第1章 11
残虐なシーンがございます。
苦手な方は注意して下さい。
シャオロンの登場に静まり返っていた会場が、一気に盛り上がる。
溢れんばかりの大歓声に拍手の雨。
メイは耳を抑え、伊織は真っ直ぐシャオロンを見ていた。
(写真で見たのとでは、やはり違うな)
貫禄と呼ぶべきなのか、余裕の笑みを浮かべ、会場にいる観客に向かって手を挙げるシャオロン。
「まるでスター気取りだな・・馬鹿馬鹿しい」
人殺しショーの何が楽しいのか、何が頑張れーだよと、伊織はウンザリしながら呟き、隣のメイを見る。
目をカッと見開き、唇を嚙みしめるメイを見ていた伊織は、メイにたずねた。
「見ているだけなんだな」
「え?」
両耳を塞いでいた為、何を言ったのか聞き直すメイにそう言い残し、伊織は階段を降り始める。
「ど、何処へ行く!!」
後ろから聞こえてくるメイの引き留める言葉を無視し、伊織はリングに向かって歩き始めた。
(弟が殺されたんだろ?なら何故いかない?)
ここしかないのなら行くしかないだろう。
チャンスは突然訪れ、二度と来ないものだ。
ならば、チャンスは逃さないべきであり、そのチャンスは今なのだ。
伊織はリング側で立ち留まり、後ろを振り変える・・が、メイは先ほどの位置から動いていなかった。
(まぁいいか。そばで見ていてくれ、見守っていて欲しい等とは思わないしな)
伊織は中央のリングを見上げる。
伊織の登場に静まり返る会場内。
メイは、一体あの男は何をしているのだと、自分の目を疑った。
一人の観客の「ひっこめーー」という言葉が合図となり、会場全体から巻き起こるブーイングの嵐。
当然、リング中央の三人は伊織に気づく。
正確には、シャオロンは伊織が階段を降り始めた時には気付いていた。
「お、おい君!そこで何をやっている!」
司会の男がロープを掴み、焦った様子でリング側にやって来た伊織に注意する。
「選手交代だ」
伊織はそう言うと、リングに向かって大きくジャンプし、リングに飛び降りる伊織。
「ふ、ふざけるなー」「ひっこめモヤシ」
飛び交うブーイング。
その怒りを鎮めようと、司会の男がマイクを使って「静粛に」っと言っているそばで、伊織は優勝者に歩み寄っていく。
「あぁん?何だお前。いっちょ前にガン垂れてんじゃねえぞ」
「ダニーローズだな?選手交代だ」
伊織の言葉に、湧き上がる観客の笑い声。
言われたダニーローズ自身も、お腹を抑え笑っている。
司会の男は頭を抑えながら舌打ちし、シャオロンは両腕を組んで、ロープに背中を預けていた。
「ひひひひ。おい小僧。笑わせてくれたお礼に今回は見逃してやる。早くお家に帰ってママのオッパイでも飲んでな!」
右手でお腹を抑え、左手人差し指をこめかみにあてながら、ダニーローズは続ける。
「俺はな、おたずね者なんだ。若い女をヤリすぎてしまってな~」
ニヤニヤ笑うダニーローズ。
”ヤリ”には二つの意味がある。
殺りと犯り。
「そうか・・じゃぁ死ねよ」
伊織の吐き捨てるような言動に、ダニーローズが声を荒げる。
「ふざけるなよ小僧・・いいだろう。あのガキの前にお前から殺ってやる。おい司会者」
「仕方ありませんね・・皆様・・・」
メイは、ただただ見ている事しかできなかった。
自分は間違っているのだろうか?可笑しいのだろうか?
あの男はリングに歩み寄っていったかと思うと、急に参加しているのだ。
プロレス等で、乱入者などがあるとニュースで見た事があるが、これはただのプロレスなんかではない。
殺しあうのだ。
メイがただただ見ているだけの頃、司会者の男がルールを説明していた。
観客達は、生意気なガキが死ぬのなら別に文句などない。
むしろ見られてラッキーぐらいな気持ちであった。
伊織はルールを聞きながら、シャオロンを見ていた。
余裕の表情を崩さないシャオロン。
司会者にリングから降りてもらえないか、お願いされたシャオロンは断り、今もロープに背中を預けている。
ルールはシンプルである。
銃は禁止、武器はOK、どちらかが死ねば終わり。
「俺はコレだ」
大きな大剣を持つダニーローズ。
1メートルは余裕で越えている大剣を肩に置き、ニヤニヤ笑うダニーローズ。
「そうか。俺はいらない」
伊織は右手を腰にあて、左手でコイコイとダニーローズを手招きする。
「ふ、ふざけるなよ餓鬼がぁぁあ!!」
開始のゴングを待たず、ダニーローズが顔を赤くし、伊織に向かって突進する。
会場中が静まり返る。
試合が始まれば静かにする。
まるで映画館等のマナーのようだなど、突進してくるダニーローズを見ながら、伊織はそんなどうでもいい事を思っていた。
「死ねクソ餓鬼!!」
大剣を横殴りに振り下ろすダニーローズ。
何もしなければ、伊織の胴体は真っ二つに切られてしまっていただろう。
そんな威力を秘めている攻撃を、伊織は側宙で交わす。
空を切るダニーローズの大剣。
その大剣を持つダニーローズの手を、伊織は右上にカチあげるように上段蹴りし、一気に加速させる。
空を切った大剣は、ダニーローズの首を切断、切り離されたダニーローズの頭を、伊織は上段蹴りした足とは逆の足で回し蹴りし、シャオロン目掛けて蹴りとばした。
目を開いたままのダニーローズの頭が、シャオロンに向かって飛んでいく。
シャオロンは余裕の笑みでダニーローズの頭を、かかと落としで地面に蹴り落とし、そのまま踏みつけた。
踏みつけると同時に、伊織の2倍はあるであろうダニーローズの身体が、大きな音と共に後ろにひっくり返った。
リングに溢れるのは血しぶき。
ダニーローズの首の部分から溢れる大量の血。
シャオロンはトマトを踏み潰すかのように、ダニーローズの頭を踏み潰す。
会場から漏れるのは、嗚咽と歓声。
リングの上で見つめ合う二人の男。
伊織とシャオロンの激闘が、始まろうとしていた。




