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世界は「 」にあふれている  作者: 伊達 虎浩
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第二章14

 

 みなみが美優姫の心配をしている事に、伊織自身気づいていた。何故なら、彼自身が美優姫の心配をしていたのだから。


 しかし、いつまでも固まっているわけにはいかない。今は任務中であり、任務内容は副大統領の護衛である。


「みなみ!」


「…分かっているわ」


 みなみもそれは理解している。

 言われるまでもない。

 理屈では理解していても、感情ではどうだろうか…そんな分かりきった答えなど、求めるだけ無駄だという事に、みなみがたどり着いた時であった。


「イッヒヒヒヒ」


 爆発した車の前から、男の笑い声が聞こえてきた。身構える伊織とみなみ。


「悪いが、副大統領の命をもらう」


「…残念ながら、そいつは聞けない話しだ」


「警備がザルすぎないかい?まさかこの交渉に、大統領自らノコノコやってくるとでも?」


「いいや…だから俺たちが付いている」


 パンパン、と、二発の銃声が鳴り響く。


「ヒャッ、ハー」


 カンカン、と、銃弾を弾き返す音がする。


「サバイバルナイフだと!?」


 銃弾を、いつも弾かれている伊織は、弾かれた事ではなく、弾き返した獲物に驚く。


「アッハハハ!銃如きで勝てるとでも思ったか?最も、()()()()()()しかいないようだが、な!」


「…ちっ!」


 右、左、右と続く三連突きをかわす伊織。

 反撃の為にと銃を発泡するも、結果はさっきと同じであった。


「あん?何だそりゃ」


 懐に銃を仕舞う伊織を見た男は、理解が出来ないといった感じで尋ねる。


「弾は国税。それに、時間があまりないんでね」


「オイオイ。何だその構えは。まさか、俺に格闘戦なら勝てるとでも?」


「…まぁな。みなみ!先に行け!」


 任務は副大統領の護衛と、もう一つある。

 大統領の悪事を暴き、始末する事であった。

 副大統領が生きている限り、大統領から接近するのは今の状況や、この男の発言ではっきりしている。


 "大統領自らノコノコと"ね。


 つまり、大統領の命令でコイツはここにいるという事だ。


「…みなみ?」


 ここは任せて先に行け!という意味に、気づかない馬鹿(みなみ)ではないはずだ。

 しかし、返事が返ってこない為、伊織はみなみの方を向いて、再び名前を呼んだ。


「逆よ。アンタが先に行きなさい」


 月明かりの所為か、みなみが構えた刀が伊織には妖しく見える。

 まるで、妖刀のような、そんな怪しい刀のようだった。みなみの視線はすでに、サバイバルナイフを持つ男を見据えていた。


「…了解リーダー。副大統領、行きましょう」


 リーダーには逆らえない。いや、逆らう理由もないが正解だろう、と、伊織は考えながら答えた。


「ま、待て!?」


 先に行こうとする伊織に、副大統領は尋ねてきた。


「か、彼女だけで大丈夫なのかね?」


 みなみの身を心配しての言葉。

 それに対し、伊織は何も迷う事なく答えた。


「えぇ。()()みなみは、俺より強いですよ」


「そ、そうなのかね」


 学年ランキング1位の香月伊織。

 学年ランキング2位の本田みなみ。

 彼等の実力はほぼ互角である。

 そして、みなみが本気を出せば断トツ1位になっても可笑しくないと、伊織は考えている。


「あの男は地雷を踏んだ。アイツの全力を拝みたい所ですが、副大統領の命が最優先です」


「そ、そうかね」


 副大統領を後ろに従え、伊織は走り出すのであった。


 ーーーーーーーー


 爆発した方角から、何があったのか気になって仕方がない美優姫。もっとも、何があったのかなど、見ればわかる答えであった。


「…くっ。ロケットランチャーですか?」


 攻撃をかわしながら、そんな事を呟いていた。


「でしょうね。さっきの音から、その可能性が充分考えられます…よっ!と」


 回し蹴りを両腕でガードする。

 しかし、その場に立っていられず、吹き飛ばされてしまった。


「ハァ…ハァ…でしょうねって事は、アレとは無関係なのですか?」


 ゆっくり立ち上がりながら、美優姫は答えないかもしれないという事を考えながら、質問をする。


 可能性は三つある。


 さっきの爆発にこの男が関与していた場合、爆発させたブツが何なのかが分からないハズがない。

 あるいは、関与はしているが、方法までは知らないという事。


 そして、さっきの爆発にこの男が関与していない場合の三つだ。ならば、この男はここに何をしに来たというのだろうか。


「関与するも何も、私は泥棒…あんなド派手な花火を地上で打ち上げるような野蛮人ではないですよ、お嬢さん」


「どろ…ぼう?」


「あれ?私の事を知りません?」


 視力はいい方だ。

 いくら夜だといっても、男の姿が見えていないわけではない。


「知りません。有名な方なのですか?」


 残念ながら見覚えがない。

 美優姫がそう告げると、男はなぜかため息を吐いた。


「私もまだまだだという事ですね…しかし、お嬢さん。同業者なら私を覚えておくべきですよ」


「同業者?いえ、私は泥棒ではありませんが」


「…へ?」


「その逆、捕まえるものです」


 ガチャっと銃口を男に向ける。


「くっくく。あっはっはっ!名も知らない泥棒など、捕まえても仕方がありませんよ。お嬢さん」


 捉えた!確かに、美優姫はそう確信する。


 パンッという発砲音。


 男の頭に直撃すると、男は急にはじけてしまう。

 絶句する美優姫は、一歩、また一歩と男に近づいていき、しゃがみ込んだ。


「…風船?いつの間に」


 床に散らばる男の死体?いや、残骸と呼ぶべきだろうか。それを拾いあげると、背後から声がかけられる。


「パン!っと。隙を見せるのは、心だけにして下さいお嬢さん…ではまた」


 そういうと、男はビルの屋上から飛び降りた。


「な、何?」


 慌てて飛び降りた場所へ駆け寄る美優姫。

 男は両手をポケットに突っ込んだまま、落下していく。


 ギュルルルルル。

 腰から伸ばしたワイヤーが軋む音。


 目的の場所についたのか、ビタッと止まった男は、ワイヤーをふりこのように振り、窓ガラスを割って中に入って行く。


 ウー。ウー。と、辺り一面をけたたましい警告音が鳴り響く。

 そんな光景を屋上から見下ろす美優姫は、先ほどの出来事を思い返していた。


 完全に背後をとられていた。

 実弾をもし撃たれていたら?いや、あたるあたらないかは問題ではない。


 完全に背後をとられてしまったこの事実こそが問題なのだ。


 名も知らない泥棒…か。

 いつかきっと、この手で捕まえる。


 それは、美優姫が警察関係者になって初めての思いであった。

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