第2章10
エルザの言葉に耳を疑うみなみと美優姫。
それもそのはずである。
大統領かもではなく、犯人はこの国の大統領だとエルザは断言しているのだ。
「・・・失礼ですが、証拠はあるのでしょうか」
AGRとは?と、先ほど話したばかりであり、ましてや護衛対象はこの国の副大統領である為、断る事など出来ない。みなみはエルザに、こう返すのがやっとであった。
みなみの質問に背中を向けていたエルザは、正面を向いて口を開いた。
「君たちには正直に言おう。証拠はない」
「それでは・・・」
「まぁ聞け。ここにメモリーカードがある。それと録音できる機械もだ」
そう言いながらエルザは机の上に、メモリーカードとTVのリモコンみたいな機械を置いた。
それを見た伊織が口を開く。
「つまりは、大統領をハメろと言うわけか」
伊織の言葉に、ビクッと肩があがる二人。
「まぁそう言うわけだ。この件は副大統領も承認のうえだという事を忘れるな」
つまりは、副大統領が大統領を罠にハメ、伊織達はそれを全力で守るという作戦であり、副大統領も協力者だという事だ。
「君達には大統領選挙に関する調査、A級任務を任せていたが、今回のはS級任務となるだろう。無論、命の保証などない」
「AだろうがDだろうがSだろうが、命の保証など最初からないだろ」
「その通りだ伊織。我々はこの制服に袖を通すと決めた時点で、命の保証は無くなっている。いいか?副大統領を死んでも守りきれ」
「イエッサー!!」
「よろしい。リーダーはみなみ。君に任せた」
「ハッ!」
エルザの声に、敬礼しながら答える三人。
伊織達は今後について、エルザから指示を受ける事となった。
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エルザが指示を出している頃、副大統領であるニックは、日本から送られてきた書類に目を通していた。
「本田みなみ。居合斬りのスペシャリスト。堀美優姫。射撃のスペシャリスト。そして香月伊織か・・」
彼が目を通しているのは、伊織達についての資料であった。今夜彼は、一斉に一度の大博打をしに行くのであり、絶対に失敗は許されない。
何故なら、失敗=死という結果が彼を待ち受けているからである。
「若干17にして、一人でテロリスト30名を射殺。しかも、全員の心臓を1発ずつ撃ち抜く技量。ついたあだ名が銀の弾丸。大した物かと感心していた矢先、卒業試験でクズを射殺し落第。かと思いきや、あのシャオロンの殺害。やれやれ・・狂犬だな」
資料に火をつけ、証拠を無くすニック。
「今夜は使えない犬でない事を祈るのみ・・か。フハハハ」
それこそ本当に博打ではないかと思い、彼は誰もいない部屋で声を大にして笑う。
香月伊織にシルバーブレッドというアダ名がついたのはこの事件がきっかけである。
また、その際彼は30発しか発泡していない。
つまり、それぞれのテロリストに対し、伊織は1発ずつしか発泡しておらず、全て心臓を撃ち抜くという信じがたい成果をあげたのである。
「歴史が動くか・・」
失敗にしろ成功にしろ今日という1日は、歴史が動く日になるのは間違いない。
何故なら大統領が死ぬか、副大統領が死ぬか、あるいは・・。
時計の針を確認しながら、上着を羽織るニック。
大統領との約束の時間までだいぶあるが、彼は少し早めに部屋を出る事にした。
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エルザから指示を受けた伊織達は、今後について話し合っていた。エルザは、副大統領との最終調整の為いない。
「どう思う?」
エルザがいなくなったからか、みなみは真剣な表情をしながら、そんな事を聞いてきた。
「どうって?」
当然、何について聞いているのかをたずねる伊織。しかし、それに答えたのは美優姫であった。
「大統領を罠に落とし入れる事についてです」
大統領が犯人だという証拠はない。
要は自分達は、大統領が犯人だという証拠を作ろうとしているのである。
「いいか二人共。この国のトップが犯罪者だとするならば、今すぐにでも捕まえないといけないのはわかるな?」
二人の気持ちがあまり乗り気でないと判断した伊織は、自分の考えを伝える。
「証拠がないと、捕まえられないのは当然だろう。では、証拠が見つかるのに1年間かかったとしたらどうだ?この1年間に何があるか分からない」
実際に、大統領選挙について調べていた二人にとってこの1年という期間は、大袈裟な話しではなかった。二人は大統領選挙について調べていた。しかし、全く成果をあげられなかった。
いつどこでどうやって等、ニュースで流れるような簡単な情報しか手に入れられなかったのである。
「副大統領も承認と言っていた事から、副大統領は何か知っているんじゃないか?その話しを聞いて、エルザが今回の作戦を考えたのかもしれない」
実際は、エルザがニックに持ちかけた話しであり、伊織はエルザの作戦だろうと考えていたが、口にはしなかった。口にしたのは違う言葉だ。
「賽は投げられたんだ。俺達がしくじれば副大統領が死ぬ。いや、副大統領だけならまだしも、お前達が死ぬ事だって考えられる」
相手は大統領だ。
護衛がいないはずはない。
「・・そうね。この国のトップが犯罪を犯しているのなら、絶対に見過ごしてはおけないものね」
「トップだけではないですよ?」
みなみのセリフに、珍しくツッコむ美優姫。
美優姫の言うように、トップだけではなく、誰かが犯罪を犯しているならが正しい。
「えぇ分かっているわ」
どうやらやる気が出てきたらしい。
二人のやり取りをみながら、伊織はそんな事を考えていた。
「作戦を伝えるわ」
そう言うと、みなみは二人に自分の考えを話し出した。
作戦は単純である。
狙撃要員として外に美優姫を待機させる。といっても、部屋の中での会談の為、大統領を狙撃するのが目的ではない。
では何故かと聞かれたならば、部屋を襲われた場合の周囲の安全確保の為である。
建物の監視が目的といった方が分かりやすいだろう。
護衛要員として、部屋の中に伊織を待機させる。
伊織は部屋の中に隠れて、やばくなった場合のみ参戦、または援護射撃をするのが目的である。
何故伊織なのかと説明するのならば、みなみは射撃が苦手だからであった。
そして、ニック副大統領の護衛として、みなみが同行するといった作戦である。
近接戦闘であれば、伊織にすらひけをとらないみなみ。
実際はシーサーを自首させ、それを録音して証拠にするのが目的であるのだが、何が起こるのか分からない為、秘書という名目でニックの側に貼り付くのが目的であった。
反論がないわけではなかったが、今回のリーダーはみなみであり、伊織とみなみの役割を交代した場合、援護射撃がないのはいたい。
その為、伊織は作戦に反対しなかった。
今日、歴史は間違いなく動いた。
それは、誰にとってよかった事なのか。
それでも、動かないという選択肢は存在しなかった。
何故なら、人が生きている限り歴史は動くのだから。




