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reco240°  作者: いずも
7/30

-What's the dream of human beings stepping corridor of green linoleum?- 1-6 転→結/〆

 砂時計の中で、指輪を探していた。

 空からは雨のように砂という砂が降り注いできた。

 残り時間は後僅か。既に砂は十分の九は落ちてしまった。

 時計の長針はもう十二時を指そうとしている。


 折角掘り起こして探している場所にも容赦なく砂はこぼれてくる。

 立ち上がり、彼方へ視線を伸ばす。何処まで続くのか、この砂漠は。

 目に涙を浮かべながら、必死に砂をかき分けていた少女は諦めたように立ち尽くしていた。

 砂は相変わらず彼女の事情などお構いなく降り積もっていく。


 声を掛けたいのだけれど、何と話しかければいいか分からない。手を拱いていると、突如彼女の視線がこちらに傾く。

「ねえ、アンタが何でココにいるのよ?ボディーガードまで連れちゃってさ」

 どうやら彼女が認識したのは「ユメ」の方であり、自分はボディーガード扱いらしい――なんだ、どうやら「ユメ」を認識したのは彼女ではなく自分の方だったようだ。それまで横に誰もいなかったはずなのに、突然真横にユメがやってきた。正確に言えばそれまでも横に居たのかもしれないが、「存在を認識した」途端に姿を現した。彼女は勇ましくも足場の悪い砂漠をもろともせずに歩みを進める。その後ろに何とか付いていく――ここを砂漠だと思えば一歩一歩の足取りも重くなるのだが、ユメの軽い足取りを見て「ここは砂漠ではない」という認識で歩き出すと、驚くほど軽く踏み出せる。これが所詮「夢の中」なのだ。


 夢の中で我々は深淵を歩いているのだ。視線は前方のみを認識し、足元が砂地か泥濘か、そんなことは認識も確認もしない。「目の前に海が広がるから今は砂浜を歩いているに違いない」という思い込みのみで夢の中を過ごすのだ。雨の中、傘を持ち歩いているのだから足元はぬかるんでいると決めつける。もちろん、現実世界ではその限りではない。ブラウン管から美しい海が見えるからといって足元が砂浜なハズがないし、窓辺からレインコートと長靴の女の子を眺めたからといって、畳が泥濘に変わってしまうこともない。

 ここが砂漠だと思い込んでしまえば途端に汗をかき、日差しの強い、一歩を踏み出すのも大変な場所になってしまうが、そんなことはない。今、自分は平地を歩いているのだ。そう認識して足元を見ると、確かに平地なのだ。眼前には砂の降る砂漠地帯でも、足元だけは真っ平らな更地が広がる。砂漠との境目などは見えない。そんなものは「認識する必要のないモノ」なのだ。とにかく二人の少女の所に辿り着くことだけを考えればいいのだから。何もない深淵を「認識」つまりは「思い込み」によって塗り替えてしまえば良い。


 二人の少女の所に辿り着くと、何やら言い争っている。どうやらユメが探していたのは彼女で間違いなさそうだ。

 会話内容は聞き取れないのだが、不意に砂漠の少女(と便宜上名付けておこうか)がこちらを睨み付けると同時に思いっきり左頬を引っぱた――いってえぇぇ!!!!え、え?なんで?

「アンタのせいでまた逃げられたじゃない!どうしてくれるのよっ!!」

 砂漠の少女は刺々しく早口で捲し立てる。ユメが一瞬目を見開いたあと、何とか彼女をなだめようと努めている。自分は目に涙を浮かべて立ち尽くしているばかりだ。イタい。……夢でもイタいものはイタい。

「彼も突然のことでびっくりしてるよっ。ちゃんと説明してあげないと……。えっとね、彼女はユメオイってさっき説明したよね?キミが今見ている、この砂漠で指輪を探している夢ってのは本来他の誰かが介入しちゃいけない夢なの。ここでは彼女の記憶は無限だけど、人間の記憶は有限だから。あれ、これって前にも話したっけ?キミの見ている夢とこの子の見ている夢とが重なってしまうから、余った分は溢れちゃうの。1リットルの容器に互いが1リットルずつ水を入れたら半分はこぼれちゃうでしょ。それと同じこと」

 容量オーバーしてしまった分は不要なモノとして消去されてしまう、ということか。覆水盆に返らず。

「さっきは水って例えたけど、白の碁石と黒の碁石で例えてみるとね。容器の中には白黒の碁石がぐちゃぐちゃに混ざり合ってるけど、一つ一つを取り出していけば白と黒の碁石に分けることが出来るよね。容器の外に散らばってる碁石だって、掃除されて片付けられる前に分けて元の容器に戻しておけばちゃんと元通りに直せるよね。ボクならそれが出来るんだ、なんてったって夢の管理人だからね。キミの夢と彼女の夢、この二つを誰にも触れられないようにちゃんと保護して、碁石を色分けするように二人のこんがらがった夢を元に戻せばいいんだよ。ボクがそれをしてあげるから、ね」

 自分の中では未だに何が何だか理解しがたい状態だが、言わんとすることは分かる。要するに現状で自分が「砂漠の少女の見ている夢」を見ていられるのはおかしい、だから元に戻すとこういうことだろう。だが、元に戻すといっても具体的にどうするのか、どのくらい時間がかかるのか、不明瞭な部分が多すぎる。

「キミは物事を理解するのは得意だけど、理屈っぽいところがあるね。だからボクも妙に説明口調になるっていうか……。とにかくね、今すぐにどうこう出来る事じゃないし、今の所まだ何にも心配することはないから大丈夫だよ。強いて言うなら……一旦この夢から抜け出さないと。ほら、もうすぐ夜が明けるし、夢から目覚める時間だよ」

「あら、それならアタシがやってあげるわ。この男に一発くれてやって目覚めさせたらいいんでしょ?」

 暴力はんたーい。……あれ?なんでこんなギャグマンガ的な展開になってんの?

 夢だから痛くないとか、あれは嘘。痛みを感じないのは現実の身体に何も起こっていないからであって、外からの刺激に対して痛覚は普通に認識している。ベッドから転げ落ちた時、空から飛び降りる夢を見ているように、外部からの刺激には敏感な体なんです人間ってのは。寝ていて足の小指を打った時、銃で足を撃たれるリアルな夢を見たとか、夢の中で痛みを伴うってことはリアルでも痛みを感じてるわけで。さっき一発ビンタ食らったときは左頬がやけに痛かったです。虫歯かなー?さっきのは誤認ってことにしておくから、だからその手を降ろして、さぁ。

「ゴチャゴチャうるっさいわねぇ。アタシの名前はレコ、忘れちゃっても良いけど、折角だから覚えときなさいっ!」

 何それ、矛盾して――ぃいったああああぁぁぁ!!さっきよりもでかい一発がぁぁぁあがががが――――

「あはは、それじゃお別れ。お目覚めなさーい」



...



 何やらとんだ道草に、気がつきゃ夜明けの鐘が鳴る。

 話も落ちなきゃ寝落ちも出来ぬ、夢で寝落ちとはこれ如何に。

 所詮は夢。騒然と始まり、忽然と行方をくらまし、突然終わるモノなのです。


01話 死刑囚の見る夢は  完

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