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世界は「 」にあふれている  作者: 伊達 虎浩
15/32

第1章 完結

 

 いつからだろう。


 鳴り響く電話に、うんざりしてしまったのは。


 それは遠い記憶。


 思い出したくない過去でもあった。


 ーーーーーーーー


 愛国者と名乗る仮面をつけた男の姿が目に入ると、メイの全身はゾクっと震えてしまう。

 全身の毛穴が開くとはこの事なのだろうか?

 冷や汗をかきながら、メイは仮面の男に話しかけた。


「ここは何処で、あなたは誰!?」


 間合いに入ったら襲うつもりで、臨戦態勢に入るメイ。

 仮面の男は、特に気にした様子もなく、一つ、また一つと、メイに近づいて来る。


(男・・よね?いや、それよりも・・)


 この男は危険だ。

 経験上からか、メイの脳は逃げろと告げている。


 《死にたくなければ、臆病であり続けろ》


 かつて伊織に言われた言葉。

 今ならその言葉の意味がわかる。

 もし、戦闘にでもなってしまったら、自分は死んでしまうだろう。

 相手を襲うつもりだったメイは、瞬時に逃げの選択肢に変更する。


 辺りを()()()で見渡すメイ。

 目だけなのは、首を動かしてしまうと、相手に気づかれてしまうかもしれないからだ。

 相手の注意をそらすつもりで、メイは相手に質問する。


 恐らく、この質問の意味は無いといってもいい。

 しかし、この質問によって、意味が生まれるのならば、いくらでも質問をしよう。


「私を誰だか知っての事なのかしら?」


 この質問の意味がないといったのは、自分は飛行機に乗る際に襲われた事を踏まえると、軍の関係者だと解っていて、襲われた可能性が高いという事である。

 何故なら自分は乗る前に、金属探知機があるゲートをくぐらずに別室に案内されている。

 つまり、警察関係者か、空港の関係者か、犯罪者かに絞られるだろう。


 空港の関係者であれば、バッジか、身分が証明できる物を、首からぶら下げているはずなのだが、メイはソレをしていない。

 犯罪者なのであれば、キャビンアテンダントが案内する事は()()無い。

 ほぼと表現したのは、キャビンアテンダントに扮した警察かもしれない為である。

 しかし、自分は犯罪者ではない。


 つまり、二つにあてはまらないメイは、警察関係者と解っていて、襲われた可能性が高いという事だ。


 また、意味が生まれるのならと考えたのは、相手が考える時間、相手が喋る時間、相手から逃げる時間、状況判断する時間など、自分が相手に質問する事によって、少なからず時間が生まれるはずであり、それが生まれるのであれば、意味はあるという事になる。


「メイ刑事だろ?中華人民共和国の刑事さんが、日本で一体何をしているのかと思ってね」


(だから何だというのだ。そんな事で私は襲われたとでもいうのか)


 日本で、海外の警察関係者がいたら襲うだろうか?

 それは絶対にない。

 つまり、中華人民共和国の警察関係者だから、襲われた可能性が高い。

 メイはそう判断し、再度逃げる算段を立てるのだが、右を見ても、左を見ても、暗くて壁は見えない。


 しかし、これは好機だ。


 何故なら、相手も同じであり、自分が右に向かって全力疾走すれば、数秒で姿を見失うはずである。


 一、二の、三で左に全力疾走する。


 メイがそう心に誓い、相手に気づかれないように、小さく深呼吸をした時であった。


「そうそう。メイ刑事にプレゼントがあるんだった」


「・・プレゼント?」


 タイミングをずらされてしまい、仕方なく相手に返事を返すメイ。


(良し!相手がプレゼントとか、訳が解らないが、ここしかないわ)


 相手がプレゼントを持ってきたら、受け取るから床に置いて5歩下がってと言い、相手が下がった5歩目で全力で逃げる。

 ドアは何処かに必ずあるはずだ。

 そうでなければ、この仮面の男はここから出られない。


 不気味な笑い声を聞きながら、メイは静かに闘志を燃やしていた。


 ーーーーーーーーーー


 いつからだろうか。


 かつて大好きだったはずなのに、今は?と聞かれたら、困ってしまうようになってしまったのは。


 それは近い記憶。


 思い出したくない過去であった。


 ーーーーーーーー


 不気味な笑い声をしながら、プレゼントがあると言った仮面の男は、何かをまたぎながら一つ下がり、足元にある物をズズズズっと右足で押し出した。


(・・・箱?)


 押し出された箱は、ラーメン屋の出前などで見かける岡持ちのような、銀色の箱であった。


「ククク、クククアハハハハハ」


 何がそんなに可笑しいというのだろうか。

 メイには全く理解できなかった。

 しかし、そんな事はどうでもいい。

 プレゼントを受け取るフリをして、さっさとこの場を立ち去ろう。

 所詮は人ごとだと思っていたメイであったのだが、人ごとではなくなってしまう。

 仮面の男に、下がるよう言おうとしたメイより先に、仮面の男がフタをあけた。


 心臓が止まってしまう。


 まるで誰かに心臓を握られたような、そんな感触であった。


「君の、()()()・・キヒ。キヒヒヒヒ」


 箱の中身は、メイの弟の頭部であった。


 ーーーーーーーー


 電話が鳴り響く。


 差出人の名前を見た私は、出るかどうか悩んでしまう。


 差出人の名前は、私の大切な弟の名前であった。


 電話にでなくても用件は解っている。


「あ、姉貴か?悪いんだけど金貸してくんない?」


 やはりか・・。


「アンタ毎回そう言って・・」


 私は毎回弟に説教をしながら、最後にはお金を貸してしまう。


 ダメな姉なのかもしれない。


 ーーーーーーーーーー


 呼吸が荒くなる。


 静かに、静かにたかなる鼓動。


「・・ふざ・・けんな」


「キヒヒヒヒ。何か言ったかね?」


「殺してやるっつたんだよ!!」


 メイは床を蹴り、仮面の男に向かって突進する。

 太もものナイフをサッと取り出し、数本相手に投げつけ、相手が避けた場所に向かって、ナイフを振りかざす準備をする。


「何を怒る事があるのかね?」


 仮面の男はナイフを避けずに、右手でナイフを掴み取る。

 それなら自分は、仮面の男に斬りかかるだけ。


()()()()()んだろう?君が言ったんじゃないか」


「・・・クソが」


 前蹴りを繰り出され、吹き飛ばされるメイ。

 何とかガードしたが、両腕が痺れてしまい、吹き飛ばされた先で、ナイフを落としてしまう。

 すかさずナイフを拾い、自分のスーツのスカートを切りさく。

 両腰から下にスパっと切り開いたスカートはまるで、チャイナドレスのようにヒラりとなびいた。

 両腕を組みながら、仮面の男は笑いながら告げる。


「君が望んだんじゃないか」


「ち、違う!!わ、私は・・」


 一定の距離ができ、少し冷静になったメイは、箱に目を向ける。

 よくできた偽物かもしれない。

 よく似た人物かもしれない。


「君は香月伊織にこう言った、シャオロンに弟を殺された。と」


「だ、黙れ!!」


「しかし、マズイ事になってしまった。君は香月伊織に好意を抱いてしまった。もしも香月伊織に嘘がバレてしまったらどうしよう」


「黙れっつてんだよ!!」


「弟が生きていたとバレてしまったらどうしよう。あぁ、誰か弟を殺してくれないだろうか」


「違う!私は、私はそんな事、望んでなどいない」


 メイは伊織達に嘘をついた。

 弟がシャオロンに殺されてしまった。

 だからシャオロンを狙っていると。

 しかし、真実はそうではない。


 シャオロンを殺すか、捕まえなくては、弟が殺されてしまう。


 それは近い過去。


 忘れない記憶。


 私の罰だ。


 ーーーーーーーー


 いつものように電話が鳴り、差出人を見た私は、またお金を貸してくれという、電話だろうと思いながら電話に出た。


「言っとくけど、お金なら貸せないよ」


 電話の最初の一言は決まっている。

 そして、次に返ってくる答えも決まっていて、頼む!これが最後だからであった。

 しかし、待っていても中々返事が返ってこない。


「・・・どうしたの?何かあった?」


 いつもと違っていた為、心配になった私は声をかけた。


「あ、姉貴!た、助けてくれ」


「た、助けてって、どういうこと!今何処にいるの」


 助けてと言うワードを聞いた私は、頭に血がのぼり、カッとなって、怒り気味に、まくしたてるように早口になってしまっていた。


「このままでは、俺、俺。シャオロンに殺される」


「シャオロンって・・その名前をどこで・・」


 シャオロンは、裏社会の人間ならば誰もが知る有名人である。

 犯罪者キラーなど、シャオロンは犯罪者しか殺さない事から、被害者の人達からは絶大なる人気を集めていた。


 一方警察としては、シャオロンを捕まえなくてはならない為、人気がある、ない、以前の問題であった。


 シャオロンによって、指名手配犯が死んでいるのだが、警察はそれを知らない。

 つまり、見つかるはずない指名手配犯を、ずっと探すハメになってしまっている。

 シャオロンは警察関係者にとっては、捜査の邪魔でしかない。


 そんな男に、弟が狙われている。

 つまり、弟は犯罪者になってしまったという事なのだろうか?


「あ、姉貴!俺はやっていない。ハメられたんだ」


「あぁ。わかっている。私はアンタの姉だ。大丈夫。私が何とかするから、今何処にいる?」


「わからない。必死に逃げ回って、隠れたから・・なぁ姉貴!()()()なんだ」


「あぁわかったから。アンタは隠れて、私からの電話を待つんだ。いい?居場所をメールすること」


 しかし、弟からの返事はなく、プツっと切れてしまった。

 とにかく日本だ。

 横浜の何処かということは掴んでいる。


「あ、支部長。メイです。しばらく休暇を・・いえ、そういうわけでは、ハイ。ハイ。ありがとうございます。では」


 日本行きのチケットを手配して、目指すは横浜。

 中華人民共和国の、捜査官だとバレてしまっては、国際問題に発展しかねない。

 しかし、これならただの観光旅行だと思ってもらえるだろう。

 休暇中に、ブラックリストのシャオロンを捕まえて、中国に連行すれば、クビも免れるだろう。


「服は・・向こうで買えばいいか」


 メイはパスポートだけを持って、家を後にした。


 ーーーーーーーーーー


 何故、今この時に、昔の事などを思い出しているのか?これが、走馬灯というのであれば、私は死ぬということになる。


 メイは首を横にふり、集中、集中っと、自分に言い聞かせた。

 一方、仮面の男は、リモコンのスイッチを操作し、部屋の照明を一斉につけた。


(クソ・・奥・・か)


 部屋が明るくなった事により、出口の扉の位置がわかったのだが、仮面の男の後ろにあった。

 これでは、仮面の男の左右どちらかをすり抜けなければならないのだが、全く隙が見当たらない。


 箱の中身は他人だ。

 自分にそう言い聞かせないと、おかしくなってしまいそうだ。

 逃げるから、殺すにかわってしまう。

 それではダメなんだ。


 明るくなった所で、再度辺りを見渡すとそこは、リングの上であった。


「メイ刑事。君は嘘をついてしまった。そして君の()()嘘をついてしまった」


「・・嘘?」


「あぁそうだ。シャオロンに殺された、シャオロンに殺される、全く。嘘はよくない。そう思わないかね?」


「だ、黙れ!!」


 嘘をついたから殺されるというのか?

 そんな馬鹿な話しがあるものか。


「しかし、流石は姉弟。二人の意見は一致した。殺されるという弟と、殺されたという姉」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」


「そこで私は、君の弟にゲームを持ちかけたのだよ。君の弟が勝てば生きられ、負ければ死ぬ、生死を賭けたゲームをね」


 そう言って、両手を広げる仮面の男。

 まさか、本当にあの箱の中身は弟なのだろうか。

 まだ、箱の中身が弟ではないという可能性は0ではない。

 0ではない限り、諦めない、ここを出て弟を探す。

 幸いな事に、自分は警察関係者だ。


「・・一つだけ聞きたい。アンタは何者だ?」


「フー。先ほども言ったじゃないか」


 仮面の男は、やれやれと言わんばかりに、両手をあげ、首を横に振りながら、先ほどと同じ答えを返した。


『愛国者』だと。


「私からも質問したい。メイ刑事。君はこの世界の真実を知っているかね?」


「・・・興味がない」


「そうか。ならもういい。弟のもとへ送ってやろう・・あぁそうそう。プレゼントは受け取ってもらわなくちゃな」


 仮面の男は、コツンと箱を蹴る。

 箱の中のメイの弟の頭部が、ころころ転がってくる。

 メイは固まってしまう。

 目の前から、弟の頭部が転がってくるのだ。

 弟でなくても、平常心でいられるかどうか。

 しかし、これで弟かどうか確認ができる。

 心臓の音は、最高潮に達している。

 一つ、また一つと、メイに向かって転がってくる弟の頭部を、じっと見つめてしまっている事に、メイは気づいていなかった。

 まともな判断力を、失っていたのかもしれない。

 完全な無防備といっていいほど、メイは頭部に集中していたその時であった。


 鳴り響く銃声。


 ダン、ダン、ダン、ダン。


 鳴り響くたびに、頭部が吹き飛んでいく。


 今、自分(メイ)の頬にあたったのは、目玉だろうか・・・。


「・・・あ・・・ああ・・あーーー」


 両目をカッっと見開き、声にならない声をあげる。

 ほほを、アゴを濡らすものは涙なのか、鼻水だろうか、あるいは返り血だろうか。

 静かに、ゆっくりと、首を横にふるメイに対し、仮面の男は楽しそうに笑う。


「キィーヒィヒィ、ヒィヒィ、ヒィヒィ」


 両手で頭を抱え、床に向かって、雄叫びなのか、悲鳴なのか、奇声なのか、よく解らない声をあげるメイ。

 精神が崩壊してしまいそうだった。


 そんなメイを救ったのは、伊織の言葉であった。


『メイ!・・・またな』


(・・行かなくちゃ。・・生きなくちゃ。)


「私は・・死ねない!!」


 そう言って立ち上がるメイ。

 その動きはゆっくりであったのだが、仮面の男は気にした様子もなく、メイが立ち上がるのを待っていた。


 ゆらり、ゆらり。


 まるで、ゾンビが床から出てきたみたいな動きで、メイは立ち上がった。

 両手、頭を地面に向けたまま、メイはブツブツ呟いた。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス」


 最後のスの部分で、上半身をキチンと起き上がらせるメイ。

 右手を前に突き出し、左手は左肩にあてる。

 弓を、引っ張っているかのような構えを見せるメイ。


「ほぅ。功夫かね?面白い」


「ハァァァァアアアアイヤー」


 ダダダダっと一気に駆け寄ると、メイは仮面の男に向かって、裏拳を放つ。

 右手での裏拳を、難なくかわさてしまうメイであったが、左肩にやっていた左手をすかさず、相手の脇腹目掛け、突き出した。

 左手をサッっとかわされると、左足を相手の顔面目掛け繰り出した。

 上段回し蹴りである。


 しかし、仮面の男は攻撃を全てかわしていく。

 かわされた左足を後ろに、右足を少し曲げ、右腕は先ほどと同じように前へ突き出し、左手は左腰の部分にあてる。

 同じ攻撃をして、あたる相手ではないと判断したメイは、構えを変えて、再度相手に突進する。


 右手を突き出し、かわされた所で、左足で回し蹴りを放ち、かわされた所で、左手を突き出した。

 メイが左手を突き出すと同時に、仮面の男も右手を突き出してきた。

 ぶつかる二人の拳。

 鈍い音がしたような気がした。


 したようなと思ったのは、悲鳴で聞こえなくなってしまったからである。

 無論、あげたのはメイであった。


「・・ぐ・・が・・嗚呼嗚呼」


 間違いない、左手が折れた。

 メイがそう判断すると、訪れる激痛。

 膝をつき、左手首を右手で掴む。


「シャオロンに、君が勝てないと思ったのと同じ事だよ。それが解っていて・・君は愚かだな」


 メイは伊織に会う前に、シャオロンを見ている。

 なつきやあいと一緒に観戦し、自分では勝てないと判断した。

 技は自分の方が上かもしれない。

 しかし圧倒的に、向こうの方が力は上であった。

 質より量という言葉の反対、量より質ということなのだろう。

 例えば、自分(メイ)が10発、攻撃をあてたとしても、シャオロンの1発でひっくり返されるだろう。


 ーーーーーーーー


「・・・強い」


「あぁ。さすがは裏社会で生きる者。しかし」


「うん。彼なら問題ないんじゃないかな?」


 なつきとあいが見つめあいながら、会話をしていた、彼?とは誰の事だろう。

 メイはたずねた。

 彼とは?


『大バカ者さ(だ)』


 よく解らないが、その男ならシャオロンを倒せるのだろう。

 すると、なつきが提案をする。


「彼ならきっと、人混みを避けて、裏路地を歩きまわるに違いない。だから・・」


 こうして、裏路地で待機する事になったメイ。

 しかし、困った事に、伊織の顔を知らない事に、ナンパされながら、メイは気づいた。


 知らない男が後ろを通り過ぎて行く。

 チラっと目をやり、急ぎ足で去って行く。

 これは、仕方がない事だ。

 誰しも、自分が一番可愛い者だ。


 仕方がないので、辺りを見渡し、誰もいない事を確認した瞬間、ナンパ男を撃退する。

 それを何回か繰り返していた時である。


「ほ、ほぉ〜。いきのいい姉ちゃんは、アンタかい」


 ヤクザか、チンピラか。

 ナンパ男とは少し違う三人組みの男が声をかけてきた。

 後ろを通り過ぎる若い男。

 ツリ目で、髪はボサボサ。

 体格は痩せ型の青年。

 また、通り過ぎて行くのだろうと思っていたメイだったのだが、その青年はジッとこちらを見ていた。


 メイを惹きつけたのは、その青年の目であった。


 死んだ魚のような目をしている。


 それなのに、ワザとヤクザまがいの三人組みを挑発し、自分を助けようとしているのだ。

 見ず知らずの自分を・・って嘘!?

 その青年は、息もきらさず、攻撃をさばいている。

 倒せる好機はいつだってあるハズなのに、反撃する事なく、相手が諦めるのを待っている。

 チラチラこっちを見てくるのは謎だが、間違いない!彼こそが、香月伊織に違いない。


 こうして、メイと伊織は出会う。


 それは近い過去。


 忘れない記憶。


 大切な・・記憶。


 ーーーーーーーーーー


 切り刻まれていく、自分の身体を前にして、メイはそんな懐かしい事を思い出していた。

 武術では敵わないと判断し、剣術勝負になったのだが、剣術でも敵わない。

 左手が使えない事もあったのだが、それ以上にこの男は強い。

 伊織とシャオロン戦のような展開に、メイは絶望していた。


 今、目の前を飛んでいったのは、右膝の皮膚だろう。

 吹き出す右膝の血を眺めるメイ。

 激痛も慣れてしまえば痛くはない。


「つまらん」


 そう言って、繰り出された攻撃に、胸元があらわになる。

 コツンと、何かが落ちた。


 それは、伊織から預かってろと言われた拳銃であった。


 両膝をつき、前のめりに倒れるメイ。

 この拳銃(いおり)だけは渡さないと、身体全身で拳銃を隠すメイ。


 溢れる涙は、悔し涙では決してない。


 死ぬ直前に気づいてしまったのだ。


 もう二度と、伊織に会えないのだと。


 薄れゆく景色。


 もう、何も見えない。


 あぁそうか。


 私は、彼に。


 恋をしてしまったのだろう。


「さようなら。メイ」


 仮面の男の声を聞きながら、静かに目を閉じるメイ。

 メイの弟は、メイに嘘をつき、シャオロンを捕まえる、あるいは消す事によって多額のお金を得ようとしていたのだが、メイがそれを知ることはなかった。


 何故なら、メイは真実を知る前に、死んでしまったからである。


 メイが死んだ事を伊織が知るのは、だいぶ後になってからであった。

さて、いかがだったでしょうか?

第1章はこれで終わりになります。

次回は少し、第1章に触れるお話しになります。

反省点ばかりになるかも知れませんが、どうぞお付き合いくださいませ。

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