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花は熊に何を求める

「試験お疲れ!」

「まだ結果出てないけどな」


「まあ、いいじゃない。久しぶりに飲む時間出来たんだから」


 国家試験が終わり、一息ついたので、久しぶりに理子を誘って「よりみち」にきた。まだ大学も終わってないし、試験結果も気になるが、久しぶりにゆっくり理子と過ごせるのは嬉しい。

 二人で会うのはあの告白未遂以来だが、以前とまったく変わらなかった。俺が告白しかけた事もなかった事にされて、友達のまま。そこそこ楽しいけれど歯がゆいままだった。


「私も飲むの久しぶりなの」

「俺以外にも誘えば付き合うヤツいるんじゃないか?彼氏とか沢森って友達とか」


「沢森さん最近仕事忙しいみたいなのよ。私も同僚の仕事肩代わりして、残業続きだし。それに今彼氏いないし」

「は?彼氏いない?嘘だろ?」


 常に男が途切れない理子なのに、信じられなかった。


「本当よ。もう何ヶ月たったかしら?」

「キープとかも?」


「キープ彼氏は振っちゃった」

「振った?何かされたのか?」


「何も。ただキープとかいって、たいして好きでもない男に時間使うのもったいない気がして」

「おまえ熱でもあるのか?病気なんじゃないか?」


「ひどい!何よその言い方」

「あまりに今までの理子らしくないから……」


「多分……当てられたかな……。同僚の仲いい女の子がね。仕事も恋愛もまっすぐで不器用で……。でもちょっとそのまっすぐさが眩しくて羨ましいな……と思って」


 理子がそんな風に誰かを羨む所、初めて見た。理子の心を動かす程、仲のいい女友達ができたのが、俺は素直に嬉しかった。


「良かったな。いい友達ができて」

「うん。フォローが大変何だけどね~。許せちゃう」


「じゃあ、理子も玉の輿狙い辞めて、その子みたいに一途な恋愛でもする気になったか?」

「羨ましいけど……そう簡単に気持ち切り替えれないよ。玉の輿は私の目標だったし。私も24だから、そろそろ結婚とか焦る年だし……それに……」


 そこで理子は目を伏せて、何か迷うように言葉をとぎらせた。


「私ね。今お見合い話がきてるの」

「お見合い?」


 理子の口から直接話してくれたのは初めてだ。嫌な予感がする。


「相手はエリート官僚で高級とり。仕事が忙しいから、女遊びも変な趣味もなく、裕福なセレブ妻確実の有料物件何だけどね……」

「だけど何だ?」


「仕事が忙しいから、奥さんには専業主婦で家を守ってほしい人みたいなの。でも最近仕事面白くなってきたし、同僚の子が気になるし、まだ仕事辞めたくないな……って」

「じゃあどうするんだよ」


「どうすればいいと思う?タケ」


 理子の目が、俺に何かを求めている気がした。止めてほしいのか?それとも背中を押してほしいのか?なぜ俺に聞く?友達としてただアドバイスが欲しいだけなのか?

 

「俺に聞くな。自分で決めろ」

「……うん」


 理子は明らかに落胆していた。だけど俺の方が落ち込みたい気分だ。理子が他の男と結婚して、手の届かない所にいってしまうかもしれない。

 そう考えただけで酒がまずくなった。


 いまだ理子は迷っているようで、一方的に見合いの日取りや場所を話ながら、俺の様子をうかがっていた。

 俺の告白をなかった事にして流したのに、今更何がしたいんだ。俺はイライラしてキツい言葉が出てきた。


「もし理子が見合いして結婚するなら、もう俺達こんな風に飲んだりできなくなるな」

「どうして?」


「友達っていっても、男と二人で飲むなんて旦那がいい気分しないだろう」

「でも……今まで彼氏いてもタケとは会ってたし。言わなければ……」


「恋愛と結婚は違う。浮気を疑われるような事はするな」


 理子はショックを受けて呆然としていた。俺は当然の事を言っただけなのに、理子が何故これほどショックを受けるのかわからない。

 これ以上一緒にいても楽しい酒になりそうもないな。俺は自分の分の金をテーブルに置いて立ち上がった。

 その時理子が俺の袖を引いて引き止めた。


「友達ならずっと一緒にいられると思ってた……。でも友情も永遠じゃないのね……」

「そうだな。それが嫌なら見合いも結婚も辞めて、一生独身でいろ」


 理子は悲しげに目を伏せて言った。


「それは無理ね……。私お見合いするわ」

「そうか。じゃあな」


 最後というにはあっけないほどの別れだった。



 それからしばらく俺はずっとあの日の事を後悔していた。意地を張らずに見合いなんてするなと言えば良かったのか?あんなキツい言い方じゃなく、もうちょっと違う言い方もできたんじゃないか?

 あの時理子は俺を引き止めた。俺と会えなくなるのを寂しいと思っていたのだろうか?だったらまだ俺にも可能性は残っていたんじゃないだろうか?


 そんな風に迷いながら見合いの日は近づいていった。



 ある日。満員電車の中でぼんやりと立っていた。考え事で油断してたせいで、列車が急停車したのに対応できず、体勢を崩して隣の人間に思い切り寄りかかってしまった。


「すみません……」


 隣にいた人間に謝りながら、驚きのあまりそのままその相手を凝視してしまった。


「いえ。気にしないでください。……あの……何か?」


 男は俺の態度に困惑の表情を浮かべた。当たり前だ。この男は俺の事を知らないはずだ。

 男は沢森だった。

 そしてその時思った。理子は沢森の事を友達と言っていた。この男にも、見合いをするかどうか相談したのだろうか?

 気になって思わず話しかけた。


「突然すみません。沢森さんですよね」

「はい。失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」


「いいえ。前に理子と一緒だった所を俺が見かけただけで」

「理子ちゃん?……の友達かな?だとするとタケ君?」


「はいそうです」


 理子は沢森にも俺の話をしていた。どう話していたのか気になる。


「なるほど……」


 意味ありげに俺をじろじろ見る沢森。理子のヤツ、俺の事をどう紹介したんだ?


「あの……理子がお見合いするって話聞いてますか?」

「らしいね。忙しくてあんまり連絡取ってないから詳しい話は聞いてないけど。でも今まで何度も見合い話来てて断ってたんでしょ。今回もそうじゃないの?」


 俺には初めて見合い話したのに、沢森には話してたんだな。それが悔しい。


「でも今回は本気みたいですよ」

「まさか!」


 沢森は大げさに驚いて笑った。まるでたちの悪い冗談を聞いたみたいに。でも俺の反応から冗談ではないとわかったみたいで、困ったような顔をした。


「理子ちゃんはタケ君を待ってるんだと思ってたけど」

「俺を待ってる?なんで?」


「本当は会いたいのに、頑張っているところを邪魔したくないって、会うの我慢してたみたいだったから」


 理子が俺を待っててくれた。それが本当ならどれほど嬉しい事だろう。でもだったら急にお見合い話を出したり、それを俺に相談したのはどうしてだ?

 もしも本当に理子が俺の事待っていてくれたのなら……。俺も覚悟を決めるしかない。

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