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もしかぐや姫が男だったら・・・

作者: あみにあ

昔、昔あるところにお爺さんとお婆さんがおりました。


ある日、お爺さんが山へ柴刈りに行くと、不思議な事に遭遇します。


お爺さんが山を登っていると、ふと横目に金色に輝く何かが視界に映りました。


気になったお爺さんはその金色に輝く方向へ足を向けると……そこには、黄金に輝く、大きな竹があったのです。


お爺さんは手にしていた斧で竹を慎重にたたきました。


すると折れた竹の中から、この世の者とは思えないほど美しい赤ちゃんが、スヤスヤと眠っているではありませんか。


お爺さんは竹の中から赤ちゃんをそっと取り出すと、すぐに家へ連れ帰りました。


子供がいなかった二人は神様からの贈り物だと、とても喜び、そうして二人は赤ちゃんに[なよ竹のかぐや姫]と名付け、大事に大事に育てました。


数か月後、普通の人間では考えられない速さで、なよ竹のかぐや姫は大人になると、それはそれは美しい姫となりました。


これはそんな美しいと謳われた、なよ竹のかぐや姫がもし男だったら……のお話です。



楚々とした美女は簾の向こう側で、静かに空を見上げて、何やら悩まし気な表情を浮かべていました。

くそ、まずいな……。

まさか、こんな事になるなんて……はぁ、やってられねぇ……。

妖麗な仕草でそっと目を伏せたかぐや姫は、小さい吐息を漏らしました。


二人が俺の事を女だと思っていることは薄々気が付いた。

こんな俺に、着物を着せたり、髪を伸ばして結ったり……。

いたぁでもね、嬉しそうに俺に笑みを浮かべる二人を見るとさ、なかなか言い出せなかったんだよな……。

まぁ俺の考えが甘かったのも要因の一つではあるが……。


てか、風呂とかに一緒に入ったはずだろう、なんで気が付かねぇんだよ!!。

はぁ……もう後数か月この地で生活すれば……俺は月へ帰るからな。

だからここで生活する間ぐらいさ、性別なんていいじゃないか!と楽観視していた。

でもまさか……こんなことになるなんて……。


かぐや姫がふと顔を上げ、簾の向こう側に目を向けると……どこぞの貴族だろう落ち着きのある知的風な男、百姓の息子なのだろう日焼けしガッチリとした男、さらに金持ちなのだろう、ジャラジャラと装飾品をつけた男に、真面目そうな青年……最後は相撲取りのような巨体な男が座っておりました。

彼らは皆一様にかぐや姫に熱い視線を向ける中、口をそろえて求婚しております。


いや……無理だろう……。

女の振りをしているが、さすがに男は嫌だ。

中身は健全な男子だからな!!!!!


そんなかぐや姫は、彼らの求婚に脂汗を流す中、たどたどしく口を開きます。


「あの……皆さま申し訳ないのですが……私はどなたも選べませんわ……」


かぐや姫がやんわりと断りを口にするも、彼らに引く様子はありません。

くそ……さっさと諦めてくれよな……。

はぁ、まずい、まずい、どうすればいいんだ…………あっそうだ!!

かぐや姫は何かいい案を思いつた様子を見せると、扇子で口もとを隠し、色っぽい声で囁きました。


「では、皆さま……裏竹山の奥深くにある、伝説の真っ白な真珠を、私の前に持ってきてください。一番最初にもってきて頂けた方と、結納致しますわ」


かぐや姫はそっと簾から離れると、男達は一目散に部屋を出ていきました。

はぁ……よかった。

何とか乗り切ったな。

まぁそんな真珠なんてものは眉唾物だし、これで時間稼ぎは十分だろう。

かぐや姫はほっと一息つくと、縁側へと足を向け、この国ならではの、鳥の声や虫の音に耳を澄ませました。


どれぐらいそうしていたのでしょうか……自然界の音に交じり、人の足音が耳に届くと、かぐや姫は徐に首を傾けました。

まさか……誰か戻ってきたのか……?

そちらへ恐る恐る目をむけると、貴族風の服装をした華奢な印象を受ける男が佇んでおりました。

かぐや姫は男の姿に小さく体を跳ねさせると、サッと簾に隠れるように姿を隠しました。


「断りもなく、不躾に女性の宅へ……失礼ですわ。あなたも私に求婚するのでしょうか……?」


かぐや姫は力なく語り掛ける中、男は徐に口を開くと、幾分高い声を出しました。


「いえ、あなたがお噂のかぐや姫ですね。私は帝……あなたの噂を聞きつけ、こうして参上した」


帝だと……!!?

帝ってこの国のトップじゃねぇか!!!

なんでそんなところまで噂が広がってるんだよ!!!!!

かぐや姫は声にならない声で心の中で阿鼻叫喚していると、男はそっと縁側へと近づいてきました。

おいおい、まじかよ……勘弁してくれ……。


「かぐや姫は、本当に伝説と言われている宝をもって来た者と、結納を交わすのか?」


かぐや姫は簾の奥からはいと小さく返事をかえすと、帝はそっと縁側に腰かけました。

さっさとどこかへ行ってくれ……。

そう心の中で願うも、帝に帰る様子はありません。

はぁ、さすがに帝をここに放置しておくわけには行かないよな……。

かぐや姫は不承不承にそっと簾から彼に話しかけると、思っていた以上の楽しい話に、心を躍らせました。

そうして二人は……時間の許す限り、会話を楽しみました。


それからかぐや姫と帝は文のやり取りをするようになりました。

帝は普通の男性とは違い、婚約など望んでいない様子で、かぐや姫にとって友のような存在になっていきました。

もちろん誰も伝説の真珠を持ち帰る者はおりません。

裏竹山に向かった者は帰らぬ人となったり、偽物の真珠で騙そうとしたり……。

そんな中、世話になった爺やと婆や病気に倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいます。

悲しみに暮れる中、帝はそんなかぐや姫に寄り添う姿に、益々二人の絆は深まっていきました。


そうして気がつけば、月へ帰るまで後一週間となりました。

そんなある日、気心しれた仲となった帝に、かぐや姫は思い切って、本当の事を手紙に綴ることにしたのです。


秋色の候

帝様へお伝えしたいことがございます。

私はもうすぐ、月へ帰らねばなりません。

あなたとの時間は、私にとって至福でした。

あなたは普通の男性とは違い、私を友のように接しくれて、

それがどれほど私にとって幸せだったことか。


そんなあなたに、お伝えたいことがございます。

突然の事で信じて頂けないかもしれませんが、私は女ではありません。

偽っていたわけではないです。

只気がつけば、周りは私を女だと思っておりました。


嘘をつき続け、大切な友を騙してすまなかった。


かぐや姫はそこで筆を止めると、深く息を吐きました。

そのまま白紙の紙を添えると、くるくると手紙を巻いていきます。


帝はこの手紙を見て怒るだろうか……。

俺に心残りは大切な友に嘘をつき続けた事だけだ。

でも帝なら、きっと許してくれると信じている。

それは長い月日幾度となく彼と文のやり取りをし、逢瀬を重ねたからわかるんだ。

だからこそ、最後に本当の事を伝え帰りたかったんだ。

かぐや姫はそっと縁側へと足を向けると、友を恋しむ様に一人夜空に浮かぶ金色の月を見上げました。

文の返事はないまま、刻一刻と月へ帰る日は迫ります。

帝からの文の返事は、まだきておりませんでした。


そうしてとうとう帰る日である、15日がやってきました。

やっぱり驚くよな……突然男だなんて言われてもさ……。

あぁ、友と仲たがいしたまま、俺は月へ帰るのか……。


かぐや姫は悲しみを堪えるように庭園を見渡していると、庭からガサガサと音が聞こえました。

その音にかぐや姫は縁側へかけていくと……そこには美しい女性の姿がありました。


「あなたは……?」


「かぐや姫、お願いです……すぐに、ここからお逃げください!!!」


女性はかぐや姫の手を引くと、わき目もふらず屋敷の外へと走り始めた。

戸惑う中、彼女に連れられるままに裏口から外にでると、かぐや姫は何やら表門の様子が騒がしい事に気が付きました。

かぐや姫は彼女の腕を引き寄せると、そっと表門の様子を覗います。

うん……なんだあの大名行列は……まるで……。

まさか帝が!?


かぐや姫は友に会う為、表門へ足を向けようと体を動かすと、女性はかぐや姫の体を強く抱きしめました。


「離して下さい、帝は私の友なのです」


「違います!!違うのです……、私なの……帝の変わりにあなたと逢瀬をかわし、文をやり取りしていたのは……っっ!!!」


女性の突拍子もない言葉に、かぐや姫は動きを止めました。

こいつ……何を言っているんだ……?


「かぐや姫……いえ、かぐや殿!!!私を信じて、この場から逃げて頂けませんか?後できちんとお話します……どうか!!」


かぐや姫は混乱する中、女性は縋りつくようにかぐや姫に顔を向けると、かぐや姫は彼女の導かれるままに足を動かした。

この女……本当なのか……?


二人は屋敷から離れ、森の中へと逃げ込んでいきます。

森の奥へ奥へと入って行くと、息が上がった女性は注意深く辺りを見渡し、ゆっくりと足を止めました。


「はぁ、はぁ、はぁ……突然申し訳ございません……、でもこんな私についてきて、頂けてとても嬉しいです」


女性は頬に汗を流しながら、かぐや姫にはにかむように笑みを浮かべました。


「一体何なんだ?さっきの話は、一体……どういう意味なんだ」


女性は大きく深呼吸すると、呼吸を整えるように、ゆっくりと語り始めました


私は帝の妻となる者です……。

正直言うと、帝の妻などになりたくありませんでした。

しかし帝に逆らえるはずもなく、私は妻候補となってしまいました。

屋敷からは出ることもできず、人と話すこともできない……そんな生活に嫌気がさしてたある日、あなたのお噂を耳にしました。


皆、結婚に何の疑問思わない女性ばかり見てきた私に、あなたは結婚相手に、とても困難な条件を出し……もしかして、あなたも私と同じように結婚を嫌がっているのではと考えたんです。

そしてあの日、私は屋敷を抜け出し、あなたに会いに行きました。

女の恰好ではすぐにばれてしまうと思い、男装姿であなたにあって、あなたと会話を楽しんで……。

私が結婚するまでの関係とわかっていても、私にとっては貴重な時間でした。


そんな時あなたから、あの手紙をもらったんです。

正直に話してくれたあなたに対して、私も自分の事を話そうと思い筆をとりました。

その時偶然にも、帝が私の部屋にやってきたのです……。

あなたの手紙を見て不貞を疑われ、私は部屋に監禁されておりました。

しかし帝はあなたを罰する為、きっとあなたの元へ行くと、そう思い……私は抜け道を使って、ここまで来たのです。


「よかった……あなたが彼に出会う前に救い出せて……」


帝の妻と名乗った女性はホロリと涙をこぼすと、徐に顔を上げました。

俺がずっと友だと思っていたのは……彼女なのか。

でも彼女は女であれ……俺と逆……。

混乱するかぐや姫は、何度も瞬きを繰り返し、呆然と彼女の姿を眺めておりました。


「かぐや殿。今日が月へ帰るお日にちなのでしょう……、帝に見つかる前に早く……」


その言葉にかぐや姫は、咄嗟に彼女の肩を掴みました。


「君は……君はどうなるんだ?」


彼女はスッと視線を下すと、私の事は気にしないでくださいませと小さな声で呟きます。


「そんな……君は帝に逆らったのだろう……只じゃ、すまないはずだ」


「良いのです、私はもとより結婚などしたくありませんでしたし……。このまま死罪でも後悔はございません。だって私にとって初めてできた唯一無二の友を、助けることができたのですから」


そういった女性は、百合のような可憐な笑みを浮かべました。


二人森の中佇んでいると、何やら森の中が騒がしくなってきました。


こっちへ逃げたぞ!!!!

探せ!!!帝の命令だ!!!!!!!!!


怒声が森の中に響くと、鳥たちが一斉に飛び立っていきます。

そんな中、大きくなった満月から小さな影が浮かび上がりました。

来たな……。

だが俺は彼女を見捨てていけるのか……?


次第に大きくなる陰に、周りの兵士の声が大きくなっていきます。

かぐや姫は隣で驚いた様子で空を見上げる彼女の腕をとると、胸の中へ引き寄せました


「なぁ……友よ。俺と一緒に月へ行かないか?只傍に居てくれるだけでいいんだ!無理維持なんてぜってぇしねぇ!なぁ、俺の手を取ってくれ」


彼女は俺の胸の中で動きを止めると、震える声でかぐや姫を見上げました。


「……宜しいのですか?私はあなたの傍に居続ける事ができるのなら、どこへだってついていきたい……」


かぐや姫と彼女が二人抱き合っていると、叢から兵士の姿が現れました。

兵士は剣を構え仲間に知らせるように大きな声を上げる中、かぐや姫は軽く地面を蹴ると、彼女を抱えたまま大きな影の元へと向かっていきます。


かぐや姫の奇天烈な動きに、ザワザワと集まってきた兵士たちを見下ろすと、弓兵が二人に向かって幾度も矢を放ちました。

届くはずない弓に、かぐや姫は小さな笑いを浮かべる中、腕の中では必死にかぐや姫にしがみ付いている女性の姿が見えます。


そうして二人は月に浮かぶ大きな影の中に吸い込まれていくと、月へ帰っていきました。


無事逃げ延びた二人はその後どうなったのか……それはまた……。



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