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陰キャ、覚醒す 作者:聖竜の介
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 僕が覚悟を決めた瞬間、頭部ビルの動きが変わった。 ――未だ見ぬ、無貌無名の異邦者に告ぐ
 海草のようにクネクネと揺らめくと、形を激しく変え始めた。
 それは、大きな獣の形をとった。
 これは……熊だ。
 野田の肉――万能物質とでも言うべき素材から、棹立(さおだ)ちになった熊が作られたんだ。
 僕は、叫びながら、がむしゃらに走った。
 熊が身構えるより早く、頭にストレートをぶちこむ。
 熊の頭部は弾けとんだ。
 擬似的な脳を破壊された熊は、身体に指令を送ることができなくなり、倒れ死んだ。
 これは、ただの熊だ。
 罠を疑う事は考えない。
 もしそうなら、その時考える。
 と、熊の死骸が形を失い、アメーバ状に戻る。
 さっきの熊を何倍も大きくした何かに、再構成される。
 それが、僕らの四方を囲むように、五体。
 こいつらは。
 僕が最初に遭遇した魔物、トロールだ。
 巨大化した僕らを更に上回る巨体は、本当に成層圏に届きそうだ。
 これは僕の推測だけど。
 野田さんの自我を失った"あの野田"は、融合した小谷辺の土地から記憶を読み取っているのではないか。
 かつてこの地に存在した"強い生命体"を、片っ端に。
 以前、この町に熊が出た事がある。
 子熊を連れて凶暴化していた母熊は、三人に怪我を負わせた。
 結局、猟友会の人に射殺されたけど、あの熊が生きた記憶は、この地に残っていたのだろう。
 だから、野田=小谷辺はまず、母熊を模造した。
 けど、たかだか熊を創り出した所で、この場では話にもならない。
 それを理解した野田は、次に見つけた強い存在の記憶――トロールを造り出したのだろう。
 今更な相手だが、このサイズで下手に歩き回られるとまずい。
 天田と沖田さんが消し飛ぶように飛び掛かった。
 トロールが二体ずつ、頭を砕かれた。
 僕は、残った一体を異空間に幽閉。
 そのまま核融合を起こして、これも跡形もなく蒸発させた。
 トロールを模していた肉が、またこねくり回される。
 皮膜の翼。岩石じみた肌の爬虫類。
 ドラゴンだ。
 今、不謹慎だけど、ボスラッシュって単語が浮かんでは消えた。
 小谷辺の地に現れた“強い存在”をコピーすると言うことは、僕らがこれまで戦ってきた魔物を再登場させることとイコールでもある。
 い、いや、そんな事を考えている時ではない。 ――私に見えぬ、私の望む、破滅の具象に私は告ぐ
「パラライズ」
 沖田さんが、無慈悲に言うと、魔物化したボツリヌス菌の群れが、模造ドラゴンに殺到。
「デス、ポイズン」
 沖田さんは、容赦しない。
 どれが効いたのかはわからないけど、離陸したばかりだったドラゴンが、宙でもがきだした。
 決定的な隙だ。
空覇神槌殺(くうはしんついさつ)!」
 ドラゴンの頭部がひしゃげ、二又に裂けた。
 返す電柱で、もう一度空覇神槌殺。
 胴体を徹底的に叩き潰す事も忘れない。
 最期の火球を吐く余地もなく、ドラゴンは停止した。
 再構成。
 次に現れたのは、
 黒の騎士――沖田さんのコピー。
 そして、天田のコピー。
 野田はついに、この二人を街の強者と認めたのか!?
 これは、まずい!
 沖田さんの状態異常魔法は、僕ら人間に耐えられるものじゃない!
 ああっ、さっそく、偽・沖田さんが口を開いて、
魔殺打(まさつだ)!」「パラライ――」
 本物の天田が食い気味に叫ぶと、偽・沖田さんの喉に貫き手を突き入れた。
 ターゲットの魔法行使に反応して、最速の地獄突きを叩き込む拳法だ。
 物理的に詠唱を阻害され、パラライズの魔法は発動しない。
 一方、本物の沖田さんが、偽・天田を蹴り倒しつつ、詠唱。
「マジック・ロック」
 記憶封印の魔光が、偽・天田の脳天を直撃。
 偽・天田は、びくりと巨体を痙攣させた。
 両腕をだらりと下げて、その場にへたりこむ。
 思考停止に追い込まれた、無防備な偽・天田へ、本物が、
「空覇神槌殺!」
 偽・天田の上半身は破砕した。
 人間離れした攻撃力を持つ天田。
 しかし結局のところ、その天田自身は人間に過ぎない。
 天田をコピーしたところで、防御力や生命力は魔物に及ばない。
 天田が天田を殴れば、一発でこうなる事は自明だ。
 偽・天田は、何も出来ないまま死んだ。 ――祈るべきものへの名も知らぬまま、私は贄を捧ぐ。
 一方、
「ザップ・マカブル!」
 喉が潰れて何一つ詠唱出来ない偽・沖田さんの頭へ、本物が蹴りを叩き込む。
 喉が再生しきるより先に、偽物の首が砕けた。
 沖田さん――黒の騎士を敵に回した場合、詠唱させたらおしまいだ。
 状態異常魔法にしろ、必殺技にしろ、僕ら人間が受ければ即死に至るものばかりだ。
 それを誰よりも知っている沖田さんは、自分のコピー品をがむしゃらに打ちのめす。
 偽・天田を片付けた本物の天田も参戦。
刹那万戦撃(せつなばんせんげき)!」
 偽・沖田さんに無数の打撃を加えた。
 ダンスを踊るように揺らぐ、偽・沖田さん。
 それが、ぐにゃりと形を変えた。
 これ以上の継戦は無駄と判断したのか。野田が、沖田さんの形状を放棄したようだ。
 本当に、本当に、沖田さんが味方で良かった。
 沖田さんが、敵でなくてよかった。
 戦況が順調なせいか、少し気がゆるんでしまった。
 けど、それも仕方な――、
 再び、大地震が世界をシェイクする。
 さっき春花さんと穂香が飲まれた時と同じく、野田は全身=町全土を震わせはじめた。
 そして。
 無数の肉柱が立ち上った。
 それらはどれも、人間の五体を形作って、
「あ……あ、ぁ……」
 白の騎士――水野君。
 赤の騎士――東さん。
 黒の騎士――沖田さん。
 天田。
 それらが五体ずつくらい現れて、僕らを取り囲んだ。
「うわあァあアああぁぁぁ嗚呼あァあ!?」 ――私が立つ、現世(うつしよ)と言う贄を
 誰かが凄い悲鳴を上げていると思ったら、僕の喉から迸ってる声だった。
 こ、ここ、こ、こんなの!
 無理、無理、無理!
 水野君のコピーが、弓矢を引き絞り、
 東さんのコピーが、魔剣を掲げて、
 沖田さんのコピーが、天秤を振りかざし、
 天田のコピーが、愚直に走り出す!
「ふ、ふ、ふざけんな!」
 本物の天田が、狼狽しきった叫びを上げる。
 お前の反応は、たぶん正しい。
「どどど、どうしろってんだ!?」
 沖田さんもパニクっている。
 本当に、全く同感です。
 ぁ、いや、そんな事考えてる場合じゃなかっ――、
 偽物天田の一人が、もう僕の眼前に踏み込んでいた!

 ぷつっ。

 そんな擬音が、僕の脳裏に聞こえた気がした。
「あぁアァ嗚呼ああぁアあアァあぁ!?」
 僕は咄嗟に何もできず、ただただ、偽・天田が三体、肉迫するのをガン見した。
 それしか、できなかった。
 けど。
 偽・天田らの拳が振り上げられた瞬間。

 奴らは、問答無用で細切れとなった。
 僕が視線を這わせただけで、その通りに、コピーどもがバラバラに刻まれてゆく。
 何と言うか、
 中二くらいの頃、下校中に、標識や柱を、手も触れずに(もしくは、手刀とか架空の剣で)切断する妄想をしたことはないだろうか?
 僕はある。
 それで今、年甲斐も無く“こいつらがこう斬れてくれたらいいなぁ”って思ってしまった。
 念じてしまった。
 どうやらそれが、魔法として具現化した。
 テンパりにテンパった僕の思考は、高純度の魔法エネルギーとなって、“切断”という現象を奴らにもたらしたのだろう。
 元の強度やレジストのセンスなど無視して、問答無用に。
 かつて小谷辺大橋で殺し合った赤の騎士――東さんが、よくわからんまま放った空気砲と、原理は同じかもしれない。
 ある意味、春花さんの加護を受けた僕には出来ない魔法だった。
 情けなくテンパった僕だからこそ出来る、単純明快な魔法。
 僕は、今はじめて、自分が異能に覚醒した事を感じられた気がした。
 僕が目で追うだけで、僕らを襲うコピーたちがバラバラになっていく。
 そして。
 ――虚空より来たりし虚無の回暦(かいれき)者よ。彼の地の墓標となれ!
 詠唱が完成した。

 ――カタストロフィ・エデン。

 どれだけテンパっても、この魔法思考だけは手放すまいと、そう思った。

 さっきと同じ。
 また空に穴が開いて、直径一キロを越す隕石が、大地にねじ込まれて。
 筆舌に尽くしがたい光と熱と音と圧力が、今度こそ、小谷辺の街に巣食った肉を洗いざらい消し飛ばしてゆく。
 野田さんの心を失い、自分の在り方さえも忘れた巨大癌細胞は、
 今度こそ跡形もなく消えてなくなった。
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