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着替えを済ませて戻ってきたユエにランスは問いかける。
「お前さ、剣はどこでおぼえたんだ?」
ユエはお茶を用意しながら、剣を横目で一瞥した。
「覚えていると思うのか?」
「まあ、そうか」
そう言うと、ランスは考え込むように腕を組んで首をかしげる。それを見て、ユエは冷たく言い放った。
「無い頭で考えるな。無駄だ」
「相変わらず酷いな。俺泣いちゃうかもよー?」
「お前の神経がそんなに細い訳ないだろう」
「ハハハ……」
乾いた笑いをあげ、がくりと項垂れる。分かっていたことだが、ユエには口で勝てそうにない。
一瞬だけ落ち込んで、表情を引き締める。
「真面目な話、さ。お前の剣の腕って相当なモンだろ。村じゃ誰もお前には敵わない。年取ったとはいえ、勲章貰うような兵士だったじっちゃん結構いるんだぜ? この村」
「……何が言いたい?」
「だから、そんだけ強いなら、教えた奴はお前より強いんだよな? そんな奴ならきっと国中に名が知れてるだろ? そいつが分かれば、記憶が戻るかも……あっっっつ!!」
ユエは淹れたてのお茶が入ったカップを叩きつけるようにランスの前に置いた。狙い道理にはねた飛沫がランスの手にかかり、彼は悲鳴をあげた。
「何すんだよ!!」
ランスはユエを睨み付ける。ユエは一歩も引かず、怒りに満ちた目で睨み返す。彼女がここまで感情をあらわにするのを、彼は久しぶりに見た。
「黙れ。これを飲んでさっさと帰れ。いや、飲まなくていい。今すぐ帰れ」
そう言うと、ユエはカップを手に取り、中身を床にぶちまけた。ついでにカップも床に叩きつける。
あまりの事にランスが動けないでいると、ユエは剣を手に玄関に向かう。
「私が出ていった方が早そうだ」
我に返ったランスは慌ててユエの腕をつかむ。
「ちょっと待て。何で急に――」
瞬間、ヒヤリとした感覚がランスの首もとに訪れる。見るといつ抜いたのか、ユエが喉元に剣を突きつけていた。
「離せ」
殺気を含んだ言葉に、おとなしく手を引く。
ユエは何事も無かったかのように剣を納めると、ランスに目を向ける事もなく、再び歩き出す。
その背に、ランスが言葉を投げる。
「そんなに嫌か?」
ユエは立ち止まる。ランスは、もう一度言った。
「そんなに嫌か? 自分を知ることが」
ユエは答えない。
「もしかしたら、ユエを探している人がいるかもしれないだろ? その人たちに会いたいって、自分の事知りたいって思わないのか?このままでいいのかよ!!」