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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

息抜きに短編 ー1ー 「偽りの選択」

作者: 信条 蒼

連載小説の次話が中々進まなくて、とあるゲームで体験した事をきっかけに、思い浮かんだものを息抜きに書いてみました。


※一応言いますが、ほぼフィクションです

 私は今、とある友人の部屋に一人、広い空間の端にあるダブルベッドの前で突っ立っている。明かりの無い暗闇で一人、内に黒い感情を渦巻いて。


 今日私は、ここの部屋主である友人と二人で飲む約束をしていた。それは楽しく飲み明かすのでも飲み比べでもない、憎悪と憤怒を一方的にぶつけられる云わば処刑だ。数十分前、突然その友人が電話で不自然な明るい口調によって呼び出された。来たは良いものの、友人側はなんの準備もしておらず、私が来たと同時に部屋から飛び出してきて唐突なハイタッチを求めてきた。慌てて応じると、その合わさった手から一枚の紙切れが床へ落ちた。拾いあげて文字が書かれた方を見てみると、そこにはとある女性の名前と電話番号が書かれていた。

 そう、今回二人で飲む切っ掛けとなったのは昨日の晩、私とこの紙に記された名の女性との間で起きた1つの出来事だった。


 昨晩、同じくこの部屋で友人と私、その他の友人が2名、そして紙に記された名の女性の計5人が集まって賑わっていた。ここは様々な遊具が設置されている広い部屋で、友人3名とその女性は楽しく遊んでいた。私はというと、遊具以外にも見て面白い物があちこち点在していた為それを見て回っていた。その中で一際目についたのが、四角いパンケーキという稀有なデザインをしたダブルベッドである。特にやましい感情はなく端的に、可愛らしい変わったデザインだと別部屋にいる皆へ感想を告げた。それが翌日に愚行だったと思い知らされる事も知らずに。

 部屋主の友人は皆との遊びに夢中で、私に簡素な返事が送られてきた。私は一人単独行動をしている為それで十分だと思っていた、ある程度見回ったあと皆の元へ合流しようと思いつつパンケーキ型のダブルベッドの横に立って面白いと眺めていた。

 すると突如、その女性が私一人だけがいる部屋のそのダブルベッドへダイブし、私を誘惑したのである。

 容姿は美少女に分類される背の小さな少女で、私と同じ立場に立たされた者は誰であろうと男性ならば直ぐ様誘われてしまう程の魅力を醸し出している。予期せぬ事態に私は困惑した。何よりその誘惑に私は自我を奮い立たされて、今にもその花園へと飛び込んでしまいそうな勢いに駆られている。

 しかし私は、遊びでからかっているのだと自分に言い聞かせ、必死に自我を押さえつけてその場で踏みとどまる。一歩でも歩を動かせば、全てのリミッターが外れてしまう気がして一歩も動けない。何よりこの場から離れると彼女を傷つけてしまうのではないか、飛び込んでも同様に傷を負わせてしまうかもしれない。そういって掻き乱される心情と葛藤する。

 幾度の誘惑の声に応じなかったせいで、彼女の方が先に折れて部屋から出ていってしまった。その直後、私は部屋主である友人の一喝で、狂い乱れていた私の心が留めを刺されるようにして打ち砕かれてしまった。

「女に恥をかかせるな!!」



 その後、私はベッドの隣に設置されている暖炉に当たり、火を見つめながら先の出来事について心の整理を始めた。少女が部屋から出ていった後も、友人達は遊びを続けていた。

 私は自らの選択を誤ったせいで彼女を傷つけてしまったのではないかと、少女の様子が心配で友人達との遊びに満足に加わることは出来なかった。部屋主である友人は一喝の後、その日は私に何も怒りをぶつけてくることは無かった。数時間後に皆で場所を変えた頃に少女は現れ、私は入れ替わるようにしてその場を去った。



 そして翌日の今日、友人に拉致されて真っ暗な部屋で一人、買い出しを待たされながらもパンケーキ型のダブルベッドを先日の羞恥な白き感情とは真逆の、懺悔と後悔にまみれた黒い感情を抱きながら見つめているのである。

 あの時私が、自制心に呼び掛けず許されるがままに欲望を満たせば少女は傷つかなかったのかもしれない。しかし、私が誘惑にくすぐられる欲望を必死に抑えたのにはもうひとつ理由がある。それは、ここが私のでも少女のでもなく、友人の部屋のベッドだからだ。第三者のベッドで友人が集まっている中で事を犯すのは流石に、少女の心身が色々と負に苛まれるであろう。その状況が、負けそうになっていた自制心を繋ぎ止め事を一時的に納めたと言ってもいいのかもしれない。

 しかし私は後悔している、美少女からの誘いを下手に出た真面目さで制止させてしまったことに。その羞恥と少女を傷つけてしまったかもしれない後悔による感情で、私の心臓に暖炉の中で燃え盛る火のような何かが熱されている。



 そして、ふと気がついた。その燃やし尽くされそうな強烈な熱が、心臓から脇腹の方へと移り変わっているのを。下を向くと、その熱せられた棒を押し当てられているように痛む箇所から小さな刃が飛び出ていた。背中には程良い大きさの柔らかい感触が並列に2箇所押し当てられ、心臓の鼓動が合わさるのを感じる。

「私の想いに応えてくれないアンタなんて……要らない!!」

 最後に力込めて言葉を吐き捨てると同時に、勢い良く脇腹を貫通した刃が引き抜かれた。ゼンマイを抜かれたように私は全身の力が抜け、血まみれの床に崩れ落ちた。

「違うんだ……私は……、ボクは……君の事を想っ――」

 少女の姿は、引き抜かれた刃が血溜まりに落ちた頃には部屋から消え去っていた。私の言葉は、向けるべき相手の居ない部屋で無意味に小さく空気を震わせるだけに終わった。そして、私の命も――



 私が彼に説教しようと、飲めない彼を強引に私の部屋での二人飲みに誘った。しかし、酒とつまみを切らしていたのをうっかり忘れていた為、私は彼の到着と同時に買い出しへと駆けた。彼にあの子の連絡先を押し付けて。

「私が帰る前にせめて、電話で少しでも普通に話してくれるようになれば……、彼の方から謝ってくれれば……」

 そう願っていた私の考えは、部屋に甘味を漂わせるような甘いインテリアの数々よりも甘かった。私が酒缶とつまみが沢山入ったビニール袋を両手にぶら下げて、甘い部屋に似合わない状態で帰宅した直後、私は両手の袋を不意に落とした。そして両足が砕けるように床に尻餅つき、全身からおぞましい寒気を感じ身体を震わせる。

「そんな……、あの子……そこまで彼を……」

 私は彼を殺した犯人が誰かなのか、直ぐに理解した。その思い当たる人物が一人しかいないからだ。

 直感で犯人が判明した私は、止まらぬ涙を必死に拭い血眼になって部屋の隠蔽工作を開始した。まずは彼を、部屋のインテリアとして飾って友人達の玩具になってもらう予定で保管していた棺桶の中に仕舞い臭いが漏れないよう厳重に隙間なく閉ざした。そして、彼の入った棺桶を決死の馬鹿力で一人移動させようとした際、部屋のインターホンが鳴った。恐る恐るインターホンのカメラを除くと、そこに映っていたのは昨日来ていた友人の一人である男性一人だった。私があれから不穏な態度を隠していた事に、友人は気づいていた為心配して来てくれたのである。

 私は、友人に錯乱させぬようゆっくり順序に気を付けて説明しながら、彼の遺体が入った棺桶のある部屋へと案内した。友人は最初は静かに驚いた様子を見せたが、直ぐに冷静さを取り戻し、彼の隠蔽処理を手伝ってくれた。

 力の強い友人は棺桶の移動と刃物にや床についた指紋の削除、私は床の血溜まり拭いを行い何とか部屋の状態は戻った。彼を部屋の地下へと埋葬し、他の友人達へは“遠くへ出掛けた”等とテキトーな嘘で誤魔化した。



 それから一週間後、あの子の身にある異変が起きた。それは、部屋にいると決まって寒気からか全身が落ち着かない感覚に陥るのだ。

 当然だ、何せ私と友人が彼を埋めたのは、あの子の部屋の下なのだから。


 私達が隠蔽工作をしている内に、度々声が聞こえていた。

「彼女の傍へ……彼女の近くへ……」

 そう小さく復唱してくるのである。次第に私は無意識に友人に頼み、棺桶を友人のトラックに積んであの子の部屋へ運び、あの子の居ない時を見計らって早急に埋葬したのである。



 やがて少女は、彼がとても慕いお世話になっていた老師の元へと駆け込んだ。老師は少女のお願いを聞き入れて一緒に少女の部屋へと立ち入った。すると老師は、部屋に入るなり少女の方を見て鬼のような形相を浮かべた。

 少女は萎縮してその場でうずくまるが、老師はその場で少女に問い詰めた。彼に何があったのかと。しかし、少女は自分が殺したとはとても言えず、自殺したのだと嘘を言った。老師は信じられないといった顔で少女を睨むが、どの道少女の身に危険が生じているため納得いかない様子ながらも老師は除霊を始めた。

 こうして、彼の選択から始まった偽りの連鎖によって彼は、大切な仲間達によって二度殺された。



 老師によって彼が除霊された翌日、あの子は私の所へやってきた。埋葬の件で問い詰められるかと思いきや、流石にバレてはいなかった。あの子は泣きそうなのを堪えながらも笑顔で私に、私の部屋の合鍵が欲しいと頼んできた。制作費に相当上乗せされた代金が入った封筒を両手で前に出して。私は勢いに飲まれるがままにあの子の手に握る封筒を恐る恐る受け取った。するとあの子は、一瞬下を向いたが直ぐに私の顔を見て笑顔でお礼を言ってこの場を去っていった。

 そして、その日からあの子は私の居ない間に、毎日私の部屋に訪れるようになった。あの子は部屋に入るなり彼の血溜まりがあった場所へ静かに腰を下ろし、必死に毎日タオルで拭っているのである。決して拭いきれない僅かな血の臭い、それは呪いのようにあの子をこの部屋へと誘う。少女は拭ったタオルを、全く汚れていないのに毎日毎日洗濯している。あの時自身の行った罪な選択を悔いて、密かに隠蔽してくれた友人達と彼への罪悪感に苛まれながら。

 あの時彼が、パンケーキ型のダブルベッドにあった美麗なる温もりに添い遂げさえすれば、そのベッドに永遠の空虚二人分がのしかかることはなかったというのに。



(完)

別人として登場させておりますが、友人達をモチーフにした人物を登場させている為、その方々から削除申請が寄せられた場合は即刻削除といった形で対応させていただきますのでご了承ください。


ホラーゲームの前日談や、回想でありそうな内容といったイメージです

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