まずは自己紹介から
少女が落ち着くまでしばらく周りを見ながら考える。
ここの世界の皆がみんな獣耳という訳では無く、むしろ珍しいと言うことは、もしかしたらまだ『日本』に居て、少し場所と季節がずれただけかもしれないという希望的観測ができるかもしれないということだ。
そんなんだったらどれだけマシなことかと思いふける。
「ぁう、ありがとうございます。……もう大丈夫です」
まだ少し涙声だったけど、さっきよりかはだいぶ落ち着いたみたいだ。
そっか、と応えて少女の頭をぽんぽんと、撫でてやる。彼女の背丈はそれほど高くなく、見た目で判断するならたぶん中3くらい、年齢でいうと15歳くらいだろうと思う。
自分とはそれほど年も変わらないけど、なんとなくやってみた。
すると、彼女は一瞬戸惑ったかのように身体を強張らせたが、そのうち顔を綻ばせながら身を預けてきた。
「ご主人様の手、暖かくて、大きくて、安心できます」
そんな彼女の言葉が少し照れ臭くて、目を逸らした。
「えと、自己紹介がまだでしたね。私はたまもと申します。そのままたまもと呼び捨てにして下さい」
「ん、了解。俺は冴木謙吾だ。俺も呼び捨てでいいぞ? ご主人様はなんだか恥ずかしいし意味分からんし。ていうかなんでご主人様?」
「ちょっと前に、殿方はご主人様と呼ばれるととても喜ぶという話を聞きましたので♪ それになんだかこの呼び方が気に入ってしまいましたので、このまま『ご主人様♡』とお呼びします♪」
気に入ったって……
俺は呆れ混じりに嘆息する。
ホントはどっちでもいいんだけどさ?
そんな事を考えてるとお腹が空いてきた。
「そろそろご飯にしましょうか? といっても食材はこれから狩に行かないとありませんので」
狩だと?!
「はい。あれ、わたくし何か変なこと言いました?」
「いや……、大丈夫だ。でも俺何にも持ってないぞ?」
「いえ。ご心配なく。狩くらいならわたくし1人でもどうにかなりますから。あ、でも、ご主人様も一緒に着いて来て下さいね?」
そう潤んだ瞳で上目遣いをするたまもに一瞬ドキッとする。これ天然でやってる?
「分かったから、大丈夫。心配しんでも着いてくって」
「ありがとうございます♪ ご主人様♪」
嬉しそうにしてるたまもを見てると、こっちまで嬉しくなってくる。最初は意味不明過ぎて混乱してたけど、別に悪くないかもなと、思い始めてきた。