。

 伊織は受話器を戻しながら、一つの可能性に気が付いた。


 おそらく財前のもとにいるだろう人物。


 本城めぐみの存在である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ