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アザトース・ゲート  作者: 赤沙汰月倫
ダンウィッチの残滓
5/10

ACT

 扉を開くとドアベルが鳴り店員が駆けてくる。お一人様ですか、いえ先客がいます、外見の特徴を伝えると店奥の席へと案内された。座っていた片桐綜馬が軽く手を挙げている。眼鏡をかけてやや長めの髪、実年齢よりも若く見える顔はホストでもやっていけそうだ。

 真人は片桐の正面に腰かけた。店員が水とともにメニューを差し出してくる。片桐が言った。「おごるよ、好きなのを頼むといい」

「じゃあ、カレーで」

 店員が厨房へと戻ると、片桐が眼鏡を押し上げた。「今回は力になれなくてすまなかったね」

「仕方ないですよ。あいつら、自分の姿を見た人間は絶対に逃がさないらしいんで。片桐さんに死なれちゃ困りますから」

「歯がゆいにもほどがある。僕の部署はそういうモノに対応したところだというのに。市民の危機を救えないで何が警察なのか」

 真人は苦笑した。「警察の仕事は法を守ることでしょ。人命救助はその延長線ですよ」

 片桐は不満げな表情を浮かべ、やがて溜息を吐きだした。相変わらず真面目な人だ、真人はそう思った。

「ところで」真人は周囲を見渡した。「喫茶店なんかで話していいんですか? 秘密の会話ってもっと違う場所でやりそうなもんですけど」

「お偉方は君を本庁に入れたくないのさ。彼ら、自分の身の安全が第一らしい」

 真人は頬杖をついてぼやいた。「理解できなくはないけど、結構きますねその対応」

「だけど見張ることに関しては手を抜いていない」片桐が視線で促す先には隣のテーブルに座る二人の男がいた。どちらもラフな私服を着て、注文した品に口をつけている。「同じ部署の奴らだ。後ろの席にもいる、元マル暴で荒事専門の係りさ」

 真人は冷めた視線を私服警官に送った。臆病なくせに監視には抜かりない、警察上層部の肚が透けて見えるようだ。

 真人は視線を戻した。「それで、俺の右目に関することらしいんですけど」

 片桐が頷いた。「僕の所属する警視庁公安第五課のように、アメリカにも超常的な現象や生物に対応する組織が存在している。今回その組織、『ACT』と連携をとることになった」

「へえ」真人は感心して言った。「Xファイルみたいな存在って本当にあるんですね。何の略なんですか?」

「AntiCreatureTeamアンチクリーチャーチーム。DOIがFBIと改名した頃に誕生したものだ」

 わかりやすい名前だ。真人は水を一杯口にした。「場数が違うって感じですね」

「実際経験も装備も向こうが上だろうな。国が広いだけあって日本と比べて超常的事件の発生頻度が非常に高い。発足には大学の教授が関わっていたのだとか」

「ふうん」

「ACTから来るのは三人、それぞれ発足に携わった人物の子孫だ。全員現役の大学生でもある」

「えっ」真人は片桐を見つめた。「学生が来るんですか?」

「向こうじゃ私立探偵が警察の捜査に協力するのも不思議じゃない。漫画や小説みたく、年若い者が事件を解決することだってあるのさ」

 国が違えば常識も変わる。真人は頷いて納得した。「で、そいつらが俺の右目をどうにかしてくれるんですか?」

「ハッキリと断言はできない。門となってしまった君の目を閉じる方法を試す、とのことだ」

 真人は眉間にしわを寄せた。「なんだそりゃ。要は俺で実験したいってことじゃないすか」

「腹立たしい気持ちはわかるよ」片桐が手で制しながら言った。「僕だってどうかしていると思う、できることなら断ってしまいたい。だけどもうACTからの出向は決定事項で、止めることはできない、今夜にでも飛行機に乗って十二時間後にはやって来る」

 真人は舌打ちした。「俺が出向かなきゃお互いの国の面目丸潰れってか」

 片桐が視線を落とした。「それだけじゃない。上層部は君を完全に危険視している。今回の協力で君の右目が封じられなければ……きっと君を消しにかかるだろう」

 しばらくの沈黙の後、真人は鼻を鳴らした。「今さらですよ。化け物にだけ襲われてきたわけじゃありませんし」

 自分の危険性は充分承知している。それを恐れて命を狙うのはいつも人間だった。理性を感じずに襲いかかる怪物の方がわかりやすい分、対処は楽だった。

 店員がカレーを運んでくる。スプーンですくって口に入れると妙に辛く感じた。真人は飲み込んで口を開いた。「とりあえず、その実験には付き合います。じゃなきゃ面倒そうですしね」

「すまないな」

「片桐さんのせいじゃないです。俺だってこの右目はどうにかしたいですから」

 片桐は立ち上がると千円札を差し出した。「準備があるから僕は戻るよ。明日のためにゆっくり休んでくれ」

 手を振って見送ると、後ろの席に座っていた客も片桐を追うように退店していく。見張りは二人分いたということか。

 人間扱いしてくれるだけでどれだけ救われることだろうか。隣のテーブルの二人を横目に真人はそう思った。

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