扉の先は
彼こと、冴木謙吾の実家は剣道の道場をやっている。謙吾も当然ながら道場で稽古をしている。
謙吾は幼い頃から剣に触れ、欠かさず毎日剣を振り続けていた。
いつしか謙吾が大きくなり、必然と剣の腕も上達していった。
その頃には神童と呼ばれるくらいに腕を上げ、周囲の名声を欲しいままにしていた彼だったが、高校に上がると同時に剣を捨てた。
そんな彼が今何をやっているのかというと、
「ありがとうございました。」
私服にエプロンと紙製の帽子。コンビニでレジ打ちのバイトをしているのだった。
「ふぅ、じゃ先輩。そろそろ上がりますんで」
謙吾は帰り支度をしながらバックヤードにいた先輩に声をかけた。
先輩は、おつかれと、片手をあげて応えた。
裏口から出て帰路につく。
高校に入ってからすぐバイトに入った。
とくにやりたいことは無かったのだが、流石に家に引きこもってるのはどうかと思ったからだ。
それに、家に帰ったところで親がうるさいだけだし、ど田舎なこの地元では周りに時間を潰せるような場所は無い。
「はぁー。今日も疲れたなー」
と、1人ぼやく。
時刻は20時を回った頃だ。
最近は法律も厳しくなり、夜中までバイトができないのである。
まぁ、野球部の奴らはだいたいこんな感じくらいの時間に帰り支度をしていると思うと、部活やってるよりかは、お金がたまるバイトをやって正解だとは思うかな?
そんな事を考えながら、歩を進めていると、いつの間にか目の前に、真っ黒な大きな扉があった。
大きさは大体3mくらいだろうか。
……………
いきなりファンタジーすぎてついてけない。
いや、マンガじゃあるまいし。と、内心でつっこむ。
試しに裏に回ってみても扉の先はなく、ただのいたずらにしてはちょっと凝り過ぎだと思う。
ただ交通の邪魔にはなっているので、悪戯をしたのなら成功とは言えるだろう。
まぁ、ど田舎ですから車なんてほとんど通らないんだけどな。
すっごい気になる。開けても問題無いよな?
内心ドキドキしながら、そっと扉のノブに手をかける。
よし、いくぞ!
ガチャ
ドアノブを回すとそこには……
「いらっしゃいませ、ご主人様♡」
礼儀正しく三つ指つけてお辞儀をする狐耳(?)の少女がいた。
即刻扉を閉めたい衝動に駆られて、閉めようとするが
「て、ああぁ!? チョット何やってるんですかご主人様!? ほら早くコッチにきて下さいって!」
と、狐少女に手を掴まれ、そのまま引っ張りこまれる。
扉から向こう側に足がついた瞬間、黒い扉は上の方からスゥーっと消えていった。
アレ?
退路がない?
「まったくぅ、あんまり勝手なことしないで下さいね? ご主人様。」
なんだか理不尽極まりない事言われつつ、とてもファンタジーな出来事にあった模様です……