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世界は「 」にあふれている  作者: 伊達 虎浩
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第2章4

こちらは、警察ものとして書いています。

卑猥な言動など含まれるので注意して下さい。

 

 伊織の母親を殺した人物は、アメリカ合衆国大統領、シーサー大統領であった。

 その答えにたどり着くのに、短い時間ですんだのは、バロンという男のおかげである。

 そして、父親と同僚だというエルザの態度からなのだが、ここで一つ疑念が生まれる。


「・・・バロンは何故、その事を俺に教えた」


 独り言のように呟いた伊織。

 バロンは、大統領の味方ではないのか?

 味方でないなら何故、あの廃墟に来た?

 いや、廃墟に来たのはあの男を殺す為だ。

 なら何故、あの男が廃墟にいると解っていた?

 そもそもあの男は、あそこに母さんがいた事を知っていたはずだ。

 だとするならば、母さんの死体を運んだのがあの男だという事だ。


「・・・落ち着け。と言っても無理な話しか」


 呼吸が荒くなったのを感じとったのか、エルザが声をかけてくる。


「おそらくだが、君が殺したあの男は、運び屋か何かだろう。そしてバロンは仲介役か何かか」


 エルザは続けて語りかけた。

 それは、自分の考えをボソボソと呟いているように見えた。

 何らかの理由で君の母親は、シーサー大統領に殺された可能性が高い。

 断言など出来ない。

 証拠がないからだ。

 そして、バロンという男はシーサー大統領から何らかの命令を受けているはずだ。

 これもまた、断言できない。

 証拠がないからだ。


「しかしだ、大統領を捕まえる事は出来ないにしろ、バロンは捕まえる事はできる」


 何故ならば、松山あきなという少女を殺しているからだ。

 しかし、これは殺人容疑ではなく、誘拐として処理されてしまうだろう。

 松山あきなの死体が見つからない以上、誘拐として処理せざるを得ないのだ。

 幾ら本人が殺したと言っていてもだ。


「私が思うに、事件の真相はこうだ」


 君の母親を殺したのはシーサー大統領だ。

 当然、死体の処理に困る。

 そこで、仲介役のバロンに頼み、死体の処理を任せた。

 仲介役のバロンは、君が殺した男に運び屋として、依頼をした。

 しかし運び屋の男は、死体を処理するどころか、性的処理をする道具として、あの廃墟に連れて行かれる事となる。

 それを知ったバロンは、任務失敗を恐れ、あの廃墟に行って男の始末を決意する。

 そして、君たちに出会うのだ。


「何故、君を生かしたのかは、解らない。しかし、これだけは断言できる。君の父親は、シーサー大統領について調査しているところを、何者かによって殺害されてしまった。つまり、シーサー大統領も事件に関わっているとみて間違いない」


「な、なら!あいつを捕まえる事だって、できるはずだ!」


 ベッドから勢いよく立ち上がった伊織であったが、立ちくらみしてしまい、膝から崩れ落ちてしまう。


「・・すまない。今の段階では、逮捕までにはいない。できる事は、バロンの捜索、または君の母親を人体解剖する事だけだ」


「・・母さんを!?だ、ダメだ!こ、これ以上母さんを、母さんを傷つけるな!」


 崩れ落ちる伊織を、優しく抱きしめるエルザ。

 そんなエルザの右肩を、何度も、何度も叩く伊織。

 その拳に、力は入っていなかった。

 人体解剖する事で、手に入る情報というものがある。

 しかし、これには親族などの同意が必要である。

 伊月家の親族は、伊月香織だけであった。


「事件が事件なだけに、私は協力をして欲しいと思っている」


「・・・条件がある」


「・・・私からも条件・・嫌、お願いがあるな」


 まるで、伊織がこれから何を言うのかが解っているようなエルザの返しであった。


「先に話せ」


「・・・・。」


 強気な口調、強気な瞳でエルザを見つめる伊織を見て、自分から話す事が一番手っ取り早いと判断し、エルザは伊織に向かって姿勢を正した。


「お願いは単純な事だ。シーサー大統領を捕まえる為には君の証言が必要不可欠だ。そこで君は証人として出廷して欲しいのだが、先は長いかもしれない。君には証人保護プログラムを受けてもらい、来る時に備えてほしい」


 深々と頭を下げるエルザ。

 それは、必ず捕まえるという約束でもあった。


「条件は二つだ!シーサーとバロンを必ず殺してほしい。そして、俺を、俺を警察官にしてくれ」


 条件は二つと言っていたが、シーサーとバロン、警察官と三つある事に、エルザは気付いていたが、特に気にした様子も見せずに、伊織に目を向けた。


「警察学校にクチはきいてやるが、なれるかどうかは君次第だ。ただし、警察学校は日本だぞ?」


 エルザとしては、日本にいてくれた方が安心なのだが、何故か自分の側にいてほしいと思ってしまった。


「なれるならどこだっていい」


 エルザの心中など気にもせず、伊織は即答する。

 エルザは言った。

 いつか必ずと。

 いつかということは、それがいつになるかは解らない。

 それならば、自分自身が警察官になって、捜査した方がいいに違いないと。


「今日から俺は、香月伊織だ」


 証人保護プログラムを簡単に説明すると、証人として法廷に出廷する代わりに、身分をかえる事ができるプログラムである。

 事件の大きさによるが、大統領の事件となると、認めずにはいられないだろう。

 また、大統領について調べていた父親が、何者かによって殺害されてしまった事を考えると、証人保護プログラムを受ける対象である。


 伊月香織として生きていたが、証人保護プログラムを受ける事により、香月伊織として生きる事になる。

 その代わり、証人として出廷する事、伊月香織としての全てを捨てる事など条件がある。

 全てを捨てるというのは、今まで知り合った知人との連絡を取らない、今までの経歴などを捨てるということである。

 しかし伊織にとってそれは、どうでもいい事であった。

 マイケル達には申し訳ないが、俺にはやらなくてはいけない事がある。


「やる気になってくれるのは、こちらとしても問題はない」


 エルザはそういうと、携帯を取り出した。


「柏木か?私だ。折り入って頼みがある」


 チラチラと伊織を見ながら、何かを喋っているエルザを、睨みつけるように見ていた伊織であった。


 ーーーーーーーーーー


 ガタン。


「伊織様。もう間もなく到着します」


 そんな声とともに、目を開ける伊織。

 どうやら眠ってしまっていたようだ。

 シートベルトが閉まっているのを確認し、手元のコーヒーを飲んだ。

 冷え切っている。

 しかし、もう間もなく到着するといわれて、コーヒーをいれなおすのは意味がないだろう。

 カップを手元に置いて、ゆっくりと息を吐いた。

 胸元に手元をやり、銃の点検でもするかと考えた伊織であったが、メイに預けたままだった事を思い出した。

 思わず口元が綻んでしまう。

 いつかまた、会った時にでも、憎まれ口でも叩いてやろうと、伊織は窓から外を眺めながら、そんな事を考えていた。

 それは、二度と叶わない事である。


 ヘリのドアが開き、スチュワーデスらしき人物が伊織を出迎える。

 ドアをくぐり抜け、外に出る伊織。

 懐かしい空気。

 いつか必ずアメリカに戻り、自分の手で捜査をすると決心した伊織にとって、約7年ぶりのアメリカであった。


「伊織!!」


 聞き覚えのある声が下から聞こえ、下を向く伊織は、見知った顔が、ブスッとした表情で伊織を見上げていた。

 その隣には、眠そうな表情をした少女が、興味無さそうに伊織を見ていた。


「みなみ、美優姫。久しぶりだな」


 両手をポケットに突っ込み、階段を降りた伊織は、二人の前で手短にあいさつを済ませた。


「フン。エルザ教官がお呼びよ。さっさと乗って」


 そういうと、スタスタと歩き出すみなみ。

 財前から受け取った資料に載っていた人物とは、エルザである。

 伊織がアメリカに来た理由は、エルザからの要請を受けてでのものであった。


「美優姫はエルザからの要請の意味を知っているのか?」


「・・・ハイ。しかし、それはエルザから聞くべきだと判断します」


 エルザ・・ね。

 みなみはエルザ教官と呼び、美優姫はエルザと呼ぶ。

 その事を不思議に思いながら、車に乗り込む伊織であった。


 エルザが俺を呼ぶ理由。


 シーサー大統領の事に違いないと、伊織はそっと目を閉じた。

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