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湊 遥の場合①

僕の名前は湊遥。

たった二文字の名前は独特だけれど、結構気に入っている。

時々女子と間違われてしまうのは昔は嫌いだったけど、今では慣れてしまった。


奏逢学園高等部1年A組。


ハイレベルな学校で成績は下の方、特技はベースが弾けること。

逆に言うと、それ以外全くといっていいほど取り柄はない。

まだこれから伸びると信じているけど、身長も165㎝と小柄で、中等部の体育祭では小動物が走り回ってると揶揄されたくらいだ。


ただ、良く言われるのは「湊の周りに居ると楽しい」

自覚はないが、結構人は周りに集まってくれる方だ。


そんな学校生活には満足しているし、勉強はさっぱり解らないけれど、いつも楽しい。

平凡なまま、3年間終えるんだと思っていたけれど、



この状況は一体なんだろう。



今、来たこともない、来ることはないだろうと思っていたライブハウスという所に居る。

そして横には、話したこともない別のクラスの人が居る。

だけど名前は知っている。

成績が学年トップの瀬名久遠くんと、何かと素行が悪いと評判の秋月響くんだ。


そして、ステージにはギターを持った一人の転校生、神城徠人くん。

夏が明けた2学期からA組に転校してきた、帰国子女という奴だ。

だけど、転校してきてからというもの、あまりクラスに馴染もうという気配はない。

色々と周りに質問をされても、めんどくさそうに答えている。

答えていると言っても、「あぁ…」とか、「そうだな」とか、質問する方の心を折ってしまいそうな物ばかりだ。


シルバーフレームの眼鏡をしていて、右目が隠れるほどの黒い前髪で表情は伺えない。

声など、自己紹介のときしか殆ど聞いたことがない。

最初は怖いと感じたくらいの人だ。


そんな彼が、突然声を掛けてきた。


「バンドやろう」


ただその一言だった。

僕がベースを弾ける話なんて一言もしていなのに、きょとんとしていると


「お前、ギターかベース弾けるだろ」


なんて言ってきた。聞けば、指を見て解ったらしい。

興味は合ったから、快諾した。

そして気づけば、4日後の金曜日の放課後にここに連れてこられたのだ。


そんな謎めいた彼が、今目の前で眼鏡を外して、ギターを持って、洋楽というやつを歌っている。

アップテンポなその曲には、思わずリズムを取りたくなってしまう。

素人目線で見ても、上手い。そして…男の僕から見ても彼はいわゆるイケメンだった。

初めて見た、楽しそうな顔をしている。



僕は誰かと一緒に音楽をやったことが無かったから、とてもうずうずしてきた。

一緒にやりたいと思った。



聞き入っている内に曲は終わり、気づけば盛大に拍手を送っていた。

瀬名くんも拍手を送り、秋月くんは驚いたのか開いた口が塞がっていなかった。


「この曲、聞いたことないけど?」


冷静に口を開いたのは瀬名くんだった。

瀬名くんは学年トップの学力を持っているし、なんだか洋楽とか聞いていそうな雰囲気だったから、

そういう分野にも精通しているのかもしれない。


「…アメリカに居たとき、自分達で作った曲だ。」

「…へぇ、凄いね。僕は感動したよ。」


神城くんはギターを置いて、ステージから同じ高さに降りてきた。その行動も慣れている。


「うん!僕もすっごい感動したよ!僕は神城くんと一緒にバンドやりたい!ベース弾きたいんだ!」


降りてきた途端に、僕は神城くんに近寄って興奮した声でそう言っていた。

そう告げた僕を見た神城くんの顔は、今まで見たことない優しそうな顔だった。


「うーん、まぁ、僕も興味あるから一緒にやろう。」

「…よっしゃ、俺もやってやるよ!…ただ、俺は素人だけど大丈夫なのか?」


僕の後ろから二人の声も聞こえた来た。

瀬名くんはキーボード、秋月くんはドラムで誘ったらしい。


「何とかなる。…叩き込むから。」



ここに、新たなバンドが結成された。



「バンド名は【es】」



「全員のコードネームは、湊がヨウ、瀬名がエン、秋月がキョウ、俺は…ライ」


「コードネーム?」


突然つけられた名前に聞き返す。


「学校の奴等に簡単にバレたらつまらないだろう。基本的には全部秘匿でやる。」


そこで、全員のメールアドレスを交換した。


「…改めて、神城徠人だ。これからよろしく。…遥、久遠、響。」


突然名前を呼ばれて、僕だけでなく、瀬名くんも秋月くんも驚いている。


「…いいだろ、バンド以外では。」


神城くんという人間は、取っつき難い人だと思っていたけど、意外とフレンドリーなのかも知れない。


「ふぅん、そういうところ、アメリカ人気質なの?」


瀬名くんも同じような事を考えていたのか、笑みを含んで神城くんに尋ねる。


「…別に、当然だろ…仲間なら。」

「ま、そういうことなら俺も賛成だ。よろしくな、徠人、遥、久遠。」

「うん!こちらこそよろしく!徠人くん、久遠くん、響くん!」

「うん、よろしく。徠人、響、遥。」


それぞれがお互いの目を見合って挨拶を交わした。


「とりあえず今日はこれで解散にして帰ろう。」


明日は土曜日だ。


奏逢学園は全寮制。帰路は皆同じ。

土日は自宅に帰ることも出来るが、たまたま皆寮に帰る選択をした。

ついこの間まで夏休みだったから、家に帰りたいとは思わなかったんだ。


僕らはそこで様々な話をして打ち解けた。


「徠人はここの生活には慣れた?」

「…いや、ここは規則が厳しい。」


久遠くんの言葉に、苦笑いで徠人くんは返す。

奏逢学園には確かに寮に規則があるけれど、そんなに厳しいと感じたことはない。


「ってぇことは、アメリカは相当自由だったってことか?」

「…まぁ、言葉さえ喋れれば何とかなった。」

「最初から喋れてたの?」


こういう集団の場で、僕は結構しゃべる方だったけれど、久遠くんの会話のペースに僕は付いていけない。

きっと彼は頭の回転が早いんだ。

聞きたいことがたくさんあるのに、なにから聞いていいか解らないんだ。


「いいや、小学生の低学年の頃は全然喋れなくて…苦労した。」


そんな小さい頃から英語を話す世界にいたなんて、英語が毎回赤点の僕には想像も出来ない。


「今はぺらぺらなの?えーじゃあ僕英語教えてもらいたい!」


同じクラスだし!

と付け加えると、少し困ったような顔をしたあと、頷いてくれた。


徠人くんは、歌っているとき以外は、最初のイメージから変わらない。

少し取っつき難いイメージはあるし、表情も豊かではない。

歌っていたときのように楽しそうな顔はしない。


だけど、最初のように怖くはない。




僕は、神城徠人くんに興味を持っていた。





僕らの世界が変わるとき

~湊 遥の場合~

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