人形の行進
ここは1年B組の教室。頭が痛いが、楽しそうだから移動してきた。僕は伍峰奏。覚の能力が使える、という点を除けば普通だと思う。………多分。
「うっわぁ……。何この混沌な風景……。見事に人形が行進してるねー」
「うぅ、頭痛い……。ん? 確かに凄いな。これ位出来るって事は、魔力も高いんだろうなぁ」
教室に入って最初に見えたものは、教室の床と机、椅子などに乗った、色々な姿をした、人形達の姿。騎士の格好をしたものや、姫、王様、忍者、魔法使い。動物の形を象ったものや、玩具もある。………ていうか、自分で言っておいてなんだが、種類、多すぎない? 作りすぎでは無いだろうけど……。
次に見たのは、楽しむ生徒の姿と怯える生徒の姿。まぁ、この学園だから怯える人は少ないだろうなぁ……。
確かに、混沌だ。
「か、奏ぇ……」
「こ、これ、なに………?」
あれ? まだ皆、原因分かってないんだ?
多分これは、彼の仕業のはず。
「クラスにさ、御巫そなたっているでしょ?」
「そ、その子の魔法、なの……?」
「うん。人形魔法、もしくは、人形使いって呼ばれてるんだ」
「人形魔法と人形使い………」
呆然とした様子で、言葉を繰り返す。ま、この魔法ならどんな状況でも驚くだろうけど。
「凄いよね。こんな量動かせるなんて」
「量もありますが、この人形、一人一人に人格があるというのですから。技術は生半可なものではないと思われますよ?」
後ろから突然声を掛けられ、驚いてバッと振り返る。問いが短いことに関しては、驚きすぎたと思っている。いや、って言うか、気配しなさすぎだから!?
「っ! 君はーーー」
「C組の春宮茜と申します。以後、お見知りおきを」
「僕はA組の伍峰奏。よろしく」
「奏様、ですわね。こちらこそ」
ふうん。妖精と精霊に護られてるって訳か。ということは、魔法も妖精と精霊のものである可能性が高いよね。
「………それにしても、三葉と肝心のそなたは何処に行ったんだろうね。この大変なときに」
思わず、そんな愚痴が口から零れた。と、そこで、茜から思わぬ情報がもたらされた。
「三葉様とそなた様でしたら、屋上でこの状況を楽しそうに眺めておられるそうですよ?」
「……何処でその事を?」
「妖精さん達が教えてくれましたわ」
……妖精さん凄いな。
僕と茜がそんな会話をしていると、歩き回っていた人形達が一斉に動きを止め、代表としてか、すたっ、と机にドレスを着た人形が飛び乗った。片手に乗るサイズだというのに、かなりの身体能力である。
「皆様! 驚いておられる方も多いようですが、私達からのサプライズプレゼントは以上で終了とさせていただきます。ご来場ありがとうございました」
「驚いてるのはむしろ、突然出てきたあなたにですけどね……」
「そうですか? 驚くような事じゃ、ないと思いますけど」
こて、と首を傾げる人形さんに、皆で首を横に勢いよく振る。
「いや、そんなことはない。えーっと……人形姫さん? ……それとも姫人形さん?」
「どちらでも良いですよ。ですが、マスターからは人形姫と呼ばれております。よろしくお願いしますね」
ドレスの裾を摘まみ、お上品にお辞儀をする人形さん……じゃなくて人形姫さん。可愛い。
「人格があるというのは、本当でしたのね。凄いですわ。ロマンチックです」
「ありがとうございますわ」
「そなたが君達の主人?なんだよね?」
「そなた? 一体どなたの名前なのですか?」
「えっ? そなたじゃないの……?」
御巫そなた、どこも間違えてないよね? 他に人形使いがいる訳じゃないだろうし。……関係無いけど、人形遣いなのか人形使いなのかどっちなんだろう?
「もしかすると奏。そなたって名前じゃなくて、遥の方じゃないの?」
「何で?」
「ほら。そなたって、漢字に変換すると、空に遥って書くの」
「そなた……空遥……。ああ、成程」
「でしたら、あなた方の主人は遥様なのですか?」
こくっ、と頷いて人形姫さんは声に尊敬と感謝を滲ませながら、話始める。
「そうですわ、と言っても少し違います。マスターの名前はソラハルカ様です。マスターは私達を生み出して下さった方なのです。本日はソラハルカ様の命により、このようなサプライズを仕掛けさせて頂きました。怯えさせるつもりは無かったのですが……申し訳ありません」
「ううん。楽しかったよ。ありがとう」
「まあ。本当ですか! お礼を言われるなんて……。嬉しいですっ!」
「ところで、いつまでこれは続くのかな……?」
キラキラ粒子を周りに振り撒きながらの笑顔で礼を言われた。って言うか、和んでる暇なんて無いんだった。和やかなのは僕と茜だけで、次第に余裕の態度で見守っていたクラスメイトも、怖がっているクラスメイトに巻き込まれ、阿鼻叫喚の有り様だ。
……もっとしっかりして……?
「申し訳ありません。ソラハルカ様の命令でないと、止まらない仕組みになっておりまして」
「しょうがない。屋上に行って、連れ戻して来るか。ちょっと待っててね。私が行ってくるから」
「任せるよ。飛鳥」
「りょーかい」
それにしても、人形魔法か……。楽しくなりそうだな。僕のまだまだ知らない魔法がたくさんありそうだ。
* * * * * * * *
「三葉ー。そなたー。いるかい?」
屋上の扉をギギーッ、と開く。直した方が良いんじゃないか? ここ。
「あれ? 飛鳥。どうしたの?」
「そなたには人形を止めにお願いをしに。三葉にはーーー用があってね」
「嫌な未来でも視たのかな。ごめん、そなた君。席を外してくれる?」
用事を伝えると、三葉はこちらの意図を察して動く。短い付き合いだけど、三葉の凄さには驚かされる。何者なんだろうなあ、気になるなあ。
「……了……」
「では、参りますぞ。ソラハルカ様」
「…………」
肩に人形を乗せ、そなたは校舎の中に戻っていった。
キィィィィ。バタン。
「で、何が視えたの?」
「転校生の姿。女子だったよ」
「転校生ねぇ。それって、何かの転生者かな。それとも、魂だけの存在?」
何も言っていないのに理解した三葉に、声を出さないように驚く。表情が少し歪んでしまったが、多分見ていないフリをしてくれることだろう。
「多分、魂だけ。肉体はあるけど、あれは本当の肉体じゃないと、私は思うよ」
「へぇ……魂だけ、か。楽しそうだね。飛鳥」
「楽しいのか? 入学式が終わったばっかりなのに? 仕事が増えるんだよ?」
「飛鳥は楽しく無いの?」
「楽しそうだとは思うけど……。準備とか、」
生徒会役員でもやることがありそうなのに、会長となれば更に増えるだろう。そう思って質問したのに。
「ああ、その点は平気だよ。そういう類いの準備が好きな人がこの学園にはたっくさん、いるもんね。それに、来るのは二ヶ月後なんでしょ? そのくらい時間があれば、問題は無いよ」
「相変わらずだね、三葉は」
くすくすっ、と三葉が笑う。
「それは誉められているのかな?」
「そうさ。三葉は変わらずにいてくれた方が、安心するよ」
「そう? じゃあ、そうしようかな」
「明日の予定は?」
しょうがないじゃないか。思い立ったらすぐ実行。忘れてしまっては元も子もないしね。
「いきなり、話題が変わったね。明日の予定はねぇ、学園の禁止事項を話そうかなーって。ついでにこの話も」
「パニックにならないかい?」
「なったとしても、全力で止めるし?」
なんてこと無さそうに、にこにこと笑って三葉は応えた。頼もしすぎる答えにこっちも笑い出してしまう。
「怪我だけはさせないようにな」
「もっちろん♪ あ、それと。女神様にも会わないと……。ううん。予定組むって、難しい……」
「女神様?」
「駄目だよー。ひーみつっ」
「教えてくれないのか?」
「だって飛鳥、調べれば分かっちゃうでしょ?」
それは確かにその通り。
「でも……」
「女神様って、綺麗なんだよー。想像して待ってた方が、楽しみは増えるんじゃない?」
「そう、だな。分かった」
「良かった良かった。じゃあ、準備を始めるとしようか」
「そうだね」
ここから、楽しい一学期が始まる。最初は魂だけの転校生。どんな奴なのか、面倒事だとは思うけど楽しみだ。
ただしこれだけは伝えよう。
「皆に怪我をさせたら許さない。覚悟していなよ?」
いやー、人形魔法って、使ってみたいですねー。
持っているぬいぐるみと話したり、夢が膨らみますな。
次回からは、流行にのってみたいと思います。
あの設定が魔法で対抗すると、どうなるのか。書いてるこっちも楽しくなってきます!