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彼女のループ線

「それじゃー 幸太郎、開幕よ、ひゃー!」

メメナはショッピングモールのど真ん中で堂々の宣言。

でもそれは俺にとっては死の宣言だ——


「まだ買うのかよ…」

「買うの、買えるだけ」


「もう持てないよー、勘弁してよー」

「男がへばるな、まだまだよ」


「両手死ぬよ……」

「死んでも頑張って、ヒロが持ってるのはヒロの命より重い物なんだからね」


「………」

「息してない⁉」


——そんな言葉が飛び交うこのショッピングモールは、すでに地獄と化していた。


この絶対的な状況に思わず息を飲む、絶対王制ならぬ絶対彼女。



「あのー……あんまり買わないでほしいんだけど………」

この場に圧倒されて声が小さくなってしまう、俺のなけなしの願い。

メメナはこちらに振り向くとニヤリと笑い


「男は……道具だ!」

はい、男は道具だそうっす、はい。理不尽なお言葉いただきました、はい。


「はぁ…全くなんて考えだ…人権無視かよ……こうやって奴隷制度が初まったんだよな、きっと。悲しい世界だな…」

俺の遠回しな反論、メメナよ、聞き届けよぉぉ!


「男は……奴隷だ!」

「言わんでよいわ!」

「では奴隷よ、主人である私の為に働くのじゃ、今すぐ買いに行くぞよ?イッツレディーゴーおひゃひゃひゃひゃ」

「俺の反論まさかの逆効果だったよ!」

そんな俺を傍らにメメナは高らかに笑っている。

こんなに人がいる中でこんな変な高笑いしてたら十分に注目を得そうな物だけどな——


「さっさと来い!このうすのろ!ヒールで脳天打ち抜くわよ!」

「はいぃ!アリサ様!ありがとうござぃす!」


見てしまったー!強力なSMプレイヤーがいるー!、ってかあのカップル大丈夫かよ、明らかに常軌を逸してるんだけど。


M男の方は山積みの紙袋のせいですでに前が見えない状態。S女はそれを見向きもしないでずんずん進んで行く。


「遅い!次の店行くわよ!」

いや無理だろ、M男は前が見えないんだぞ。


「はいぃ!」

M男はそんな俺の心配などもろともしない様に、軽快なステップで人混みを避けて、見事にS女の元へと走って行く。

うわーすげ〜、愛の力っすか?めっちゃ通りすがりの人達に横目で見られてんだけど。

まぁ、人ん家の心配なんか別にいいか、とりあえずこっちが目だってなくてよかったわ。


「ひゃーひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「まだやってたんかい!そろそろやめろよ!」

メメナはその事には特に言い張る事はなく、俺が指摘したら普通にやめてくれた。

魔王の妹ってだけあって常識はわきまえてるみたいだな。

でもその代わりに——


「早速行くわよ〜、レディーゴー!」

地獄が始まった。いや、色々な意味での



◆◆◆◆◆◆◆◆◆☆◆◆◆



「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・私の言うとおり!あー…これね………ど・れ・に・し・よ・う・か・な・私の言うとおり!あー…これね………ど・れ・に———」

「決めろよ!」

俺は何度も何度も幾度も幾度もループを繰り返すメメナに怒号一閃。

読者のみなさんはご存知無いと思うけど、メメナはこんな調子ですでに30ループはしている、どんだけだよ、どんだけ気に入った服ないんだよ。

流石に穏和な俺だとしても、こんだけやってればシビレを切らす。

メメナは俺の声に驚いた様で、目をパチクリしている。でもその顔も拗ねた様な表情に変わる。


「えー、だって良いのが無いんだモノローグ」

「誰が一人芝居だ」

「んー私?」

「自覚あったんかい!」

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・私の——」

「始めるな!」

何なんだこの娘は!疲れるわ!


「だってー、良いのが無いんだモノ———」

「やめれ!ループに持ち込むな!」

ハァハァ…ヤバすぎる……こやつかなりのやり手だ……。

そんな俺の必死な抵抗をあざ笑うかの様に、メメナはムフフとにやけて


「失笑w」

ムキー!ムカつく!ム・カ・つ・く!

マジで失笑な所が更にムカつく!

だがここで怒るのは紳士じゃない、男として抑えるんだ、あくまでクールにクールに行こう。


「そうかい、俺は爽やかだから軽く流しチャウダー」

ヤバイ、俺ぎこちない。しかも流しチャウダーって……一体何だ!何かメメナにつられちゃったよ!あァァア!ミステイク!

でもそれは表に出さない、見た目はクールにやり過ごす。あ、やべえ、冷や汗が……


「流しチャウダーって何?ははははははははははははは流しチャウダーって……はははははははははははははささささ」

失笑していたメメナは腹を抱えて笑っている、あれ?結構盛況?ミステイクじゃなかったの?


「流しチャウダー……」

疑問に思いながらも、試しにもう一度言ってみると


「やめて!面白過ぎる!ははひはははははは」

これは真面目に爆笑してる、ミステイクがまさかの正攻法だったとは、分からないもんだな。

俺はもっと笑わせてやろうかと思ったけど、これ以上は収拾がつかなくなりそうなんでやめておく。だって店員さんの目が怖いんで……


散々笑ったメメナ

「あ〜面白い、も〜私を殺す気なの?」

目尻の涙を拭いている、どんだけ笑ったんだよ。まだちょっと笑ってるし


「まさか、そんなに笑うとは思ってなかった」

「いやー、私のツボって浅い」

「浅いってゆーか、人と違うって感じだな」

「当たり前っしょ、だって私って地上界の人間じゃないし」

へー魔界の人ってこんなので笑うのか、こんなのって言い方はちょっとアレだけど。なら今度“みんな”にやってみようかな?でもそれだけの為に呼び出すのは気が引けるし……いやでも試してみたいし……

メメナはそんなどうでもいい事で悩む俺を無視すると


「ど・れ・に・し・よ——」

「おいおいおい、ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待ってくれ」

俺はメメナの肩を掴んで行動を制する。

メメナはキョトンとして「何?」と振り向く。


「まだ続けるのかよ、それ」

呆れ顔の俺、もうやんなくていいだろ、そんな意味ない事は。


「えー?だって良いのが———」

バッ、俺は手で制する。


「その先は言わなくていい」

このままだとこの娘は同じあやまちを犯す、それはつまり話が進まない、それはつまり話が終わらない、それだけは回避しないとダメだ。そこで考えてみる、どうやったら話が終わるのかを、その答えは


「俺が服を選ぶ」

「え?幸太郎が?え?ワッツ?ワァイ?パードゥン?ドゥンパー?」

めっちゃ目をパチクリさせて何度も聞いてくる、どんだけ意外だったんだよ。


「いや、だから、お前が選ぶと永遠に終わらないから、俺が代わりに選んでやろうかなって……」

ナニコレヤバい、恥ずかしい。何でこんなに照れるんだ、ただ服を選ぶ発言しただけなのに何故にこんなに気恥ずかしいんだ。

そんなちょっと挙動不審な俺を片目に


「何それ?失笑」

口に手を当てその字の如く失笑する。


「失笑すんな!俺の心配りを踏みにじる気か!」

「べっつに〜、幸太郎のセンスはいかほどかなーって思っただけだわさ」

あっけらかんとして頭の後ろで手を組むメメナ。


「おいおいおい、俺を見くびってもらっちゃ困るな、やる時はやる男とは俺の事だ」

「本当にー?」

「俺が嘘をついた事があるか?」

「多分ない……と思う」

「だろ?」


メメナは少し考えた風に上をみる

「んー、じゃー………お願いしよっかな」

はにかむ様な笑顔を俺に向けると、メメナはクルッと俺に背を向ける。

よっしゃ、任された。


「よーし、待ってろよ。お前に似合う服を漁ってくる」

俺は意気揚々とジャージ姿の背中に宣言、そしてさっそく店内を物色する。

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